文芸研究Ⅱ 下原ゼミ通信No.381

公開日: 

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日本大学藝術学部文芸学科     2019年(令和元年)10月1日発行

文芸研究Ⅱ下原ゼミ通信No.381

BUNGEIKENKYU Ⅱ SHIMOHARAZEMI TSUSHIN
                              編集発行人 下原敏彦
                              
9/24 10/1 10/8 10/15 10/22 10/29 11/12 11/19 11/26 12/3 12/10 12/17 1/7 1/14 1/21 
観察と記録

2019年読書と創作の旅

10・1下原ゼミ

2019年度読書と創作の旅同行者です。8人の仲間です。
宇治京香  安室翔偉  梅田惟花  佐久間琴莉 (松野優作) 伊東舞七
大森ダリア  佐藤央康 (7名参加の日撮影)

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台風15号オンボロ道場の被害
 
 大雨、大風、大雪、異常気象と台風がくるたびに心配になるオンボロ道場だが、これまで、不思議と被害がなかった。が、今回の強風、さすがに。大工の棟梁になった弟子が応急措置をしていった。50戸の屋根修繕を頼まれているとのこと。窓ガラス損害額8000円。
文芸研究Ⅱ下原ゼミ通信No.381―――――――― 2 ―――――――――――――

ゼミ観察  2019年後期前半、同行者出欠票

9月24日からの点呼状況です。()は提出課題

・宇治京香 9/24
前期13/14
・伊東舞七 9/24
前期10/14
・梅田惟花 
前期7/14
・佐久間琴莉9/24
前期13/14
・大森ダリア9/24(1)
前期8/14
・安室翔偉  9/24
前期11/14
・佐藤央康 9/24(2)
前期10/14
・松野優作 9/24(1)      
 前期2/14
総計日   7  
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ゼミ誌編集報告

9/24ゼミ参加者 → 宇治、佐久間、伊東、佐藤 安室 伊東 大森 松野

【ゼミ誌編集会議】宇治編集長 佐久間副編集委員

□印刷会社 →  新星社 決まり

□タイトル → 「暗夜光路」決まり

ゼミ雑誌編集 9/24現在までに決まっていること  

〈制作上の編集日程〉
①進行状況の報告提出 → 10/11(金)迄に
②仮見積もり書の提出 → 10/25(金)迄に
③確定見積もり書提出 → 11/22(金)迄に
④ a.請求書提出
  b.納品書提出
  c.発行の冊子5部 紹介文(100字)を添えて大学編集局に提出
12月6日(金)締切

〈ゼミ雑誌の形態〉
サイズ → 文庫本 原 稿 → 夏休み明けに提出 10月1日(火)~ 提出
表 紙 → 佐久間琴莉さん担当

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提出課題  私の夏休み課題  
ダーツの極意
佐藤央康

 今年の夏期休暇は趣味に生きる。つまりダーツにいそしむ。半年前からは、こんなことになるなんてまったく創造もつかなかった。むしろ少々ダーツにたいしてバカにしていた節があった。それがなぜだか回数が増え、今では、一日に何回ダーツをするのかといった基準になってしまっている。そんなダーツだが、最近練習をしていて考えることがある。それは、質より量の方が上達に必要なことではないか、ということだ。ダーツの練習を昼も夜も外でも家でもしていると、それに比例して多少なりとも上達するのだ。これは、自分以外の人でもやはり同じで投げている人は上手くなり投げない人はおいていかれている。もちろん投げても投げても変わらないどころか成績も下がる日もある。だが、それを乗り越えるのも結局両であった。めげない心と両、これが何事にも上達するうえで必要なことだダーツはメンタルスポーツである。そのため今後はもう少し落ち着いて投げる練習をしよう。

□何事も繰り返しが上達の道。才能より努力かもしれませんね。

『山脈はるかに』を読む

主人公に重なる思い
佐藤央康

高校生から急に先生になることになった蕗子と私は境遇が似ている。私は高校を卒業すると同時に塾講師のアルバイトを始めた。私の場合は個別に高校生に授業をしているだけだが、蕗子の方は小学生に勉強はもちろん生活指導や道徳も教えなくてはならない。そのため私なんかよりはるかに新郎も重なったことだろう。だが、程度はあるが私も何が生徒にとって良い事なのか、右も左もわからないなかで、なぜじぶんがこんなことで悩まなくてはいけないのかと、生徒の存在をうとましく思うことがある。それでもバイトを続けているのは、生徒の成長が実感するときがあったり、必要とされていることにときどきしあわせを感じるからだろう。蕗子も作中で同じような思いにかられているのを見て、そういうものなのかなと一人で納得することができた。

□教えるということ、むずかしいですが楽しみでもありますね。

強風台風の被害に想う   
大森ダリア

 私の住んでいる地域は、台風の被害はそんなにありませんでした。朝ゴミがあちこちに散らばっていたり、重そうな看板が落ちていたりしていました。個人的にイヤだったのは、自転車がサビたことでした。少し良い自転車なのに屋根がないのは、本当に辛いです。
 千葉の方では、被害が大きかったみたいで、水がとまってたり、電気がとまっていたりしているのを聞いて驚きました。もし、自分の家が何日も電気や水が止ってしまったらどうしていいかわからないので怖いなと思いました。恵まれている時代だからこそ何かがあった時に何をすればいいのか考えておかなければいけないと思いました。

□備えあれば憂いなし、といいますが実行するのは難しいですね。その意味では、こんどの台風被害は、よい教訓になりましたね。
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大型台風直撃の日

松野優作

 台風直撃当日、日中に幼馴染に連絡をとった。台風のピークに水着を着て遊ぼうと思っ
たのだが、「傘がさせるうちに帰りたい」などと、とんちんかんなことを言われた。あっけ
なく断られ寂しくもおもったが、一人も気楽で良い。日付変わり、午前2時頃、父に「死
ぬなよ」とだけ言われ家を出た。西風の強さを文字に起こそうにも、体験しろ、としか言え
ない。帰りに小学校の時、嫌いだった奴の門にあった七人の小人の置物を叩き割った。

□友人の対応は、常識的でよかったと思いますよ。嵐に立ち向かうなんて、尋常ではありま
せんからね。お父さんも、さぞご心配だったでしょう。話は面白かったですが…。

引き続き、社会の出来事の感想。自分の日常のことなどを課題とします。書くことの日常
化、習慣化を培います。

後期授業について ゼミ誌編集と並行して

後期は、自分の表現力を磨く授業をすすめます。名作の脚色の口演です。

1回目は、志賀直哉の短編『剃刀(カミソリ)』

この作品は、明治43年(1910)『白樺』第三号に発表
日記 明治43年4月24日
「夜去年の10月殺人というので書いた話を剃刀と改めて書き出した」とある。

 ことしは裁判員裁判10周年です。もし裁判員に選ばれたら――を想定してこの短編を裁
判仕立てに脚色しました。与えられた役を演じきって、さらに客観的に裁判員の目で判決し
てみてください。成り行き殺人(惰性殺人)

テキスト『剃刀』志賀直哉作品から

剃刀職人客殺人疑惑事件裁判

                          脚色 下原敏彦
 配役をきめてください

 ナレーション…              証人 被害者家族(母親)……
裁判長 ………              証人 お梅(被告の妻)………
弁護士 ………              証人 錦公(奉公人) ………
検 察 ………              証人 女中(奉公人)………
被告人 ………
陪審員………  参加者全員

この裁判で問うのは、うっかり殺人 無意識殺人 過失致死罪 殺意確信罪。
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志賀直哉原作、脚色 下原敏彦 擬似法廷劇

剃刀職人客殺人疑惑事件裁判

ナレーション これより「剃刀職人客殺人疑惑事件の裁判を行います。はじめに検察は事件概要を述べてください。

検察官  はい、事件概要を音読します。

事件概要

一九〇九年十月十三日午後十時二十四分頃、麻布十番四角交番に近くの「辰床」の店主、辰吉芳三郎(28)が客を殺したと自首してきた。勤番の山田巡査が「辰床」へ駆けつけると、客用イスに古田航太(23)が首から大量の血を流して死んでいた。死因は出血死。凶器は「辰床」の商売用の剃刀。遺恨なし。業務上過失致死と無差別殺人の嫌疑で逮捕。本人調書、殺したことは確かだが、自分でもわからない、気が付いたら殺していた。

第一回公判

裁判長 「人定質問」被告人は、氏名、年齢、職業、住所を述べなさい。 

被告人 辰吉芳三郎 たつよしよしさぶろう 28歳 職業、剃刀職人 住所は港区麻布六本木1‐12 

検 察 被告人辰吉芳三郎は、六本木の床屋「辰床」の店主。この道10年の腕の良いと評判の剃刀職人。被告は十月十三日午後九時四十五分ごろ、客として来た、市ヶ谷連隊兵士、古田航太(23)の顔を剃刀で剃っている最中、誤って咽を切ってしまい死に至らしめた。客の古田航太には、なんの落ち度もなかった。被告も認めていることから一方的の殺人である。本行為はあくまでも被告本人の意思のもとで行われたことから、通り魔殺人と同等と見なされる。
世間一般の見方も、そのように見ています。翌日十四日の夕刊には「麻布の兵士殺し 犯人は辰床の親方」「病人の人殺し」などと題されて報道されています。よって本件は過失致死ではなく確信犯で、、無期懲役級の重犯罪とみなします。

裁判長 これより裁判に入りますが、被告は自分に不利なことは言わなくても良い。黙秘権の行使を認めます。

被告人 はい。

裁判長 では被告は事件に至った経緯を詳しく述べてください。

被告人 はい。あの日は熱で朝から頭痛がして気がクサクサしていました。頼まれた剃刀がきたのですが、どういうわけか思うように磨げませんでした。それで一層、イライラが募りました。そこへ、あの若者の客が入ってきたのです。客はこれから色町に行くのだといって浮かれていました。仕事中にも、女の好みなど何かと気障りなことばかり言うので癪に障りました。
文芸研究Ⅱ下原ゼミ通信No.381 ―――――――― 6 ―――――――――――――

裁判長 それが原因で殺意が生まれたのか。

被告人 いいえ。そんなことで殺すのどうの、という気は無論ございません。

裁判長 被告人は被害者に対して何か、恨みがあったのか。

被告人 取調べで刑事さんからもよく聞かれましたが、あのお客に対しては何の恨みも感情もありません。ただうるさかっただけです。頭痛と熱のせいかもしれませんが。

裁判長 知り合いだったのか。

被告人 いいえ、あの日、はじめて会った客です。近頃近所にある、市ヶ谷駐屯地に来た者だそうですが、全く知りませんでした。私の店へも、初めて参ったのです。それ故、遺恨などこれっぽっちもありません。あるはずもありません。

裁判長 では、どうして殺してしまったのか。

被告人 わかりません。今考えても、どうしてあんなことをしてしまったのか、まったくわかりません。妻は一時的に気がふれたのだと申しております。事件を起こしたことを考えればそうかもしれません。しかし、現在も、以前も、自分にはそんな兆候は微塵たりともございません。今もこの通り、タシカです。気がへんかどうかで医者に行ったことはございません。

裁判長 全く殺す動機がないということだな。

被告人 はい、そうです! ただ強いてあげるならば、咽を剃ります時、三、四里の傷をつけてしまった――そのことくらいです。

裁判長 キズをつけた?! お前はその傷が命に関わる大きな傷と考えたのではないか? そう勝手に思い込んで、どうせ助からないのなら、一思いに死なせてやろう。そんな風に思ったのではないのか。

被告人 その瞬間にそんな気があったかどうかは、考え出せません。しかしあれくらいなら、毎日のようにうちの小僧共がやっていることで、とても大事になるとは思いません。ほんとうにただのひっかき傷でしたから。

裁判長 お前は、腕のいい剃刀職人との評判だが。

被告人 腕がいいかどうかは知りませんが、これまで十年余りも剃ってきて、客の顔を一度も傷をつけたことはありません。

裁判長 間違いないか。

被告人 はい、間違いありません。キズつけたことなどありません。

裁判長 ただの一度も失敗したことがなかった。完璧だったというのだな。

被告人 はい、そうです。
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裁判長 ということは裏を返せば原因というか、動機はそこにあると思うが、どうか。

被告人 どういうことでしょうか。

裁判長 腕がいいからこそ、自分のちょつとしたミスが許せなかった。そして、その一瞬の悔いが、更なる行為、殺害へと発展させた。

被告人 わかりませんが…そうかも知れません…。

裁判長 しかし完璧主義者の裏返しとしても、人を殺すというのは大事件だ。動機としては軽すぎる。容疑をもう少しかためるために周囲の証言がほしい。

ナレーション わかりました。これで被告人質問は終わります。被告人は下がってください。

ナレーション 証言の前に弁護人の陳述に入ります。弁護人、前へ。

裁判長 この度の事件について弁護の余地はあるか。

弁護人 事件については弁護の余地はありません。ただ被告人は、いまも慙愧の念に耐え、深く反省しております。今はただ、被害者様のご冥福を祈って焼香し、被害者様のご両親、御兄弟の皆様に深くお詫び申し上げる毎日であります。
本日の陳述では、事件当日に起きました被告の身体と精神の不備状態を述べたいと思います。まず、身体の具合ですが、被告は二、三日前から風邪をひいて臥せっていました。この日も、妻、梅の証言によりますと、38度の熱があったようです。それで、意識的にも身体的にも朦朧状態にありました。次に精神状態ですが、一ヶ月前に働いていた二人の剃刀職人を首にしたことで相当悩んでおりました。
というのは、この二人は元同僚だったからです。一人は二年前にやめたのですが、また帰ってきて「心を入れ替えた」というので、主人となった被告が良心から再び雇い入れたのです。しかし、この二人の元同僚は遊び癖がついていて、店の金に手を出すようになったことで、先月、クビにしたのです。そんなことで店には二人の見習い小僧しかいませんでした。
そこに秋季皇霊祭の前にかかって、店は大忙しとなりました。折り悪く、磨きにだした剃刀の研ぎが良くなく。そうした不備が重なり、被告は心神耗弱の状態でした。本来ならば仕事を断わるべきでしたが、被告の律儀な性格が災いをして、顔剃りを引き受けてしまったのです。このような理由から職業上から起きた事故と言うことで、本件は不可抗力による過失致死と判断いたします。

裁判長 それでは次に検察の陳述をお願いします。

検 察 はい。私どもの捜査でわかっていることを申し上げます。まず被告は他者に強いられた訳でもなく、自分の意思で殺したことを自覚しています。それに被害者の首の傷はどう考えても作為的なものです。被告の妻は、被告が自分で殺したと言って、警察に行くのを見ています。その時の被告は、足取りはしっかりしていたし、意識もはっきりしていた、と言っております。被告の妻が証人です。

ナレーション 被告人の妻、前に。

裁判長 今、検察が述べたことは本当か
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お 梅 はい。熱のために異常でありました。が、殺したことについては自分で分かっていました。四つ角の交番へ悪びれることなく入っていきましたから。
あの日は、とても仕事ができる健康状態ではありませんでした。何度も止めたのですが、あの人は聞く耳を持ってはくれませんでした。剃刀を磨ぎ損ねたときなんて、肝が潰れたかと思うくらい吃驚しましたす。ぜったいに事故がおきる。そう言ってやめてくれるよう泣いてたのみました。しかし、きいてはくれませんでした。
自分がやらなきゃ誰がやると怒鳴るばかりで、自分の仕事に誇りを持っていたんです。そのせいで変に意地を張ったんです。こんなことになると分かっていたなら、小僧二人を使ってでも布団に縛り付けておけばよかったです。

裁判長 仕事への意地から、事故は起きてしまったというんだな。

お 梅 私がとめていれば、お亡くなりになった人には、お詫びのしょうがありません。

ナレーション 証人はさがってください。次の証人前へ。

裁判長 それでは次の証人にたずねる。名前と、被告との関係を述べよ

錦 公 へえ、錦公と申します。二年前から「辰床」で見習いとして働いています。

裁判長 近頃の被告人はどんな様子だったか。

錦 公 へえ、親方には申し訳ありませんが、近頃やっぱりイラついて見えました。仕事をすることで、なんとか堪えていた。そんなふうに見えました。

裁判長 すると、今度の事件は不満の積み重ねから起きてしまった悲劇ということか。

錦 公 へえ、よくわかりませんが、日頃のむしゃくしゃが限界まで膨らんで、そこに風熱が加わって、ついに風船玉のように破裂した。そのように思いました。

裁判長 すると相手は誰でもよかったということか。違う客が被害者になっていた。その可能性もあったと思うか。

錦 公 へえ。わかりませんが、そうだったかも…。あの兵隊さん、あの日、あの時刻にきたのが不運でした。

裁判長 そうか…それでは次に、被害者関係者の証言をきく。被害者との関係は。

母 親 母親でございます。

裁判長 このたびの出来事、まことに残念である。前途ある青年を突然に失い、国家としてもその損失を遺憾に思うばかりである。親としての嘆きもいかばかりか。母親として何か訴えたいことはあるか。

母 親 悲しくて、辛くて、言葉もありませんが、息子は、親思いのとても優しい子でした。こんど休みがとれたら、温泉に連れてゆくって約束してたんです。嫁をもらって孫ができるのを楽しみにしていました。それがみんな――息子は、我が家の宝物でした。そんな息子を、わけのわからない理由で奪われたんです。納得できません。と
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うてい許すことはできません。返してください。それができないなら死ぬまで償ってもらいたいです。泣き崩れる。

検 察 裁判長、いいでしょうか。

裁判長 発言を許可する。

検 察 ただいまお母様の証言にあったように被害者は親思いの優しい前途ある若者でした。何故に理不尽に殺されなければならなかったでしょうか。被告と言い争うようなことがあったのでしょうか。いえ、そんなことはありません。被害者は初めて入った店で、しかも店にいた被告の妻、奉公人の証言によれば上機嫌だったといいます。何一つ落ち度のない若者を、その時の自分の感情――それもうまく剃れなかったという自分の腕への怒りだけで母親の宝、国家の宝をいとも簡単に切り殺したのです。被害者は、まさに通り魔にあったようなものです。いや、通り魔よりも状況が悪いと思います。通り魔ならば警戒心を持って歩くことも出来ます。ですが、被害者は全くの無防備でイスに横たわっていたのです。まさか床屋に行って殺されるなんて、だれが思うでしょう。被告人を信頼する以前の問題です。そんな状態のなかで被害者を殺害するのは容易です。被告は客の信頼をも裏切ったのです。
本来ならば、この情け知らずの残忍な犯行と、親思いの被害者の前途を見て、被告人に死刑を求刑したいところですが、病気と心労があったことを考慮して、検察は懲役20年を求刑します。

裁判長 弁護人の反論はありますか?

弁護人 風邪熱と心労、加えて生来の生真面目性格が加担し、被告をその瞬間だけ心神耗弱、あるいは心神喪失状態に陥れたとみるべきでしょう。この事件は医学的・科学的見地から捉え判断するべきです。病気、性格、その日の体調などなど、いろいろな出来事、様々な不幸な要素がからみあってその結果、起きてしまったの不幸な事故と見るのが最良な判断ではないかと思います。そのことを証明するため、部外者の証言をお願いします。

裁判長 それでは店の関係者以外の証人、前へ。

女 中 山田で女中をしている者です。

裁判長 山田とは――

女 中 同業者です。そこで女中をやっております。

裁判長 あの日「辰床」には行きったか。

女 中 はい。お昼頃に行きました。旦那様が明日の夜。旅行に行くので剃刀の磨ぎを頼まれましたので。

裁判長 そのときの被告人はどうでしたか。

女 中 お店は混んでいて、小僧さんからは「明日では…」と言われました。でもどうしても、と頼むと奥から親方さんの「兼、やるぜ!」と叫ぶ声がしました。いつもと声
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が違うので、なんとなく風邪でもひいているのかと思いました。それで、少し心配になりました。

裁判長 で、剃刀は磨いで貰ったのですか。

女 中 用事の帰りによってみると、出来ているというので貰って帰りました。そのとき親方は風邪で寝ていると聞きました。主人に話すと「珍しいことがあるものだ」と言って、試しに剃刀を使ってみました。

裁判長 剃り具合はどうでしたか。

女 中 あまり切れなかったようです。主人が申すには「このところ大忙しのようだから、研ぐ手に狂いが出たのではないか。親方に一度使ってみてもらえ」と、言付かりました。親方さんは疲れていたんです。それで、あんな事故を起こしてしまったんです。

弁護人 剃刀の研ぎがふだんとは違っていた。被告は、研ぎの名人として信頼されていた。しかし、その日、研いだ剃刀は、変だった。切れが悪かった。これこそ、科学が実証する、決定的証明です。ひこくにんは、病気だったのです。

裁判長 これで検察、弁護人の陳述は終わります。陪審員は私見を述べてください。

陪審員

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裁判長 主文、被告人は   とする。

 

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2019年9月12日木曜日 東京新聞夕刊の全文

. 文芸研究Ⅱ下原ゼミ通信No.381―――――――― 12 ―――――――――――――

2019年9月5日 (木)熊谷元一写真童画館にてゼミⅡゼミⅢ

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熊谷元一生誕110周年記念「一年生」写真展常設のお知らせ

月 日  2019年(令和元年)10月~11月
会 場  土壌館下原道場
時 間  午後3時 ~ 6時(水)
交 通  JR津田沼駅北口、バス3番乗り場 
「船橋役所 二宮出張所」下車 徒歩3分坂道下る。
      土壌館事務局 連絡 090-2764-6052

読書会のお知らせ ドストエーフスキイ全作品を読む会「読書会」

月 日 : 2019年10月12日(土) 開 始  : 午後2時00分 ~ 4時45分
場 所 : 池袋・東京芸術劇場小会議室(池袋西口徒歩3分)
 作 品  :『カラマーゾフの兄弟』5回目 報告者 : フリートーク
連絡090-2764-6052下原 メール:toshihiko@shimohara.net 

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