文芸研究Ⅱ 下原ゼミ通信No.177

公開日: 

日本大学芸術学部文芸学科     2011年(平成23年)10月24日発行
文芸研究Ⅱ下原ゼミ通信No.177
BUNGEIKENKYU Ⅱ SHIMOHARAZEMI TSUSHIN
                             編集発行人 下原敏彦
                              
9/26 10/3 10/17 10/24 10/31 11/7 11/14 11/21 11/28 12/5 
12/12 1/16 1/23
  
2011年、読書と創作の旅
10・24下原ゼミ
10月24日(月)の下原ゼミは、下記の要領で行います。ゼミ2教室
1. 通信177配布 出欠 連絡事項「前回ゼミについて」 司会指名
2. ゼミ雑誌作成報告 原稿提出状況 
 
 3.「剃刀職人殺人疑惑事件」模擬裁判 第二回最高裁判 判決決定
4. テキスト読み『兒を盗む話』
    
祝・おめでとうございます
第10回江古田文学賞
杉山知紗さんの「へびとむらい」が受賞 !!
第10回江古田文学賞は、平成23年8月31日に応募を締め切り、114篇の作品が集まりました。 その中より11篇が最終審査に残り、10月15日、日本大学藝術学部江古田校舎にて行なわれた最終選考会にて「犬小屋」「へびとむらい」「俺とマツ缶の行方」の3編が最終候補作となり、選考の末、杉山知紗「へびとむらい」が第10回江古田文学賞に選出されました。(HP)
「全国から寄せられた沢山の応募作品のなかで、抜きん出た作品でした。名前を伏せての選考でしたので、書き手はどんな人か興味ありました。それだけに作者が文芸学科の学生とわかったときは、大変うれしく思いました」(選考委員の先生の話)
10・17ゼミ報告
この日の参加者は、杉山知紗さん、春日菜花さん、武田結香子でした。武田編集長によるゼミ誌作成状況は以下の通りでした。


○自由創作 7人が希望  10・17現在迄の提出は5名。見通し有り。
○13名中1名不明は、下原が電話か郵送で確認。未提出者待ち。
文芸研究Ⅱ下原ゼミ通信No.177―――――――― 2 ―――――――――――――
家族観察『にんじん』
「もぐら」「つるはし」「湯のみ」「ねこ」の読み
家族のなかで疎外感を持つ「にんじん」だが、にんじんは、表面立ってひねくれない。反抗的にもならない。母親や兄姉の自分への接し方に対し、あきらめと理解をもって解消している。「もぐら」をたんにこどもの残虐性とみるか、反抗心のあらわれとみるか。「つるはし」は、大勢兄弟がいればありがちな出来事。「湯のみ」も、家族のなかでのちょつとした意地の張り合い。この3作品はおそらく小学生の頃の話だが「ねこ」は、銃の扱える年齢となれば中学生だろう。と、すると「もぐら」にみられる子どもの残酷性とは少し違っている。ねこの頭を、牛乳を与えたあと、至近距離から猟銃でぶっ飛ばす。尋常でない病的な性的なものさえ感じて戦慄を覚える。1997年神戸で起きた陰惨な事件を思い出す。複数児童殺傷の犯人中学3年生は、犯行前、ねこの舌を切ってビンにあつめていたという。
「もぐら」「つるはし」「ねこ」の感想は、このようであった。
杉山知紗
『もぐら』
子供は無邪気なゆえ、虫や蛙などを遊びついでに殺してしまう話をよく聞く。しかしこのにんじんはどうだろう。なにか得体の知れない恐怖がある。にんじんが母親のように、もぐらが子供のように見える。母親もまた、にんじんから得体の知れなさを感じ、虐待がどんどんエスカレートしているのでは。
『つるはし』
にんじんが鉄製のつるはしを持つには、きっとこれまでの話を見るにうまく使いすぎてしまうから、これぐらいでいいのかもしれない。しかしフィリックスはたかだか皿で何故これほど驚いたのだろうか。もしかしてにんじんはあからさまな危害をくわえたから・・・というのは邪推だろうか。
『ねこ』
もちろん食事にはスープなどがつくから、水分をまるきり取らないというわけではないだろう。しかしそれでもにんじんのさまざまな環境適応能力はすごい。今までとこの話で違うのは、にんじん自らの意志からであり、ルピック婦人たちも気にしていないことか。そのほうが逆に何か引っかかる。
武田結香子
『もぐら』
文章の2行目で「殺す」という言葉が出てくることが信じられなかった。子どもは身近にいる人が発する言葉に感じ、覚えていくのだから、影響を受けた一番身近な存在として家族、とくに母親のにんじんに対する接し方を疑う。
『つるはし』
にんじんが末っ子に見えない。何もかも悟った人にしか見えない。傷を受けたはずのにんじんが誰にも心配されていないなんて、おかしいと思う。何も言わないにんじんもおかしいと思う。
―――――――――――――――――― 3 ――――― 文芸研究Ⅱ下原ゼミNo.177
『ねこ』
これがもし成長したにんじんの姿なら、家族以外の人間は誰もが異常だと思うだろう。殺す、という行為にまったく恐怖を持っていない、ということが何よりも恐ろしいことだと思う。
春日菜花
『もぐら』
にんじんは自分と動物を同じ立場で見ている気がする。だから少しでも己は相手よりも優位に立っていると証明するために、わざわざ殺しているのだろうか。石に叩きつけられれば、誰だろうと死ぬ。もぐらは実際死んでいたかもしれない。けれど生きているように見えた彼は「もぐらのクセに」と憤怒したのではないだろうか。
『つるはし』
この件で明らかに悪いのは、兄のフィリックスである。大ケガをしたにんじんは包帯を巻かれただけであり、気分が悪くなって卒倒したフィリックスの方がまるで重症患者のように扱われていたのだ。にんじんは痛みでわめいたとしても、誰も聞いてはくれない。すべての原因は”にんじん”であると決められているかのようだ。
『ねこ』
慈悲を与え、最後に殺す。これはまるで快楽殺人者のようだ。彼をこうしたのは家族の虐待の他に思いつかない気もした。
「つるはし」でみられるような家族内での(無意識か意識による)差別や偏見は、「もぐら」にみられる弱いものへの攻撃と関係あるだろうか。鬱積したにんじんの心は、どう成長するのか。「ねこ」にその片鱗をみる、異常な人間性を感じる。この先にんじんは、どんな青春時代を送るのか。どんな人間になっていくのか。
 家族のなかでは従順なにんじんだが、成長するにしたがって家族外の人に対する態度はどうだろうか。模擬裁判のあいまに読んでいきます。同時に26年前、日本中を恐怖のどん底に落とした神戸の少年Aについて、報道で知る彼の家庭と母子関係を検証できれば、と思います。ちなみに26年前の神戸事件とは、どんな事件だったのか。発端と推移は以下。
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 1997年5月18日未明、前日から行方不明になっていた小学生児童の生首が中学校校門の前で新聞配達員よって発見された。切り裂かれた口の中には警察への挑戦状が入っていた。あまりの残虐さに、また例をみない猟奇的犯行に日本中が戦慄した。こんな酷い犯罪ができるのは頭の狂った大人以外にありえない。マスメディアはこぞって「黒ビニール袋を持った中年男を追え」と報道した。新聞社に送り付けられた声明文は、連続幼女殺しの今田勇子(宮崎勤)を連想させた。犯人像は青年から中年の、異常な精神の持ち主、もしくは薬物依存者。誰もがそう思うところだった。
 しかし、犯人は14歳の中学3年生の男子生徒だった。少年は、春先にも4人の小学生の女の子を襲い、1人を死亡させていた。少年は、精神病者でも、薬物患者でもなかった。
(下原敏彦著『ドストエフスキーを読みながら』「透明な存在の正体」2007から)
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 少年は、高台にある神戸の高級住宅地の一軒家に両親、弟の4人で暮らしていた。父親は一流企業勤務、母親は、教育熱心な専業主婦。日本中どこでもみられる中流上のサラリーマン家庭だった。しかし、悪魔は、その平凡な家族の中で人知らず牙を磨いでいたのだ。
文芸研究Ⅱ下原ゼミ通信No.177―――――――― 4 ――――――――――――――
提出課題10・17
車内観察
工事中のホームで
春日菜花
最寄りの駅でホームの工事が始まった。期間は翌年の1月まで。隣の駅、そのまた隣の駅では既に工事が終盤を迎えていて、ようやくこの駅に手が回るらしい。
母親が学生の頃から何も変わっていない駅は、鉄柱が錆びだらけだし、屋根だって満足な長さがないし、壁になるものが何もないから冬場は風が心底冷たい。私も高校生になってから使うようになったから、今年で5年になる。勿論、当時と何も変わっていない。
隣の駅はエレベーターが設置されたようで、今まで混雑していた車両の位置が変わった。そのおかげで私は朝っぱらから人ごみにもまれる事もなくなった。今まで人で黒くなっていた車両が、すっきりとしているのだから面白い。
「―――仮設通路を設けています。そちらをご利用ください」
改札を抜けてすぐ、作業員の男がメガホン片手に呼びかけている。朝9時前は仮設通路を通らなければならない。普段と違って狭苦しい道ではあるが、見慣れないというものあってか苦ではなかった。だが、これも数ヶ月経てば当たり前になるのだから慣れというのは恐ろしい。
その日は11時頃駅についたために、仮設通路は使えなかった。工事用の壁の向こうから、石を削る音と、人の話し声が聞こえる。壁のせいでホームの際まで幅が狭くなっている。この時間帯は人も多くないのでそこまで大変ではないが、電車が横をすり抜けたときは少々冷や汗ものだ。もちろん、向かいのホームも同様。
何メートルか歩けば、広い場所に出る。この付近はまだ工事を始めないようだ。しかし、いずれこちらも工事するのだろう。ここはいつも乗り込む場所なので今から少し面倒くさい気持ちになる。
携帯を開いて時間を確認すると、まだ電車が来るまで5分ほどあった。カチカチと携帯を弄っていると、向かいの工事現場の方から声がした。二人組みの男が大声で話しながら、ふざけた風に軽く小突きあっている。工事の音で互いの声が聞きにくいのか、随分と大声だ。
「―――まもなく各駅停車が参ります。危ないので黄色い線までお下がりください」
アナウンスを聞いて時計を見た。まだあと3分残っている。
顔を上げると向かいのホームの電光掲示板が光っていた。
ああ、なんだ。あっちのホームか。
再び携帯に目を戻した。次の瞬間、劈くような音が鳴り響く。吃驚して、向かいのホームを見る。キイイイと音をたてて電車が止まった。
普段、停車するときにこんな音は聞いたことがない。しかも、騒いでいた男の声は聞こえなかった。
まさか、などと嫌な予感が脳裏を横切る。
けれど、数秒後電車は何事もなかったように再びゆっくりと走り出す。
電車が去ったホームには、誰もいなかった。
□毎日、電車に乗るといろんなことがありますね。いったい何の音だったのでしょう。アナウンスはなかったのでしょうか。「何事もなかったように」は普通でもあり、ちょつと不気味でもありますね。
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日常観察
家 族
武田結香子
「ハッピーバースデートゥーユー」私と弟のボソボソと歌う声が暗闇で響く。懐かしいようなろうそくの火が目の前でちらちらと揺れていた。今日は妹の誕生日。めずらしく家族全員がそろい、ケーキを囲んでいる。中学生の妹は年頃の子らしく、ちょっとめんどくさそうにしつつも、やはり嬉しいのかケーキを眺めていた。
私は数年前のことを思い出す。誕生日のケーキに良くある、砂糖で作られた名前プレートを誰が食べるのか、というのでケンカになった。甘党の妹と弟は取り合った。負けずに私も取り合った。結局半分にしたりしてみんなで食べる、というのがオチだった。私の家は5人家族だから、年に5回こういう光景を見ていた、はずだった。今じゃ家族が集まってもあまり話をしない。誕生日の時でさえ、淡々と祝い、平等に切って食べる。5人もいるのに無言の食卓。なんて寂しい光景なのだろう。大人になると素直に喜べなくなる、というのはこういうことなのか。ただ私の家族が恥ずかしがりが多いだけなのか。よくわからない。
だけど。食べたケーキはすごく甘かった。雰囲気に似合わず、とてつもなく甘かった。甘いものに満たされると「まあ、こんな家族でもいいのか」と納得している自分がいた。時間が経つというのは寂しくもあり嬉しくもあるのだろう、と思った。
□いいご家族ですね。小津映画を観たような気がしました。私の家は5人兄弟の7人家族でしたが、食卓の記憶も、兄弟仲よくしていた記憶もないです。が、大人になってからは、よく話します。人間、結局、最期は家族と肉親に看取られてということになります。
「剃刀職人客殺害疑惑事件」模擬裁判
第一回公判の判決は、懲役5年(実刑)
 先週10月17日に開かれた「剃刀職人客殺害疑惑事件」模擬裁判は、職人の風邪熱と心神耗弱による過失事故による死亡事件とみられた。が、職業人にあるまじき不注意ということで懲役5年の実刑判決が下された。
 裁判長・武田  弁護士・春日  検察・杉山 被害者家族・証人は3人が兼ねた。
 
判決理由(出席者の感想)
武田裁判員の感想・被告調書
【被告評】
主人公はそんなにも意地を貼りたかったのか、ということしか思わない。自分のプライドを傷つけたくがない為に、無茶をして、全てを失ってしまった哀れな男の話だと思った。
【被告調書】
俺には仕事に誇りを持っていた。これが俺にとっての天職だった。わずかの髭だって残さない。評判だってよかったんだ。具合が悪かろうと、道具の調子が悪かろうと、俺が失敗するはずがないんだ。気がついたら、あいつの首から地が溢れていたんだ。俺は殺してない俺が間違えることなんてないんだ。
文芸研究Ⅱ下原ゼミNo・177 ――――――― 6――――――――――――――――
春日裁判員の感想・被告調書・証人の目撃証言
【被告評】
いくら名人だといえども、病には勝てない。出来の悪い弟子のかわりに病気の身体に鞭打ち、自分で仕事を引き受ける。それは芳三郎の意地でもあり、客からの信頼に応えるためだったのだろう。神経質なほどきっちりしたいというのに、熱のせいで手が上手く動かない。かなりもどかしい思いだったはずだ。しかもそのせいで事故まで起こしてしまったのだから、余計決まりが悪い。
【被告調書】
何が起こったのか、全てが瞬き一つの間の出来事でした。
その日は流行り風邪をひいて、熱まで出ていたものですから頭が朦朧としておりました。
けれどお客の足は止まりません。弟子二人は正直頼りがいがない。私がやらずして、誰がやれたでしょうか。熱のせいで手が動きにくい、そのせいで上手く剃ることが出来ない。何もかもうまくいかない状況に、嫌気が差しました。
男の喉に赤い珠が浮かんだ瞬間、今までの客の顔が浮かびました。一度も傷つけたことなどなかったのに、何が起こったのか訳がわからなくなり、気付けば男の喉仏に剃刀をつき立てていました。全てが疲労感に襲われ、私はそこで気を失ったのです。
【お梅の証言】
とても仕事の出来る状態ではありませんでした。何度も止めたのですが、あの人は聴く耳なんて持ってはくれませんでした。剃刀を磨ぎ損ねたときなんて、肝が潰れたかと思うくらい吃驚したんです。泣いたって、聴いてはくれませんでした。
自分がやらなきゃ誰がやる。自分の仕事に誇りを持っていました。そのせいで変に意地を張ったんです。こんなことになると分かっていたならば、弟子二人を使ってでも布団に縛り付けておけばよかった。
以上の、裁判員による被告評、調書、証言から5年の実刑判決がだされた。
10・17判決に、検察控訴
しかし、この事件を通り魔事件と同列に考える検察と被害者家族は、死刑判決を要求してただちに控訴した。このため、本日第二回公判が行われることとなった。
なお、この事件は今裁判の結審が最終判決となる。
テキスト草稿・小説「殺人」〔剃刀〕配布
これより第二回公判に入ります
裁判官 「人定質問」被告人は、氏名、年齢、職業、住所を述べてください。
被告人 辰吉芳三郎 28歳 剃刀職人 住所は港区麻布六本木6-1-12 本籍は埼玉県
検 察 「起訴状」被告人辰吉芳三郎は、六本木の床屋「辰床」の店主。
被告は10 月13日午後9時45分頃、客として来た市ヶ谷連隊兵士所航太22歳の顔を剃刀で剃っている最中、誤って咽を切ってしまい。同瓦職人を死に至らしめた。本行為は、あくまでも本人の意思で行われることから、通り魔殺人と同等とみなし刑法第  条に当たる。
―――――――――――――――――― 7 ――――― 文芸研究Ⅱ下原ゼミNo.177
加筆・何かあれば                                    
                                       
検 察  翌日14日の夕刊には、このように書かれています。「麻布の兵士殺し 犯人
は床屋の親方」「病人の人殺し」と
検 察 よって本件は、過失致死ではなく、刑法に基づき無期懲役刑を要求します。
裁判長  これより裁判にはいりますが被告は、自分に不利なことは言わなくてもいいで
す。黙秘権の行使を認めます。
     では、被告は、事件に至った経緯を詳しく述べてください。
被 告  はい、あの日は、熱で朝から気がクサクサしていました。頼んでおいたカミソ
リがきたのですが、どうしたわけか思うようにとげませんでした。それで、い
っそうイライラが募りました。そこへ、あの若者の客が入ってきたのです。客
は、これから色町に行くのだとか、何かと気障りのことばかり言いうので癪に
さわりました。
裁判長  それが原因で殺意が生まれたのか。
被 告  いいえ、そんなことで殺すの、どうのといういう気はむろんございませんでし
た。
裁判長  被告は、被害者に対して何か怨みあったのか。
被 告  取り調べで刑事さんからもよく聞かれましたが、お客に対してなんの怨みも感
情もありません。
裁判長  知り合いではあったか。
被 告  近頃、近所へ来た者だそうですが、まったく知りませんでした。私の店へも、
そのとき初めて参ったのです。それ故、遺恨など、これっぽっちもありません。
裁判長  では、どうして、殺してしまったのか。
被 告  今、考えても、どうしてあんなことをしてしまったのか、皆目わかりません。
妻は、一時的に気がふれたのだと申しますが、事件を起こしたことを考えれば、
そうかもしれませんが、現在も、以前も、自分には、そんな微候は微塵たりと
ございませんでした。いまも、この通りタシカです。
裁判長  まったく殺す動機がないと申すのだな。
被 告  はい、強いてあげるなら咽を剃ります時、三、四里の傷をつけた。そのことぐ
らいです。
裁判長  お前は、その傷を命にかかわる、大きな傷と考えたのではないか。勝手に思い
こんで、どうせ助からないのなら一と思いに死なせてやろう。そんなふうに思
ったのではないか。
文芸研究Ⅱ下原ゼミNo・177―――――――― 8――――――――――――――――
被 告  そんな気があったかどうかは、いまは考えだせません。しかし、あれくらいの傷
なら、毎日のようにうちの小僧どもがやっていることで、とても、大事になると
は思いません。ひっかき傷でした。
裁判長  お前は、腕のいい剃刀職人で、これまで10年の余も剃っていて、客の顔を一度
も傷つけたことはなかったというが、ほんとうか。
被 告  はい、その通りです。
裁判長  (考えて)ただの一度も失敗したことがなかった。完璧だった。考えれば、裏を
返せば、原因というか動機は、そこにあると思うが、どうか。
被 告  (考えて)はい、私も、そう思います。
裁判長  しかし、完璧主義の裏返しとしても、人を殺すという大事件の動機としては、軽
すぎる。
被 告  はい。(うなだれる)
裁判長  では、これより弁護人の陳述にはいります。弁護人、前へ。
弁護人  事件については、弁解の余地はありません。被告は、慙愧の念に堪え深く反省し
ております。いまは、ただ、被害者にはご冥福と、ご家族の皆様にはお詫び申し
上げる毎日であります。
     本日の陳述では、事件当日におきましての被告の身体と精神状態を述べたいと思
います。まず、身体の具合ですが、被告は二三日前から風邪をひいて臥せってい
ました。この日も、妻梅の証言によりますと、38度の熱があったようです。よ
って、身体的には朦朧状態にありました。次に、精神状態ですが、一か月前に働
いていた二人の剃刀職人を首にしたことで相当に悩んでいました。
というのは、この二人は、元同僚でだったからです。一人は、二年前にやめたの
ですが、また帰ってきたので、「辰床」に婿入りして主人となった被告がやさし
い気持ちから雇い入れたのです。しかし、二人の元同僚は、遊び癖がついて、店
の金にてをだすようになったことで、先月、暇をだしたのです。そんなことで、
店には二人の見習い小僧しかいませんでした。そこに秋季皇霊祭の前にかかって
店は大忙しとなった。折悪く、磨ぎにだした剃刀の砥ぎがあまりよくない。多く
の不備が重なり、被告は心神耗弱の状態でした。本来なら、断るべきでしたが、
被告の律義な性格が災いして、顔剃りを引き受けてしまったのです。このような
理由から職業の上から起きた事故ということで本件は、不可抗力による過失致死
と判断いたします。
裁判長  休廷します。休廷後の手順は以下の通り。
休廷後の手順は、検察からの陳述  犯罪の立証  検察・弁護から証人尋問  検察からの論告求刑 被告人、弁護人の陳述  判決(裁判官の主文)
休廷後の裁判記録は次号に掲載
―――――――――――――――――― 9 ――――― 文芸研究Ⅱ下原ゼミNo.177
裁判経緯は、テキスト草稿「小説殺人」(剃刀)を参考にしました。以下は、草稿の一部です。
文芸研究Ⅱ下原ゼミNo・177―――――――― 10――――――――――――――――
―――――――――――――――――― 11 ――――― 文芸研究Ⅱ下原ゼミNo.177
文芸研究Ⅱ下原ゼミNo・177―――――――― 12――――――――――――――――
ゼミ雑誌『旅路報告』作成について
ゼミ誌は、ゼミ一年間の成果の証です。全員で協力して完成させましょう。テーマは、日常です。掲載作品は、課題から「車内観察」「何でもない一日」、自由創作です。
ゼミ雑誌編集長 → 武田 結香子さん  
ゼミ誌副編集長 → 藤塚 玲奈さん  
      ゼミ誌編集委員 → 他ゼミ員全員
Ⅰ ゼミ雑誌作成進行状況
   5月25日 ゼミ誌ガイダンス 武田編集長
5月29日 武田編集長より提案。自由創作も視野に
6月 6日 モチーフ『日常』、内容=課題・自由創作 頁300(一人20枚)
      業者=藤原印刷 写真・図案は無し
6月13日 ゼミ誌内容欠席者にメール、5名返信、武田報告
6月20日 題、レイアウトについて 
6月27日 題公募
7月4日 題「旅路報告」に決定
10月3日 表紙デザイン決定
10月17日 自由創作希望者7名 提出5名
Ⅱ. ゼミ誌原稿、最終締切日10月17日(月)多少猶予有り
自由創作&課題作品(課題作品は自薦)
Ⅲ. ゼミ雑誌の納付日は、2011年12月15日です。厳守のこと。
  ゼミ雑誌発行申請書】【②見積書】【③請求書】
1.【①ゼミ雑誌発行申請書】所沢/出版編集室に期限までに提出 完了
2. 6月6日ゼミ雑誌題・型・頁・業者・内容(案)決まる。  完了
3. 9月末、ゼミ誌原稿締め切り。(原自由創作を提出してください)
4. 印刷会社を決める。藤原印刷に決まる。レイアウトや装丁は、相談しながらすすめる。
5.【②見積書】印刷会社から見積もり料金を算出してもらう。
6. 11月半ばまでに印刷会社に入稿。(芸祭があるので遅れないこと)
7. 雑誌が刊行されたら、出版編集室に見本を提出。
8. 印刷会社からの【③請求書】を、出版編集室に提出する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
編集室便り
  住所〒274-0825 船橋市前原西6-1-12-816 下原方
  メール: TEL・FAX:047-475-1582  toshihiko@shimohara.net
提出原稿は、メール、FAXでも受け付けます。(送信でもらえると二度手間と間違い打ちがなくなるので助かります)
ゼミ評価は、以下を基本とします。
出席日数 + 課題提出(ゼミ誌原稿)+α = 100~60点(S,A,B,C)

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