文芸研究Ⅱ 下原ゼミ通信No.365

公開日: 

日本大学藝術学部文芸学科     2019年(平成31年)4月9日発行

 

文芸研究下原ゼミ通信No.365

 

BUNGEIKENKYU Ⅱ SHIMOHARAZEMI TSUSHIN

編集発行人 下原敏彦

4/9 4/16 4/23 5/7 5/14 5/21 5/28 6/4 6/11 6/18  6/25 7/2 7/9 7/16 7/23 

観察と記録

 

2019年読書と創作の旅

 

4・9下原ゼミ

 

 

「2019年 読書と創作の旅」を前に

 

皆さん、こんにちは! 桜も散り、いよいよ新学期がはじまりました。所沢校舎よサヨウナラ。今年度から学びの場は江古田校舎です。

5月1日から年号も変わりいよいよ新しい時代がはじまります。その意味で今年は内外ともに新しい年、記念すべき節目の年です。

2年次は、大学生活にも慣れ、勉学に意欲がわく大切な学年です。自分は、なにをすべきか。なにを学びたいのか、目標をしっかり立ててスタートしましょう。

下原ゼミは、毎年「読書と創作の旅」と銘打って、「観察と記録」を手段として読むことと書くことの日常化・習慣化を身につけるための授業をススメます。テキストは、主に志賀直哉の初期作品を中心に読みながら、創作・エッセイを発表し、批評しあいます。提出された作品は、すべて本通信に掲載します。

※今年はナポレオン生誕250周年ということなので、その関連としてドストエフスキーの『罪と罰』再読の感想も併せて連載します。

 

読むこと、書くことが楽しくなるような明るいゼミを目指しましょう!

 

講師紹介 1947年長野県生まれ「ドストエーフスキイ全作品を読む会・読書会」主催

(10年1サイクルで、今年5サイクル目終了)柔道・土壌館下原道場33年

【主な著作】『伊那谷少年記』『山脈はるかに』写真集『黒板絵は残った』『ドストエフスキーを読みながら』『ドストエフスキーを読み続けて』『オンボロ道場は残った』写真集『五十歳になった一年生』写真集『還暦になった一年生』など。

【テスト問題採用作品】

□小説「ひがんさの山」子ども時代の思い出

四谷大塚 6年生 シリーズ第5回Bコース試験問題

物語・小説の読み方 平成17年10月14日~16日

□小説「コロスケのいた森」子ども時代の思い出

埼玉県県立高校入試国語問題 平成20年度 第二次募集学力検査国語問題

大阪府立高校入試国語問題 平成21年度 前期入学者国語問題

 

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はじめに、この4月1日に発表された新年号について。

 

ニュース    祝・新元号「令和(れいわ)」に ! 5月1日施行

 

注目された新元号が、4月1日、発表された。平成に代わる新しい元号は、「令和」。奈良時代に完成した日本に現存する最古の歌集「万葉集」を典拠にしたといわれる。

この新元号「新聞(朝日)によると「日本で記された国書を典拠とする元号は、確認できる限り初めてとなる。元号を改める政令は即日公布。皇太子さまが新天皇に即位する5月1日に施行される」とのこと。

 

新聞各紙は、典拠について下記のように報じている。

 

『令和』(れいわ)の典拠

 

■出典

「万葉集」巻五、梅花の歌三十二首并せて序

 

■引用文

 

初春月、気淑風

梅披鏡前之粉、蘭薫珮後之香

 

■現代語訳(中西進著)「万葉集」から

 

時あたかも新春の好き月、空気は美しく風はやわらかに、梅は美女の鏡の前に装う白粉のごとく白く咲き、蘭は身を飾った香りの如きかおりをただよわせている。

 

「令和」とドストエフスキー

 

自然の美と人間の幸福を詠った歌。新年号に期待をこめたという。千余年も前も、現代も人間の思いは変わらない。そのことを改めて思った。同時にドストエフスキーが作品にこめたモチーフが、その願い「令和」に重なった。

「善い思い出は人間を救う」ドストエフスキーの根本理念を生んだトゥーラ県のダーロヴィエ村の「黄金時代」美しい自然と、『百姓マレー』の純朴なやさしさ、懐かしさ。それら子ども時代の思い出は、ドストエフスキーの理想となった。

※「あの百姓のマレーは私の頬をべたべたとたたいて、小さな頭をなでてくれたっけ」/懲役へ行って初めて思い出した。あの思い出のお陰で、懲役暮らしを耐え抜くことができた。(ノート)。ドストエフスキーが願ったのは、調和と融和ある社会。人間一人ひとりの幸福だった。楽園実現のためにドストエフスキーは、数々の作品でその方法を試みた。

だが、その理念達成を阻むものがいた。人間だった。虐待、いじめ、詐欺、暴力、差別、そして戦争。人間の悪は尽きることがない。16世紀160万人、17世紀600万人、18世紀700万人、19世紀1940万人、20世紀10780万人(米国報、世界の推定戦死者数)「地球は、地殻から中心まで、人間の涙でびしょぬれになっている」

なぜ人間は、こうなのか。ドストエフスキーは、作品世界にあらゆる人間(主に、異常な人たち)を登場させ、読者に問いかける。

「令和」の時代が、ドストエフスキーが希求した調和ある時代になってくれることを祈る。

(編集室)

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「令和」雑感  『万葉集』、ゼミ合宿で驚いたこと

 

新年号「令和」の出典が『万葉集』ということで、1260年前の、この歌集がにわかに注目されている。書店の店頭に山積みされたテレビニュースをみた。

この『万葉集』で思いだしたことがある。一昨年、2017年だが、8月16日~17日に実施したゼミ合宿。行き先は、南信州伊那谷山中にある阿智村。

峠一つ越した向こうは島崎藤村の『夜明け前』の舞台、妻籠、馬篭がある。「木曽路はすべて山の中である」の言葉通りの山奥である。このゼミ合宿では、日にちの都合から、前年天皇・皇后様が訪問された「満蒙開拓平和記念館」しか見学できなかった。そのときは、こんな山の中から、遠く満州に国策で送りだされた人たちがいた。そのことに驚いたが、郷土史家のガイドの話からもう一つ知ったことがある。この木曽山中の山奥が古事記・日本書紀に登場、『源氏物語』でも知られているということだった。加えて、改めて驚かされたことは、この土地の若者が詠った歌が『万葉集』に収録されていたことだ。

 

※巻20、防人の歌の中に、(この土地の)神坂峠で詠んだという次の歌がある。(『阿智村誌』)

 

ちはやぶる神のみ坂に幣奉(ぬさまつ)りいわふ命は母父(おもちち)がため (万葉集20巻)

 

【解説】防人は朝廷の命により筑紫(九州)北辺の守備に徴用された兵士のことで、東国の若者に限られ、年令は17~20歳であったという。この歌は埴科郡の郡書記であった青年が、命令に従って故郷信濃国と別れを告げるときの歌である。これが見納めになるかも知れない危惧の念にかられながら、荒ぶる神の領域である峠神の前にぬさをたむけて身の安全を祈るのは、ふるさとに待つ父母のためであるという、現代人にも共感できる心情である。

 

■この歌で驚いたのは、日本は、なんと1200余年も前から鉄壁の管理国家であったということだ。こんな山奥にも朝廷の命は届いていたのである。

 

■1186年が過ぎた。あの戦争が終わる三カ月前、1945年5月1日、この村の若者たちは故郷を後にした。満州という理想国家をつくるためと。

 

■1940年生まれの歌人 小林勝人さんは、遠く離れた二つの時代の若者たちの悲劇を思って、こんな歌を詠んでいる。(『伊那の谷びと』小林勝人 信濃毎日新聞社2015.8.15)

 

意毛知知我多米(おもちちがため)と防人、国が為と満州に行きし伊那の谷びと

 

全国で最も多きは長野県 33千人満州に行きぬ

 

むら人の5人に一人が満州に行きし村あり この伊那谷は

 

※『万葉集』 全20巻の歌集。歌数4500首 仁徳天皇~天平宝字三年(759)迄

作者は天皇から農民、兵士、こじきに至るまで多彩。

 

 

 

 

 

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書くことについて

 

  1.  何のために書くのか 書く動機との出会いが大切

 

毎年、そうですが、入試の面接で将来の目標をたずねると、ほとんどの受験生が「小説家志望です」と、はっきりした答えです。しかし、「なぜ小説家になりたいか」との質問には、「書くことが好きだから」「本が好きだから」と、曖昧で歯切れが悪い。何のために書くのか。観察対象との出会いが大切です。

 

  1.   観察対象と書く目標を捉えた作家と作品

 

【社会観察】資料2 『心に残る人々』「雨の移民収容所」日本の現実

 

石川達三 明治38年(1905)~昭和60年(1985)

1935年(昭和10)年、ブラジル移民の実態を描いた『蒼氓』で第一回芥川賞を受賞して華々しく文壇にデビュー。中央公論社特派員として戦線視察に行き、それを材とした『生きてゐる兵隊』(昭和13年)では、即日発売禁止の筆禍事件にまきこまれた。

戦後に発表した作品は題名がそのまま流行語となり、その敏感な時代感覚は新聞小説の名手としてもてはやされた。

社会的な事件や実在の組織をとりあげた作品が多く、その作品は広い社会的視野と強い正義感にあふれている。

 

第一回芥川賞候補作

  • 受賞:石川達三 蒼氓(『星座』1935年4月号)
  • 候補(受賞者、予備候補者を除く。以下同じ)
    • 外村繁 「草筏」(『世紀』1935年3月号、4月号)
    • 高見順 「故旧忘れ得べき」(『日暦』7号-10号)
    • 衣巻省三 「けしかけられた男」(『翰林』1934年10月号
    • 太宰治逆行」(『文藝』1935年2月号)

【家族、自分観察】自分と家族観察から、書く目的を発見

 

志賀直哉 明治16年(1883)~昭和46年(1971)

 

『和解』『暗夜行路』家族と自分を観察した作品。

 

ゼミでは、処女作3部作の他、車内観察作品と裁判ものもテキストにする。

 

【人間観察】人類救済は、まず人間とは何かを知る

 

ドストエフスキー 1821年~1881年

 

愛読書について 愛読書との出会い。1845年5月6日未明の出来事

グリゴローヴィチ(1822-99)、ネクラーソフ(1821-78)

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ゼミの活動 ゼミの活動は、ゼミ誌発行とゼミ合宿があります。

 

  1. ゼミ合宿について 

 

  1. 軽井沢日大施設 → マラソン朗読会実施。
  1. 南信州昼神温泉郷 → 「満蒙開拓平和祈念館」見学 星空見物

「熊谷元一写真童画館」見学 古代道散策

 

写真は、ゼミ合宿した昼神温泉郷

 

※映画「望郷」の舞台となった阿智村。日藝出身の内藤剛志さんが主演した。

(満州開拓団の悲劇を描いた実録映画)2016年天皇・皇后両陛下が訪問で話題に。

 

※ゼミ合宿の有無の締め切りは、はやくなりました。

 

  1. ゼミ誌について

 

ゼミ誌づくりは、実践の勉強になります。原稿集め、校正、印刷会社との交渉など。

他薦、自薦で編集委員を決めてください。

 

近刊のゼミ誌(Ⅱ、Ⅲ年ゼミ)

 

『背中に人生を』(2004)『GOGO ☆ Den 電 』(2007)『旅路報告』(2011)

『そして誰もいなくなった』(2010)『ドレミファ そらシド』(2008)

『『正体不詳 Show time』(2012)『柔』(2015)『サンサシオン』(2006)

『自主創造』(2018)『暗がりの牛』(2017)

『熊谷元一研究 創刊号』『熊谷元一研究 No.2 』『熊谷元一研究 No.3 』

『懐古 』『2016 くまがいもといち研究』

 

  1. 校外内活動について

 

  1. 郊外活動 ・秋田・写真展見学(乳頭温泉郷)

      ・岩波書店操業百年展見学(銀座・教文館)

      ・熊谷元一写真賞コンクール20周年展(半蔵門フォト)

 

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読書のススメ

たとえば健全の身体には健全の精神が宿る、という言葉がある。文字通り取って一生懸命に体を鍛えれば・・・・は、漫才のコントだが、読書する身体には、とすれば、立派な標語になる。まさに「よりよい読書には健全な精神が宿る」である。

ところで健全な精神とは何か。端的に云えば教養と正義を持つ心である。正義は、もって生まれたものもあるが、真の教養はそうはいかない。この両方の精神を育ててこそ人は真の意味で全うな人間になれる。全うなーつまり健全な精神を持てない人間は、どんなにブランドもので身を飾ろうと卑しい。ことにあたると浅ましさを露呈する。例え権力者になろうと、大金持になろうと、いかなる名声を得ようと、である。

昨今、大学は入学するためだけの、よりよい就職先を見つけるためだけの場所となっている傾向がある。しかし、本来の大学の目的は、健全な精神が宿る立派な人間を育てるところである。健全な精神を持った人間を社会に送り出し、誰もが幸せに暮らせるよりよい社会を築いてもらう。その人材を作るために大学は存在するのである。冨や名声を得るためのところでも、学歴を自慢するところでもない。森羅万象の調和を目指すことを学ぶ場。大学の使命は、常にそこにある。書くことも研究することも全てその一点にあるのである。

それでは、健全な精神を育てる為には何をなすべきか。ただ、大学に通って、テストでよい点を取って単位だけをとって卒業すればいい。断じてそういったところではない。世に為政者や役人、経営者、教育者たちの腐敗・不正が後を絶たないのは、そうしたことだけに汲々とした学生生活を送った者が、いかに多いかという証拠でもある。罪を犯さなくても、自分一人だけの欲望を叶えたとしても、大学で学んだ意味がない。あくまでも人の役に立ってこそ、人のためになってこそ学んだ意味があるのである。

では、健全な精神を育て持てるには、どうしたらよいか。読書することである。大学生活という空間のなかで、青春という果てなく思える時間のなかで、とにかく読書すること。それより他にない。しかし、それもただ本を読めばいい、というものではない。巷に書物はあふれている。悪書は何冊読んでも浪費の体験にはなるが、プラスにはならない。良書も、ただ読んだだけでは、健全な精神を育てる肥料にはならない。ただやみくもに肥料を与えても植物は育たないのと同じである。読書は簡単だが難しい。

ならば、読書は、どんなふうにしたらよいのか。それについて、今日の近代日本人をつくった明治の偉大な教育者・嘉納治五郎(1860-1938)が説いている。次号で紹介。

書くことのススメ

 

書くことのススメ・・・文芸学科の学生に、なにを今更と思うが、これが案外、無視できないところがある。携帯やパソコンという便利な機具の普及で文章を発することは、いまや日常化している。メールは電話がわりになっているしケイタイで書く小説も流行っているとも聞く。ブログや動画で自分を紹介する人もいる。このように21世紀初頭の現在は、伝達文化が華やかなりし時代である。だが、なぜか書くということを苦手にしている人は、まだまだ多い。ゼミでは、書くことの習慣化を身につけます。

まず、書くことの基礎として、ゼミではしっかり観察することからはじめます。観察する対象は、自分自身と自分の毎日の生活、それに毎日利用している電車の車内です。これらをしっかり観察し書いて発表します。創作でも実際のことでもかまいません。もの書く以上、恣意的なものではなく、聞き手が、いかに関心をしめすかが重要です。いくら立派な文章も聞いてもらえなければ、読んでもらえなければ何もなりません。観察のテキストは志賀直哉です。なぜ志賀直哉かは、次号から触れています。

 

 

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  1. 校内活動

ゼミⅡ授業テレビ取材

 

5・21長野朝日放送、熊谷元一研究の授業風景を放映

abnステーション長野県(月~金 午後6時15分~55分放送番組)

5月21日(木)夕方6時15分から長野朝日放送は、abnステーション「戦後70年特集」番組において、近く刊行予定の『黒板絵は残った』についてを放映した。下原ゼミは熊谷元一研究をすすめているが、黒板絵はその研究の一環。

インタビューでは、D文学研究会の清水正教授が黒板絵について、下原が熊谷の教育理念につい語った。日芸所沢校舎が映された。

※2015年の熊谷元一研究は、「黒板絵」を取り上げ、江古田校舎で写真展を開催、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞など多くのマスメディアが取材にきました。

 

黒板絵・写真展開催 好評(1日平均20人の見学者)

 

62(火)16(火)日芸アートギャラリー AM1000~PM1800

 

展示風景

 

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テキスト 『志賀直哉作品』『伊那谷少年記』写真集『一年生』『罪と罰』ほか

 

▼第1回毎日写真賞を受賞した『一年生』―ある小学教師の記録―

 

 

・・・・・・・・・・・・・・掲示板・・・・・・・・・・・・・

 

一緒にドストエフスキーを読みませんか

 

 

読書会のお知らせ ドストエーフスキイ全作品を読む会「読書会」

どなたでも自由に参加できます。下原まで

 

月 日 : 2019年4月20日(土)

場 所 : 池袋・東京芸術劇場小会議室7(池袋西口徒歩3分)

開 場 : 午後1時30分

開 始  : 午後2時00分 ~ 4時45分

作 品  :『カラマーゾフの兄弟』二回目

米川正夫訳『ドスト全集12、13巻(河出書房新社)』 他訳可

報告者  :  報告者・江原あき子さん

 

 

月 日 : 2019年6月15日(土)

場 所 : 池袋・東京芸術劇場小会議室7(池袋西口徒歩3分)

開 場 : 午後1時30分

開 始  : 午後2時00分 ~ 4時45分

作 品  :『カラマーゾフの兄弟』三回目

 

 

※   連絡090-2764-6052下原

 

☆NHKカルチャー柏教室 2019.7-12 AM10:30~

「ナポレオンになりたかった青年の物語」講師・下原敏彦

 

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