文芸研究Ⅱ 下原ゼミ通信No.174-1

公開日: 

日本大学芸術学部文芸学科     2011年(平成23年)9月26日発行
文芸研究Ⅱ下原ゼミ通信No.174
BUNGEIKENKYU Ⅱ SHIMOHARAZEMI TSUSHIN
                             編集発行人 下原敏彦
                              
9/26 10/3 10/17 10/24 10/31 11/7 11/14 11/21 11/28 12/5 
12/12 1/16 1/23
  
2011年、読書と創作の旅
9・26下原ゼミ
9月26日(月)の下原ゼミガイダンスは、下記の要領で行います。ゼミ2教室
1. 通信174配布 出欠 連絡事項「後期ゼミについて」 
2. ゼミ雑誌編集会議 決定事項報告、原稿提出 ゼミ誌作成予定
 
 3.  私の夏休み報告・提出課題作品の発表(感想)
4. テキスト読み(出来事観察作品)・名作の観察作品
    
後期ゼミ開始
 いよいよ今日から、後期の旅がはじまります。後期は、車窓観察ですが、実質的には以下の課題を中心に進めていきます。皆で協力しあって、2011年の旅を有意義なものにしましょう。課題の優先順位は、次の通りです。
 第一に実施、ゼミ雑誌『旅路報告』編集、納品12月12日(月)迄
 後期の第一目標は、ゼミ雑誌を納品期日までに刊行することです。ゼミ誌は、ゼミにおける最低基盤です。人任せにしないよう一人一人「よい雑誌をつくる」、そんな自覚と意欲を持って当たってください。
第二に実施、授業内容は「車窓観察」から創作へ
 後期は、車窓観察を行います。車窓に映る様々な出来事。テキストは事件を扱ったもの。名作は、家族観察としてジュナールの『にんじん』他をとりあげます。
第三に実施、12月12日(月)合同発表する模擬裁判の稽古
 毎年12月の最終ゼミでは山下ゼミ・清水ゼミ三ゼミ合同発表会をおこなっています。今年も予定しています。下原ゼミではテキスト作品のなかから事件ものを寸劇にして模擬裁判を発表しています。テキスト『兒を盗む話』or『范の犯罪』、もしくは名作の事件脚色


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車内・自分観察(テキスト・自己)→ 車窓観察(出来事)→ 観察+想像 → 創作作品
文芸研究Ⅱ下原ゼミ通信No.174―――――――― 2 ―――――――――――――
夏休みの車窓風景
 今年の夏は、様々な出来事がありました。政治は、新しい首相と内閣の誕生。新大臣の失言と辞意。自然災害は、記憶も新しい台風による被害続出。事件は、一斗缶に切断遺体詰め込みなどの猟奇的の他、相変わらずの幼児虐待。外国に目を向ければなかなか捕まらないリビアのカダフィ大佐。なでしこジャパンの世界優勝というのもありました。
 特急列車のように過ぎて行く車窓の光景ですが、この一カ月ばかり目についた車窓を、ランダムに取り上げてみました。(読売・朝日新聞 朝夕刊見出しから)
8月22日(月)だまされる消費者心理 裁判官が学んで審理 衝動的に里子暴行か
8月24日(水)カダフィ政権崩壊 島田紳助さん引退でTV各局対応に追われる。
        死体遺棄容疑の男 一斗缶の管理を担当 遺体は妻と長男
8月27日(土)断食抗議、インド揺さぶる 7歳長男を虐待死 母親と義父
8月30日(火)民主代表に野田氏 
9月 1日(土)野田内閣発足 子ども150人過剰被曝
9月 3日(土)60日かけ裁判員裁判(大阪の放火殺人事件)過去最長 ノロノロ台風
9月 5日(月)台風12号22人死亡55人不明 OL殺人「別人の血液型」捜査時検出
9月 8日(木)ブラックホール位置特定 ET探査計画再開 つまみ酷似操作ミス
9月 9日(金)核実験の地、除染進む なでしこ五輪切符 失言・原発周辺「死のまち」
セディバ猿人現代人祖先?南アアなどのチーム、再検討結果【ワシントン=山田】南アフリ
カで2008年に見つかった198万年前の新種猿人「アウストラロピテクス・セディバ」は、
現代人の祖先だとする再検討結果を、南アフリカのウィットウォータースランド大などの国
際研究チームが9日付けの米科学誌サイエンスに発表した。セディバは現生人類につなが
る原人の祖先の候補、とする昨年の論文に批判が寄せられたため、研究チームが化石を詳し
く調べ、骨格の特徴などから、従来有力視されてきた「ホモ・ハビリス」よりも有力だとす
る考えを示した。同大のリー・バーガー教授は、南アの洞窟で発見した成人女性と少年の全
身骨格の細部を詳しく調べた。脳の形は現代人に似ているものの、大きさは小さかった。ま
た、手の骨は指で物をつかめる構造で道具をつくれたとみられる一方、木登りにも適するな
ど、猿人の特徴と、その後のホモ(ヒト)属の特徴を併せ持っていた。ただ、全体としては
小さい脳や長い手から判断して、ホモ属ではなく、猿人に分類した。
9月10日(土)米大統領機情報漏えい 福島県民「移住希望」34%「放射能つけちゃうぞ」
9月11日(日)鉢呂経産相自任  避難8万人復興遠く(大震災から半年)
9月13日(火)八ッ場ダム「建設が最良」 100歳以上の女性4万人突破
9月14日(水)能登沖脱北9人保護 韓国へ亡命希望
9月16日(金)2つの太陽持つ惑星発見(まるでスター・ウォーズの世界)
国語世論調査・語幹のみの形容詞広がる「寒つ」「すごっ」「「うるさっ」・・・
本牧亭63年の歴史に幕(唯一の講談定席、24日閉場)ソマリアの洞窟魚1日が2倍に。
9月17日(土)秋の味覚東北試練(原発事故で) 大相撲空前の不入り
南スーダンに陸上自衛隊PKO(施設部隊300人規模)
9月19日(月)リビア暫定政府発足へ(反カダフィで国民意識)
9月20日(火)母に命じられ売春・覚せい剤16歳少女逮捕 小6から(札幌)
少女は小6のとき実母から「覚せい剤が欲しいので、やってきて」と命令されて。
9月21日(水)直哉の観音像発見(谷崎から譲られる)
白樺派の作家・志賀直哉(1883-1971)が文豪・谷崎潤一郎(1886-1965)から譲り受けながら、戦後行方不明になっていた観音菩薩立像(木造、高さ約1㍍)が早稲田大学会津八一記念館に収蔵されていたことがわかった。直哉は随筆「早春の旅」で、記述している。
    次号に新聞記事のコピー掲載
―――――――――――――――――― 3 ――――― 文芸研究Ⅱ下原ゼミNo.174
私の夏休み
8月前半は寒く、後半は豪雨と猛暑。9月に入ってからは、酷暑がつづいた極端な今年の夏でしたが、皆さんの夏はどうでしたか。
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夏休み計画
私の夏休み計画
まずは行動を
春日菜花
夏休み中は、とりあえず思った行動を取ろうかと思っています。思い立ったが吉日、という感じです。日頃からどうしようどうしようと悩みながら結局やらなかったというパターンが多いので、今年の夏は進んで動いていこうかと思っています。
計画していることといえば、自由創作の他に1作ほど小説を書くこと、名作といわれた本を読むこと、なるべく外に出ることです。暑いからといって引きこもってばかりいても何も得られませんし、それは今年に入ってから痛感したことでもあります。去年よりも今年は外出する回数が増え、そのおかげか日々が充実しています。去年は家とバイトと学校との往復ばかりだったので、友人達と出かけたいと思っています。
小説は何個かテーマにしたいものや、書きたいものがあるので、完結しなくても最低形になるくらいは書きたいです。本に関しては、図書館に行ってみようと思っています。正直、図書館を利用したことは殆どありませんが、わざわざ買って家で読むより集中できるかと思ったので行こうと思います。
名作を読むこと、芸術に触れることを課す
武田結香子
 私は、今年の夏、「名作を読むこと」を第一目標とします。来年からは就職活動が始まり、自分自身が自由に使える休みは今年度いっぱいだと思いました。なので、勉強(と言うと堅い印象がありますが…)を今のうちにしておきたいというのが大きな想いです。日本文学も海外文学も「名前は知っているけど…」という作品が恥ずかしいことではありますが、私にはたくさんあります。この2カ月くらいある長期休みにどれだけ自身に吸収して(文芸的な)成長がどれだけできるかを試してみたいと思います。
 第2の目標は「演劇をたくさん観に行く」ことです。これはほぼ趣味の世界といっても過言ではないのですが、せっかくの休みなので9月を中心にいろんな作品を(金銭的に余裕がある限り)観たいと思います。演劇だけでなくて、美術館や展示会など、いろんな場所に出ていって芸術に触れられればと思います。
 第1も第2も、趣味の延長線的な部分は多々ありますが、少しでも自分が成長できるような夏にしたいです。
Q.計画通りいったのでしょうか。どんな本が読めたでしょうか
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9月23日(金)人気の白熱教室を見た。日本・中国・米国の大学生がテロについての議論。「人間の尊厳」という言葉が多かった。後日、「ダーウィンの悪夢」を見た。吹っ飛んだ。机上の理論の空しさと、人間の愚かさと闇の深さを知った。
文芸研究Ⅱ下原ゼミ通信No.174―――――――― 4 ――――――――――――――
夏休み報告       夏休みに実践
何でも読んでやろう
              藤原 侑貴
 この夏にどんな本を読んだのか記そうと小田実氏に倣って挑戦的な題を付けたはいいが、読んだ本の数は少ない。何と六冊である。これでも私としては多い方で自らの遅読振りが明らかになって恥ずかしいが、何はともあれ記していこう。読了時にメモしておいた文章も付記しておく。
 七月二十六日読了
 吉行淳之介『焔の中』(中公文庫)
 絶版なのがもったいない。私の祖母も上野に住んでいたので空襲にあった話などをよくしてくれたものだが、この本を読むと祖母が「若者」だった頃の気持ちが何となく分かる。若者の誰しもが、生きることよりも死ぬことばかりに意識をいかせていた時代。
 以下、「華麗な夕暮」から引用。「戦争の間は、死ぬことについてばかり考えさせられてきた僕は、今度は生きることを考えなくてはならぬ時間の中に投げ出されてしまったのだ。僕の内部は次第に変形してゆく。しかし、僕はむしろそれを望んでいる。素朴な形の自尊心なぞ抱いていては、到底これからの時間の中で生き延びて行くことは不可能のようにおもえる。僕は歪んでゆく内部に頼らなくてはならぬのだ。」
 ――引用した部分には非常に感銘を受け、事あるごとに思い出している。「歪んでゆく内部」とそれに頼らなくてはならないという「自分」の心情……なるほどなあ。
 七月三十一日読了
 『吉行淳之介エッセイ・コレクション1』(ちくま文庫)
 渋い上にユーモアあり。しかし、銀座のバーではとてもじゃないけど呑めないなア。それこそ「きゃっと叫んでロクロ首」になるだろう。しかし、氏はそうならなければ紳士ではない(「紳士はロクロ首たるべし」)と書いている。
 他にも気に入った箇所がある。以下『青春のポーズ』より「誠実」や「純粋」について。「『純情』とか『誠実』という美徳は、現代では昔のように心臓の在る場所にちゃんと存在しておらず、背中とか膝の裏側とか、とんでもない場所に移動しているように思われます。そのように移動していない限り、そのような美徳はこの世の中ではとても無事には保存されないように思われます。」
 
 ――とかく「誠実」などという言葉は、それらしい表情をして使われることが多く、何となく気に喰わなかったが、氏の文章を読んで「ははあ、なるほどなあ」と合点がいった。
 八月十一日読了
 『吉行淳之介エッセイ・コレクション2』(ちくま文庫)
 さすが性について語らせたらすごい、の一言。この人の「性」に対する考え方は特殊なようでいて、かなり普遍的なものなんじゃないかとふと思った。
 ――いきなり最初から赤い玉がポンと出る(!)話で興味深いエッセイだった。ちなみに私はまだ赤い玉は出そうにない。
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 八月十六日読了
 安岡章太郎『海辺の光景』(新潮文庫)
 共感出来る点が多々あり、あまりに良かったので脱力している。今回は図書館で借りたのだが、また読み返すためにもこれは買わなければ。平野謙氏の解説がまた良い。折りを見て、まとめることにする。
 ――やはりこの人の視線は良い。上から人を見下ろすのではなく、下から人を見上げたような文章を書く。「瓶にさす藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり」と同じだろうか。
 表題作もさることながら、『宿題』にはかなり心を揺さぶられた。特に戦争反対のビラを主人公が剥がす場面が良い。「学校なんか燃えちまえ」……学校が嫌すぎてやけになる気持ち。まさかこの時代から「学校嫌い」を書く作家がいるとは思っていなかった。
 九月六日読了
 色川武大『生家へ』(講談社文芸文庫)
 安岡章太郎が『海辺の光景』で母を描いていたが、こちらは父。ところどころに書かれている特有の描写は、ナルコレプシーで見ていた幻覚だろうか。少し難解。
 ――描写が独特で読むのに時間がかかってしまった。しかし、不思議と共感するとこころは多かった。この時代の作家は、エディプスコンプレックスを持っている人が多いように思う。そして、私もまたそのような気持ちがあるので好んで読んでいるのだと気付かされた。
 九月十二日読了
 安岡章太郎『なまけものの思想』(角川文庫)
 この人のエッセイは、変に冷静なところが面白い。本人は至って真面目というところにユーモアを感じる。特に「浪人」に関する話は、時代は違えどただただ共感するばかりだ。
 ――遠藤周作氏のエッセイが「笑わせよう」としているのなら、安岡章太郎氏のエッセイは笑わせようとしているのではなく、何というか「必死」である。その必死さがおかしくて、また共感も出来てしまう。「幸福」というエッセイに関しては、自分にも同じことがあったと錯覚するぐらいである。
 以上、六冊が夏休み中に読み終えた本である。今は『吉行淳之介エッセイ・コレクション3』(ちくま文庫)を読んでいる。
 そういえば先日、機会があって講師の多岐祐介先生と他大学の男子学生と一緒に神保町の古本屋を巡った。とある古本屋の店先で多岐先生が私の名前を呼ぶのでショーウィンドウを覗き込むと「吉行淳之介文庫本百八冊・三万三千円」とあり、手持ちからいってとても買えるわけはないのだが、非常に興奮させられた。
 貯金をおろしてでも買うべきか否かと悩んでしまうから始末に負えない。しかしあと四か月もすれば実家の横浜に帰ることになる。通うキャンパスが所沢から江古田に変わるからである。金銭的な事情だけでなく、引っ越しのことも考えると百八冊も本を増やすわけにはいかないと諦めている。
※安岡章太郎、吉行淳之介の名前を聞いて懐かしくなりました。若い人たちには、もう読まれなくなった、そう思いこんでいたので余計にうれしいです。『海辺の光景』については、たしか20年程前「江古田文学」に感想を書いたような気がします。(編集室)
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課題報告・車内観察
窓辺の光景
春日菜花
予定時刻より三分ほど遅れて、ホームに電車がはいってきた。乗り換えの多い駅なので、扉が開くとすし詰めにされていた人が溢れ出てくる。まだ降りきっていないのに「閉まる扉にご注意ください」とアナウンスが流れ出すものだから、降りる人も乗る人も慌てて前に進む。随分人が降りたので、車内はほぼ空席状態だった。持っていた紙袋を足元に置いて座席の真ん中に腰を下ろし、ちらっと前の座席を見る。真向かいに人はいなかった。正面に人がいると、どうも落ち着けないのは昔から変わらないみたいだ。
ここ数年で窓から見える景色は空が多くなった。踏み切りをなくすために線路を地上から上にあげたからだ。見えるのは屋根や電線や木のてっぺん。あとは、遠くのものが見えるぐらいだ。
ぼうっと向かいの窓から景色を眺めていたら、きらりと何かが光った。突然の閃光に目が眩んで思わず目を瞑る。眉を顰めながらも薄っすらと目を開けると、ちょうど電車が川の上を走っているところだった。西日が川に反射し、きらきらと光っている。
「きらきらー」
「綺麗だねえ」
扉の傍に立っていた母親に抱き上げられた男の子は、嬉しそうに扉の窓に張り付いた。小さな彼の目には、きっと宝石のように映っているのだろう。まだ見える範囲でしか理解できないのだ。欠けたガラスやビー玉でさえもとても貴重なもののように扱う子供の純粋さは、受け止めるしか出来ない。あんなに目を輝かせているのに、本当のことなどそうそう言えるものではない。そして同じように、見えない世界のことはまだ彼らに理解させなくてもいいのだろう。
車内テレビに水掛け論を繰り返す政治家たちが映った。いまだ解決されない問題に、どれだけの時間をかける気なのだろう。テレビから視線をはずし、もう一度川を見ようと前を向くと、もうそこには屋根と空しかなかった。
テキスト『城の崎にて』感想
「いのち」とは何か
藤塚玲奈
もう随分も昔(という程生きている訳ではないが)から、こうずっと生きていたくはないなあと考えている。極端に言えば「いつ死んでしまってもいい」と思っていた時期もあったが、最終的には「しかし死期は選びたいなァ」という私史上最も傲慢でだらしのない価値観をもってして弾き出した結論に落ち着いた。その結果が導かれた理由に、別段の思い入れも何もないのだが、しかし「いのち」というそのよく分からない言葉、概念と絡めずにはいられない。「いのち」は偶然与えられるものだからである。死期の選択をするには、良しにつけ、悪しにつけ、その全ての偶然を回避しなければならない。本当にエゴだと思う。
震災後、私はひどい食欲不振に陥った。今となっては恐ろしい話であるが一日の摂取カロリーは平均して25カロリー程であった。これは最低ラインの1/40程度である。そのくせ活動はするので、とにかくふうふうになるのであった。思い出してみると、ぞっとする話だ。さあその時、果たして私は死期を選択していたと言えるのであろうか。食物を口に運ぶ、
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そして飲み込むという行為を拒んでまで何か実現させたいことが潜在していたのだろうか。今でもよく分からない。
 3月11日、偶然私は命を落とさなかった。ただそれだけのことが現在の私を生かしている。「いのち」は、なかなか目に見えてくれないものだと思う。だから確実なパワーや神秘的魅力を噛み締めることがしょっちゅう出来る訳ではない。
 しかし「いのち」は、間接的にであれば、感じ取ることはできる。それも至極簡単に、だ。隣人の脈に触れるだけで、もう別の生命をひしひしと感じる。人だけでなく、勿論それ以外の動物でだって、そうなれる。ああ、お互い生きているのだなァと、何となく実感する瞬間を手にすることもある。要は、「いのち」は火のようなものだ(炎だと、ちょっと情熱的すぎる)何かに引き起こされるまで、特殊な力を発揮することはない。しかし、本来のそれ、それそのものというのは動物の、人類の想像を軽々と超越する程の力を秘めているのである。人類最大の発見が「火」だ、と謳われるように、「いのち」の確信もまた人類にとって忘れてはならないものだろう。
テキスト『濠端の家』感想
「カミサマ」について
藤塚玲奈
 私は「神」という言葉を疑うことがままあります。疑う、というよりも最初から信用していないと言ってしまえばそれまでなのですが、いかんせん嘘くさいなあと思ってしまうのです。だからと言って「神」の存在を否定しようとは思いません。宗教は有った方がよいものだと思うし、信仰心を逆手にとる者は滅びるべきだとも思っています。信用できないのは、その概念を作り出したのは人間だという事実が伴っているからです。カミサマという得体の知れないものの力を借りて物事の解決を図ることは他の動物たちからすると未知のことでしょう。彼ら(動物たち、人間以外の)は長、一番近い位置にいる特定の者をリーダーとして崇めたり、その力に従ったりしている。リーダーとして選び抜かれた者も無意識のうちにリーダーシップを果たさんとする。このサイクルや関係描図を崩してよいのは彼らだけのはずです。そこに我々が介入するのはナンセンスです。弱肉強食という言葉があるように我々は己の生活の中で他の生物の命や人生を奪って、そして暮らしています。一度だけでなく幾度も幾度も奪う。そして傍観している。主人公もまた、無感覚、無意識のうちにそうしている。悪意が仮になかったとしても、被害を受ければその動物にとってその行為は間違いなく災難であり、人生の害となる。3・11の際に引き起こされた自然災害が意図的に起こったものであれば、そして人間も介入できないような絶対的存在(つまりそれがカミサマなのだろうけれど)が本当に存在しているのならば、話は少し変わってくるが。
自分観察・何でもない一日の記録
藤塚玲奈
 何故、土曜日の一限の為に?と尋ねられるが自身でも「どうしてかしらねェ」と思わずにはいられない。とにかくその授業がその時間にあるのだから仕方がない。行く。通学には約二時間かかる。ここがおそらく尋ねてくる人からするとネックなのだろう。たった90分の為に、計4時間を棒に振るとは…という思考にいきついているのであろう。自身としては、
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寧ろその4時間こそが至福のひとときであったりするのだが、最近は気温もぐっと上がり、湿度もあって「なんでもない時間」を楽しもう、という気になかなかなれない。事態は深刻である。学バスは滅多に、というよりほぼ使わない。
今年の初めから周辺観察の為にと駅~学校を歩くようにしている。道端に大振りの握り飯が転がっているのを見つけたり、ついこの間だとクロガネモチの木の脇に薄く白いゼミの殻を垣間見たりした。収穫はまあまあである。これをどう活かすかは、私の文章の精進にかかっているとしか言えない。
土曜、いつものように帰路に就こうと歩き出したが、やはり限界を感じてしまった。温度が高過ぎた。しかし、学校まで引き返すのも億劫だったので「ところバス」なるものを利用することにした。バス停に着くと、御老婦がぽつねんと腰を掛けていた。白い麻の帽子をかぶっている。霊園の目の前のバス停だったので、彼女が墓参りを済ませてきたであろう、というのは容易に想像できた。さて、学ハス以外のの西武バスを利用するのは初めてであったので、内心少々の不安が渦巻いていた私は彼女に一言尋ねた。
「53分発は、まだ来ていませんよね?」御老婦は、一寸驚き、しかしすぐに笑顔をつくって「ええ、ええ」と言った。
「そうですか、よかったです」私も腰を掛けた。
「今日ね、今、お墓参りしてきたの」ホッとしたのか老婦は喋りだした。
「そうですか、ご苦労様です」
「ええ、ねえ」
しばらくすると、彼女は何かアルミホイルの包みを鞄から取り出した。カサカサとなんだかじれったい音がする。
「これお供え物に使ったの。ちょいとお供えして、すぐに下げたの」
カラスが来ちゃうから食べ物は置きっ放しにできないからね、と彼女は続けた。
「ああ、カラスが」そう言うと、骨のつき出した細々と浅黒い腕がこちらにヌッと突き出された。「あげる」
「えっ!」
「もらってちょうだいよ」
ややあってバスが来ると老婦はそそくさと乗り込んでしまった。
 私はバスの中でこっそりと包みを開いた。中身はサクランボであった。アルミホイルはよく見ると所々にススが付いている。線香の煙のせいでそうなったのだろう。
 そしてまた、こっそり二粒程口にした。甘かった。老婦が何処に座っているか見渡してみると、窓側に居た。外をじっと眺めている。私はその小さな背中を眺めながら人工的に作り出された冷気を浴び、しばらく揺られるままにした。膝の上で小さな包みが音を立てている。お礼を述べる間もなくきっと彼女は降りていってしまうのだろう。ちょつと、面目ない。
創作・未来車内観察 車内に、現在、過去、未来が見える。
10年後、2022年の車内観察(10年後の私)
武田結香子
 久しぶりに長期間、実家に帰ることになった。地元を出てからもう10年は過ぎるのだろうか。学生を終えた私は職場近くに一人暮らしを始めた。それから地元、実家にはお正月しか帰っていなかったが、なぜか急に母親からの呼び出しをくらった。かなり焦っているようだったから、ちょつと心配になってカエルことを決めた。そして今、私は電車に揺られている。懐かしいローカル電車。都心から離れていくせいなのか、あまり乗客はいない。親子連れが数組と、制服を着た女の子が二人、あとは私と同年代くらいの人。そして、私より年上
―――――――――――――――――― 9 ――――― 文芸研究Ⅱ下原ゼミNo.174
の年配の方。目の前の座席には3、4人座っている。私は車内を見回した。年配の方が右を見ても、左を見てもたくさんいるような気がした。この国は、昔から少子高齢化が言われてきたが、その問題を放っておくわけにはいかない、ということがようやく現実味を増してきたのだろうか。
「ねえ、現代社会のテストできた?問5って何だったっけ?」
「2011年3月の東北大震災でしょう。最近の問題じゃない」
「最近っていっても、もう10年も前だよ」
制服の子たちが話している。そう、あの大震災からもう10年も過ぎた。あのときはニュースに出ない日はないくらい、報道していたというのに。もう、歴史の一部としておさまってしまったのか。私たちはこれからいったい、どんな未来に向かって進んでいくのだろう。今、問題になっていることも、あと5年、10年したら忘れていくのだろうか。
□10年一昔といいますが、これまでの10年間は(日本がどうなっているのかなど)あまり気にならない10年間でした。しかし、今年2011年からの10年間は、大いに気になります。
 もし10年後2021年が覗けるとしたら、どうでしょう。まずはじめに知りたいのは、東日本大地震と津波被害で大打撃を受けた三陸一帯の復旧復興具合です。10年過ぎたいまも、遅々として進まずか。あるいはあの災害が遠い昔に思えるほど町も海岸も立派に生まれ変わっているか。後者に賭けますが、ぜひ見たいものです。次に知りたいのは、原発政策はどうなったかです。福島の放射能漏れは収束したのか、避難した人たちはみな故郷に帰れたのか。日本のエネルギー政策はどうなったか、こちらもぜひ知りたいところです。
 9月21日の朝刊各紙の一面に「光より速い素粒子観測」(ニュートリノ)相対性理論と矛盾――こんな大見出しの科学記事が掲載されていた。時間旅行も現実になるかも。
おススメ、読書
夏休み前、余裕のある人か、何の計画もなく困っている人に、こんな本はどうですか、とおススメしました。挑戦した人はいたでしょうか。
悲恋に泣きたい人は、世界文学の悲恋小説最高峰に燦然と輝く長編書簡小説
バルザック著『谷間の百合』をどうぞ。
フランス、トウールの谷間に咲く一輪の百合。アンリェットの悲恋物語に挑戦してください。もしかして挫折の人は小デュマの『椿姫』をおススメです。
日本文学最高峰の小説は
古今どの作品が日本文学最高峰か。『源氏物語』をあげる人もいれば司馬遼太郎や村上春樹の作品をあげる人もいるでしょう。太宰や三島をあげる人もいると思う。しかし、真に文学を目指すものがあげるとすれば、この作品をおいて他にはありません。
佐藤春夫著『田園の憂鬱』日本文学不朽の名作です !!あなたの文学度が試されます。文学をやるなら必読の書。トーマス・マン『トニオ・クレーゲル』も併せて。
 恋愛・冒険・推理・空想・心理・教養等など、小説には、いろんな分野があります。名作、秀作、凡作、駄作様々です。それらどの作品も敵わない作品があります。その作品は
北條民雄著『いのちの初夜』です。現代日本文学百冊読むなら、この1冊を是非。必読の書です。「こんな小説を書かれてしまったのでは、私たちは何を書けばよいのか」
遠藤周作の愚痴。
文芸研究Ⅱ下原ゼミNo・174―――――――― 10――――――――――――――――
ゼミ雑誌『旅路報告』作成について
ゼミ誌は、ゼミ一年間の成果の証です。全員で協力して完成させましょう。テーマは、日常です。掲載作品は、課題から「車内観察」「何でもない一日」、自由創作です。
ゼミ雑誌編集長 → 武田 結香子さん  
ゼミ誌副編集長 → 藤塚 玲奈さん  
      ゼミ誌編集委員 → 他ゼミ員全員
Ⅰ ゼミ雑誌作成進行状況
   5月25日 ゼミ誌ガイダンス 武田編集長
5月29日 武田編集長より提案。自由創作も視野に
6月 6日 モチーフ『日常』、内容=課題・自由創作 頁300(一人20枚)
      業者=藤原印刷 写真・図案は無し
6月13日 ゼミ誌内容欠席者にメール、5名返信、武田報告
6月20日 題、レイアウトについて 
6月27日 題公募
7月 4日 題「旅路報告」に決定
7月25日 『旅路報告』について 編集会議で作成最終決定
Ⅱ. ゼミ誌原稿、最終締切日9月26日(月)自由創作提出(20~25枚)
自由創作&課題作品(課題作品は自薦)
原稿の提出がない場合は前期の提出課題作品を掲載
前期課題作品=「時事評編」「自分観察編」「車内観察編」「テキスト感想」
Ⅲ. ゼミ雑誌の納付日は、2011年12月12日(月)です。厳守 !!
  
【① ゼミ雑誌発行申請書】【②見積書】【③請求書】
1.【①ゼミ雑誌発行申請書】所沢/出版編集室に期限までに提出 完了
2. 6月6日ゼミ雑誌題・型・頁・業者・内容(案)決まる。  完了
3. 9月末、ゼミ誌原稿締め切り。(原自由創作を提出してください)
4. 印刷会社を決める。藤原印刷に決まる。レイアウトや装丁は、相談しながらすすめる。
5.【②見積書】印刷会社から見積もり料金を算出してもらう。
6. 11月半ばまでに印刷会社に入稿。(芸祭があるので遅れないこと)
7. 雑誌が刊行されたら、出版編集室に見本を提出。
8. 印刷会社からの【③請求書】を、出版編集室に提出する。
①  ~ ③ の事務手続きは、必ず行ってください。
原稿集めの次は、校正があります。皆で手分けして進めましょう。
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2011年読書と創作の旅(前期)報告
□4月18日ゼミ ガイダンス
□4月25日ゼミ 出席者11名 司会・椎橋 名作「日本国憲法、前文・九条」
        読み・嘉納治五郎『青年訓 精読と多読 名作・原民喜『夏の花』
□5月9日ゼミ 出席者9名 司会・三矢 テキスト『菜の花と小娘』
        時事評「原発事故について」提出課題合評 紙芝居口演「少年王者」 
□5月16日ゼミ 出席者4名 司会・内田 テキスト『網走まで』と解説
        3・11など課題提出作品の合評
□5月23日ゼミ 出席者5名 司会・杉山 テキスト『出来事』  
         時事評「原発問題討議」「人生相談」課題合評
□5月30日ゼミ 出席者5名 司会・春日 テキスト『正義派』時事評「原発問題」
        「人生相談・私のアドバイス」
□6月 6日ゼミ 出席者9名 司会・柳瀬 時事評「君が代問題」議論
        ゼミ誌編集会議。提出課題合評
□6月13日ゼミ 出席者4名 司会・武田 テキスト『夫婦』名作・詩編「谷間に眠る者」
□6月20日ゼミ 出席者4名 司会・杉山 テキスト『城の崎にて』提出課題の合評
         世界名作『あしながおじさん』前文
□6月27日ゼミ 出席者3名 司会・春日 ゼミ誌編集会議 テキスト『濠端の家』
         提出課題合評
□7月 4日ゼミ 出席者4名 司会・藤塚 ゼミ誌タイトル決め 提出課題合評
         テキスト『灰色の月』
□7月25日ゼミ 前期最終ゼミ 出席者2名 ゼミ誌編集会議  前期〆
課題提出状況 2011・7・25現在 テキ=テキスト、一日=自分観察 
大野 純弥 →  4本 (テキスト2、一日2) □□□□
         
椎橋 萌美 →  3本(車内1、一日1、時事1) □□□
         
會澤 佑果 →  3本(時事2、テキスト1)   □□□
         
藤塚 玲奈 →  18本(一日6、時事3、テキ5、車内1) □□□□□□□□□□□□□
                           □□□□□
春日 菜花 →  24本(車内3、一日9、時事4テキ6、創作2、) □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
藤原 侑貴 →  1本(テキ1) □
中村 俊介 →  2本(テキ1、時事1) □□
柳瀬 美里 →  9本(一日3、時事3、テキ3) □□□□□□□□□
杉山 知紗 →  20本(車内1、一日7、時事4、テキ7、創作1) □□□□□□□□□
□□□□□□□□□□
三矢 日菜 →  5本(一日2、時事1、テキ2) □□□□□
文芸研究Ⅱ下原ゼミNo・174―――――――― 12――――――――――――――――
武田結香子 →  24本(車内2、一日10、時事4、テキ6、創作2) □□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□
内田 悠介 →  5本(一日2、時事1、テキ2) □□□□□
花井 三記 →  
※ 出席日数、課題提出の少ない人は、後期ゼミ頑張ってください。遅れ取り戻せます。
時事評・議題
1. 日本国憲法の改正について = 「改正の有無」「第9条問題」議論
2. 原発事故問題について = 原発依存・脱原発 
3. 君が代起立問題 = 自由・強制・義務
掲示板
夏休み課題 「わたしの夏休み」ルポ・エッセイなど自由
バイト・旅行・読書など2011年の夏休み体験談。
後期ゼミ授業 車窓観察(家族・新聞記事の事件、裁判など)
お知らせ 
■ 10月22日(土)ドストエーフスキイ全作品を読む会第246回読書会
作品『主婦』池袋西口・勤労福祉会館 第7会議室 (下原ゼミ生0円)
※ 詳細並びに興味ある人は「下原ゼミ通信」編集室まで
■10月8日(土)~23日(日)「写真・童画家熊谷元一回顧展」清瀬市郷土博物館
10月15日(土)午後1時~ 講演「熊谷元一を語る」国立静岡大学・矢野敬一教授
入場無料(40名)・先着順 申し込み10月1日から℡042-493-8585 清瀬市郷土博物館 
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編集室便り
  住所〒274-0825 船橋市前原西6-1-12-816 下原方
  メール: TEL・FAX:047-475-1582  toshihiko@shimohara.net
提出原稿は、メール、FAXでも受け付けます。(送信でもらえると二度手間と間違い打ちがなくなるので助かります)
ゼミ評価は、以下を基本とします。
出席日数 + 課題提出(ゼミ誌原稿)+α = 100~60点(S,A,B,C)
※授業時間の料金は、前納された授業料で支払われています。せっかく買われた自分の時間です。どう使うかは自由ですが・・・2011年は一度だけです。前期10日(+2)間の出席状況は(13人中)=皆勤3人、精勤2人、6日1人、4~2日7人、0日0人
病気入院・災害・体調不備などの人は申し出てください。

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