文芸研究Ⅲ 下原ゼミ通信No.26

公開日: 

日本大学藝術学部文芸学科     2019年(令和元年)12月17日発行

文芸研究Ⅲ下原ゼミ通信No.26

BUNGEIKENKYU Ⅱ SHIMOHARAZEMI TSUSHIN
                              編集発行人 下原敏彦
                              
9/24 10/1 10/8 10/15 10/22 10/29 11/12 11/19 11/26 12/3 12/10 12/17 12/24 1/7 1/14 1/21 
観察と口演

2019年ゼミⅢ読書と創作の旅

12・17下原ゼミ

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12・10ゼミⅢ報告 ゼミ雑誌『是溢市(ぜみし)』納品

 12月10日(火)、ゼミ雑誌『是溢市(ぜみし)』刊行。編集出版局に納品。ゼミ誌の感想談。この日の参加は、西村美穂、吉田飛鳥、中谷璃稀。
土壌館日誌      千葉県の手賀沼散策
古希を過ぎてから山歩きにはまった友人たちから、手賀沼散策を誘われた。彼らは、この秋、上高地から北アのジョギングコースを歩いたことで、普段でも足ならしのため歩いていたいようだ。私は足のシビレはあるが、少々の道なら支障はないので参加することにした。12月11日 曇ってはいたが、風もなく暖かい日だった。JR「我孫子駅」に集合。人身事故のため20分遅れたが、手賀沼散策に出発した。この日は、白樺派の別荘地跡を見て回った。10㌔計画。手賀沼は20年ほど前までは日本一汚れた沼との悪評だったが、その後の改善で、かっての風光明美な土地になった。遊歩道は整備されていて快適だった。編集室
文芸研究Ⅲ下原ゼミ通信No26 ―――――――― 2 ――――――――――――――

ドストエフスキー生誕200周年を前 に

ドストエフスキーの『罪と罰』を読む

 2021年はドストエフスキー生誕200周年です。ということは、来年2020年は前夜祭に当たります。この節目を記念して、ドストエフスキーを読みます。作品は、主に『罪と罰』です。以下はHP(立命館法学)からの紹介。
ラスコーリニコフの周辺
-ドストエフスキーの『罪と罰』をめぐって-

上 田  寛
目    次

• は  し  が  き
• 一  ラスコーリニコフ  たち
• 二  時代、社会、犯罪現象
• 三  犯罪と刑罰
• 四  裁      判
• 五  ドストエフスキーの刑法思想
• むすびにかえて
一  ラスコーリニコフたち
一八六六年一月一二日、モスクワの中心部ゲルツェン街の裏通りの住居で、高利貸しである
退役大尉ポポフとその下女マリヤ・ノルドマンが殺され、現金や有価証券二万三千ルーブリ
が奪われるという事件が起きた。被害者の現場に残した帳簿から疑わしい人物としてグリゴ
リーエフ某を割り出し、その人物が借金のかたとして差し入れた宝石を手がかりに、宝石店
に現われてその鑑定を依頼した人物がハンサムな青年であったことを突き止め、そして警察
当局が祝日の繁華街の賑わいの中に立たせた宝石店員が幸運にもその青年を発見し、ここに
モスクワ大学法学部二回生アレクセイ・ダニーロフを逮捕するに至った過程、そしてまた嫌
疑を否認するダニーロフに巧みに持ちかけて肉親への手紙を書かせ、その筆跡と先のグリゴ
リーエフ某が被害者のもとに残した鉛筆書きのメモとを鑑定した専門家がこれを同一人に
よるものと断定したことや、全てを否定していたダニーロフが六日間の勾留の後に供述を変
え、事件当日彼が被害者宅を訪問した際、床に倒れている下女を見つけて驚愕しているとこ
ろへ、被害者の書斎から飛び出してきた見知らぬ男からナイフで攻撃され、負傷しつつ逃げ
たのだと説明したことなど、事件の全ては大きな社会的関心と興奮を引き起こした。この事
件は、ダニーロフの住居の捜索でも何の物証も発見できず、また被告人が最後まで自己の無
実を訴え続ける中で、筆跡鑑定が決め手とされ(被告人が卒業したモスクワ第四ギムナジウ
ムの生徒に特徴的な「まる文字」!)、またもう一つの鑑定対象であるオーバーシューズに
ついて法廷に提出されたそれとの同一性が鑑定人自身によって疑われるなど、犯罪捜査科学
から見てきわめて興味ある経過をたどった末に、結局、翌六七年二月一四・一五日モスクワ
管区裁判所で開かれた公判において陪審員たちは被告を有罪とする評決を行ない、被告人ダ
ニーロフは鉱山における九年の徒刑、それに引き続く終身にわたるシベリア流刑に処せられ
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た*。*  Krylov I. F., Byli i legendy kriminari
stiki, L., 1987. および Sud prisiajnykh v Rossii: G
romkie ugolovnye proytsessy 1864-1917 gg., L., 1
991. による。この事件は司法改革による陪審制裁判の最初の事例となった。
 だが、この一八六六年一月こそは、雑誌『ロシア報知』にドストエフスキーの小説「罪と
罰」の連載が開始された時でもある。この、半ば狂気の元学生の殺人をテーマにした小説の
登場が呼び起こした社会的なセンセーションの、少なくともその一部は、上記のダニーロフ
事件とのおそるべき符合にあったことは明らかである。一人の天才の筆が生み出したラスコ
ーリニコフと実在したダニーロフとの、彼らの犯した事件それぞれのこれほどまでの類似は、
誰をも驚嘆させずにはおかない。事情を知らぬ観察者であれば、これは明らかに現実の事件
に題材を得た小説家の手になる作品と、あるいは逆に、迫真の筆致で描かれたおぞましい犯
罪の影響下にこれを模倣する犯人が現われたと、想定するに違いない。しかし、そのいずれ
でもないことはよく知られている。
ドストエフスキーはスペランスキー事件に連座してシベリアのオムスク監獄で徒刑に処
せられていた時期に、当初「告白」という題名で小説を書くことを構想し、兄に手紙で知
らせている。この構想は、一部は小説『地下室の手記』に実現されるが、その後六年にわ
たり彼の中であたためられ、より具体的な形でその執筆に向けての作業が開始されたのは
一八六五年七月に出かけたドイツのヴィスバーデンで、偏執的なルーレット賭博への熱中
により無一文となり、ホテルの一室で知人の誰彼に援助の送金を依頼する手紙を書き続け
る合間のことであった。何度かの草稿の改訂の後、小説「罪と罰」が『ロシア報知』誌に
連載開始されたのは一八六六年一月号からであった。
したがって、ラスコーリニコフとダニーロフはお互いに知り合うことなく、ほぼ同時に
類似の犯罪行為に及んだこととなる。それは一つの偶然ではあるが、しかし、後に見るような当時の社会状況を背景とした陰鬱な犯罪の頻発を念頭に置くならば、決して突飛なことではなかった。
  たとえばドストエフスキーは、ラスコーリニコフの犯罪に関する物語の基礎となったのは、自分が新聞紙上の刑事犯罪に関する雑報欄から抜き出して創作上の変更を加えて作り出した事実と書いている〔カトコフへの手紙・一九八五年九月一〇日〕。その少し前、八月にモスクワで行なわれたゲラシム・チストフ事件の裁判は、そうであれば、これまたドストエフスキーの芸術的想像力に大きな刺激を与えたはずである(このことを最初に指摘したのはグロスマンであった〔グロスマン・二四五頁)。チストフは二七歳の商人の息子であったが、一八六五年の一月にモスクワで、女主人から強奪する目的でその料理女と洗濯女の二人の老婆を殺害した罪を問われた。犯罪は晩の七時から九時の間に行なわれ、殺された二人は別々の部屋で血の海の中に発見され、鉄の長持ちから引き出された品物が散乱し、現金や貴金属の細工が盗まれていた。当時の新聞が報じたように、老婆たちは離ればなれに別々の部屋で、おそらくは斧で、何カ所も傷つけられて、殺されていた〔ベローフ・五七-五八頁〕。
  してみると、ラスコーリニコフの分身とも言うべき殺人者は何人も存在したのである。彼らの犯罪はそれぞれに一大センセーションであったが、しかしまた、当時のロシアの大都市の諸条件を背景にした典型的な犯罪であった。そのような、いわば「時代の空気」を敏感に感じ取り、ラスコーリニコフという不朽の形象を創り上げたドストエフスキーの天才をこそ、われわれは確認すべきなのであろう。

立命館法学  一九九五年五・六号(二四三・二四四号)
つづく 次回は「時代、社会、犯罪現象」
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連載6回 下原報告
ドストエフスキーと私 

(三)団塊世代の青春時代 どんな世相だったか
 

7.共同体幻想と非凡人思想の挫折

 団塊世代の青春は、共同体幻想と非凡人思想を見た時代でもあります。
 あちこちで干拓事業地が実施されパイロットフォームという農業共同体が奨励されました。いま思えばソ連のコルホーズやソホーズを真似たものだったのかも知れません。私も、東北の山に学校の実習で行ったことがある。共同体で暮す人たちが妙に生き生きしているのが、なにか異様に感じた記憶があります。いまでも共同体は「美しい村」をはじめ、いくつか残っているようです。が、たいていは頓挫しました。だめになる原因は、特定の人が牛耳るようになる。そんな話を関係者から聞いたことがあります。
 ドストエフスキーを読んで、水晶宮という言葉を知ったとき、あのころの共同体を思い出しました。
 もう一つこの時代、若者をひきつけたのは英雄主義、非凡人思想でした。渋谷での銃乱射犯、連続ピストル射殺魔、三億人犯人、赤軍派、三島事件。これらはみんなラスコーリニコフの非凡人思想にとりつかれた犯罪を彷彿しました。自分に才能があるなら、世の中をよくするためなら、なんでもやってやる、という連中です。なかでも三島事件は、その知名度から非凡人思想を代表するものと思いました。この作家がドストエフスキーを読んでいたか、どうかはわかりませんが、世の中をよくするために犯罪をも正当化するというところは『罪と罰』を想起します。同時に、なぜか『カラマーゾフの兄弟』のスネギリョフ二等大尉のあの場面も重なります。ここのところです。引用24

・引用24

『カラマーゾフの兄弟』江川卓訳
…そして、ふいに右足をあげると、凶暴な憎悪をむきだしにして、靴の踵で思いきり紙幣を踏みにじりはじめた。一足踏みおろすたびに、はあはあ息を切らして叫び立てるのだ。
「あなたのお金なんぞ、こうしてやります、はい!こんなお金なんぞ!」彼は急にさっと後ろへ飛びすさると、アリョーシャの前ですくっと胸をそらした。その様子は言い表しようもない誇らしさに充たされていた。・・・
・・・二等大尉の姿が見えなくなると、アリョーシャは二枚の紙幣を拾いあげた。それはひどくしわだらけになって、足で踏まれて砂地にのめりこんでいたが、傷んだところはすこしもなくて、アリョーシャが広げてしわをのばしてみると、真新しい札のようにばりばり音をたてたほどだった。

 他にドストエフスキーの『作家の日記』や『白痴』の処刑場の個所でも思い浮かびました。『作家の日記』は1873年。『白痴」は、この場面です。

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中村健之介訳
…この男は一度、他の何人かの者たちと一緒に処刑台に登り、政治的犯罪のゆえをもって銃殺刑に処す、という宣告を受けたのです。それが20分ばかり後に、今度は減刑が宣告され、別の刑罰が申し渡されました。しかし、この二つの宣告の間の20分間、少なくとも15分間、この男は、あと何分かしたら自分は一瞬のうちに死んでしまうのだという、微塵も疑いのない確信のもとに生きたのです。彼は何もかも異常に鮮明に覚えていて、あの数分間のことは決して忘れることはないだろうと言っていました。・・・・生きていられるのはいよいよあと五分間ばかり、それ以上はない、となったのです。この五分間が無限の時間、巨万の富のように思えた。・・・それで彼はさらにいろいろな手筈を決めました。仲間たちに別れを告げる時間を計算し、それを約二分間を振り当てました。それからさらに二分間を、最後に自分のことを振り返って考えてみるために当てました。それから、この世の名残りにあたりを見ておくために・・・
 さして遠くないところに教会がありました。教会堂の屋根は鍍金がしてあって、その一番高い所が明るい太陽の光を受けてきらきらと輝いていました。男は、自分がその屋根を、そして屋根から発しているまぶしい光を、食い入るように見つめていたのを覚えていました・・・・
 もしも死なずにすんだら!もしも命を取り戻せたら――何という果てしない時間だろう!

ここで三島事件について1970年12月19日発行の『会報』12の「事務局だより」に

「三島ショックともいうべき混沌たる精神状況の中で1970年も過ぎていきます。ドストエーフスキイ文学を手がかりに問いつめようとしている私達の問題意識の中で、あのようなロマン主義的な政治行動についての評価はどのような形をとってくるのでしょうか」

とあるので、もう少しこの問題に触れます。事件の混沌を、整理してみました。
 あの事件は、あまりに有名で、本も沢山でているので、いまさらどんな事件だったか、説明する必要もありませんが、意外と知られていないこともある。三島という作家が若者四人を連れて、市ヶ谷自衛隊東部方面総監部の総監室を占拠し総監を人質にクーデターを要請。自衛隊に呼びかけるも失敗。若者と二人で腹を切って死んだ。これが一般的に知られていることだが、事件があった総監室での推移を知る人はすくない。と、いうことで、時系列に追ってみました。引用25(『三島由紀夫死と真実』ストークス著抜粋)

・引用25
1970年11月25日
10時53,4分 市ヶ谷の自衛隊東部方面総監部正門に三島と若者4人を乗せた車が到着する。車中に日本刀があったが警衛所の隊員、三島を見て咎めず。
11時00分頃 三階建ての二階にある総監室に三佐の案内ではいる。益田総監(57)が迎える。総監室の広さは6㍍×7・5㍍と狭いが天井は高い。外部に通じる場所は、廊下にドア、バルコニーに窓、西側の副長室と幕僚長室にも通じるドア。この日、小春日和。晩秋の陽射しが窓から注いでいた。
 三島が日本刀を見せると総監は
「立派な刀のようですが、そんなものを、吊って、警察に見咎とがめられませんでしたか。私は規則をよく知らんが、われわれも軍刀は携行しておらんのです」と言う。三島は、芸術品だとごまかす。
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11時05分頃 若者たち総監を襲いしばりあげる。バリケードをつくりはじめる。三佐、覗き窓から事件を知り仰天。上司の一等陸佐に報告。二人はドアを開けようとする。開かないので幕僚副長に報告。幹部たち覗いて事件を知る。
11時20分 自衛隊員体当たりでドアを破り、数人の下士官が総監室になだれ込む。武器は木刀一本。陸佐、三島に背中と腕を斬られる。陸曹、右手首が落ちるほど斬られる。さらに一人が両腕と背に三太刀浴びる。あと一人は木刀で防ぐ。一同、総監室から逃げる。自衛隊の幹部たち、非常事態にただただ狼狽するのみ。陸将補は作戦のないまま六人の隊員を引き連れ再び、総監室に突入。武器は棒一本持たず。再び乱闘。自衛隊三人が負傷。森田の短刀を奪うも、またしても七人とも逃げ出す。(短刀を置いてか?)
12時少し前頃 三島と森田、バルコニーに現れる。三島、檄をとばすが野次られ「天皇陛下万歳」を三唱して再び総監室へ戻る。三島、切腹の前に再び「天皇陛下万歳」を三唱。三島、切腹。森田、斬首される。
12時23分 検死官、二人の死亡確認。

 ドストエフスキーを手がかりにこの事件を解く。はたしてそれはできたでしょうか。世間では三島事件は、いまもって論じられています。信奉者も増えていると聞きます。
 私と同世代の若者が道連れにされた、この事件を思うと、痛ましい気持です。あの時代、団塊世代の若者は名のある人の下で働きたいという意識が強かった。三島は超有名人でしたから、ちょっと旗をあげれば若者たちが集ってきたはずです。
 死んだ若者は自衛隊員と乱闘の際、短刀を奪われたとありますが、もしかして彼は、その瞬間、ほっとしたのではないだろうか。これで死ななくてもよい。どうせ失敗するとわかっていても、クーデター計画が失敗したら死ぬことになっていた――自害するふりをすることになっていた。だが、なんと自衛隊員たちは逃げ出してしまったのだ。そのときの若者の心中は察するに余りある。若者は、絶望のなかで、まだ一縷の望みを託しただろう。バルコニーにいる間に、自衛隊の特殊部隊が総監室を奪取してくれると。だが、彼らは、うろたえ小田原評議していただけだった。中には戦争経験者もいたというのにである。団塊世代にとって三島事件は、政治、芸術、性的などなど多面的だが、新人類、新新人類と呼ばれる世代の人たちが、三島を非凡人に祀りあがめようとしているのが心配である。ドストエフスキーは教えてくれる。人間は総合芸術の生き物である。たとえ何か秀でていても、それだけでは人間といえないのだ、と。
つづく 次回は「八.団塊世代とドストエフスキー」

お知らせ

NHK文化センター 柏市民講座「ドストエフスキー『罪と罰』を読む」6回

2019年12月19日(木)AM10:30~12:00 最終審理第5回 講師 下原

読書会 ドストエーフスキイ全作品を読む会「読書会」

月 日 : 2020年1月11日(土) 開 始  : 午後2時00分 ~ 4時45分
場 所 : 池袋・東京芸術劇場小7会議室(池袋西口徒歩3分)
 作 品  :『カラマーゾフの兄弟』5回目 報告者 : フリートーク

連絡090-2764-6052下原 メール:toshihiko@shimohara.net
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 創作ルポ 日本大学外聞 草稿 追記・校正しながら完成させる

昭和43年5月、突然、燃え上がった日大紛争。鎮圧を命じられた警察機動隊の総指揮官・佐々淳行の脳裏をよぎったのは「造反有理」の言葉だった。学生にたいする憐憫。佐々はその著『東大落城』(文春文庫1996)にこう書いている。
「もう一つの学園紛争の最高峰は、日本大学だった。こちらは東大とは全く逆に、その紛争の原因は極端な「教育の商業化」にあった。
 このルポは創作です。いかなる団体。いかなる人物、いかなる出来事とも関係ありま
せん。背景は大学紛争ですが、学園紛争とは、まったく関係ありません。

    仮称 昭和元禄草もう伝(水滸伝)  1

前回、第一章 一、嵐の前 物語の概要 萩、松陰神社に明治維新百周年を記念して維新の立役者山田顕義の銅像が建立された。が、石碑に日本大学の名がなかった。日大は、今年はじめに発覚した使途不明金騒動の最中。それどころではなかった。電話での指摘に、「石屋が忘れた」とのこと。確認に本部助手の此木大介に白羽の矢が。しかし、現地にきてみると「いま日大の名前はよろしくないから」との言い訳。平身低頭、頼んでもけんもほろろ。

 このまま東京に帰っては、学祖様に申しわけがたたない。此木は、がっくりした気持ちで境内のベンチに座り込んだ。
近くで誰かが鼻歌をうたっている。

60余州を 揺り動かして  
菊を咲かせる 夜明けが近い
のぞむところだ 幕末 あらし
剣を つかんで
いくぞ 高杉晋作が

3、4年前、人気のあったテレビドラマ「高杉晋作」(主演 宗像克己)の主題歌のようだ。此木、テレビを買ったばかりだったので、たまに見ることがあったので記憶していた。
みると閑古鳥鳴く土産物店の近くで若者が、地面に敷いた敷物にあん座して扇子を売っていた。広げた見本の扇子には、漢詩らしき文字。若者は詰将棋本をみながら鼻歌を歌っていた。

 境内の隅にある土産物小屋の近くで、若者が扇子の色紙を売っていた。四月はじめの神社。参拝客は少ない。若者は、色紙を売るのをとうに諦めている様子で、なにかの歌を口ずさみながら、のんびり詰将棋の本をみていた。
 旅行客らしい青年が、足をとめて声をかけた。
「すみませんが―」
若者は気がつかない。
「すみません」青年は、少し声をおおきくした。
「あ…」若者は、驚いて立ち上がった。ひょろ長い180はあろうか。「お客さん、いつのまに。すまんです。今日は、お客さん少ないんで」
「いや、いや驚かせてすみません。ちょつとみかけたものですから」
「なんです」
「その扇子のことなんですが」     
文芸研究Ⅲ下原ゼミ通信No.26 ―――――――― 8 ―――――――――――――

「ああ、これ、吉田松陰先生の漢詩です」

立志尚特異  志を立てるためには 人と異なることを恐れてはならない
俗流與議難  世俗の意見に惑わされてもいけない
不思身後業  世の中の人は 死んだ後の業苦のことを思うこともなく
且偸目前安  ただ目の前の安逸を貪っているだけなのである
百年一瞬耳  人の一生は長くても百年 ほんの一瞬である
君子勿素餐  君たちは どうか徒に時を過ごすことのないように

2019年度下原ゼミⅢ後期出欠記録

()は提出課題レポート
 ・志津木喜一 9/24  ―  10/8   ―   ― 10/29 ―  11/19 11/26 12/3                
  前期4/14                                     (1)  (1)
・神尾 颯  ―   ―  ―  ―    -  -  - - - ― 
  前期8/14
・松野 優作 9/24 ―   ―   ―   10/22  ―   ― -
  前期2/14
・西村 美穂 9/24 10/1 10/8 ―   10/22 10/29 11/12 11/19 11/26 12/3
  前期14/14                                     (1)  (1)
・吉田 飛鳥 9/24 10/1 ―   ―   10/22 10/29 11/12 11/19 11/26 12/3
  前期14/14  (1)                                 (1) (1)
・中谷 璃稀 9/24 10/1 10/8 10/15 10/22 ―  11/12 11/19  - 12/3
  前期13/14  (1)                                     (1)
・佐俣 光彩  ―   ―   ―   ―   ―   ―   ―  -      -
  前期6/14
・東風 杏奈  ―   ―   ―   ―   ―   -   -  -  ―   - 
  前期4/14
・山本 美空 9/24   ―   ―  ―   ―   10/29  ―  - - - 
  前期7/14
        6   3  1  4   4   4   3    4  3
       
・志津木喜一  ―

・松野 優作  ―

・西村 美穂  12/10

・吉田 飛鳥  12/10

・中谷 璃稀  12/10

・佐俣 光彩   ―

・山本 美空   ―

・神尾 颯
・東風 杏奈
         3

以下は。『罪と罰』「金貸し老婆とその妹強盗殺人事件裁判」二回公判の感想です。

4人の皆さんが熱演でした。吉田飛鳥、志津木喜一、中谷璃稀、西村美穂

第二回公判を終えて、一人複数役お疲れ様でした。

第二回公判「金貸し老婆とその妹強盗殺人事件」裁判の感想

☆裁判長・被告人調書……吉田飛鳥

能ある人と能のない人の違い

 ゲーム「龍が如く」シリーズのスピンオフ的な立ち位置で発売された「ジャッジアイズ」という作品がある。僕はこのシリーズの大ファンであり「ジャッジアイズ」に到っては、あの木村拓哉が主人公であるという事で、すぐに内容をチェックした。
 物語は。認知症治療の画期的な新薬の人体実験として、多くのヤクザが殺されるというもの。クライマックスで。新約を開発する医師が「これが完成すれば何百、何千の人に感謝される。その為には犠牲がでるのは当然」との旨の発言をした。
 世の中、多くの殺人事件。多くの人が死ぬ。そんな時、罪のない人間が殺されることと、能のある人間が殺されること、どちらも同じ殺人であるとはとても言いきれない。
 能のある人間が犯す罪と、能の無い人間の犯すそれと言った方が。解り易い。

☆被告人・予審判事……中谷璃稀

志し半ばで力尽きた者への想い
 
 ナポレオンになれるものならなってみたい。私だってそうだ。英雄になりたいからって、やっていいことと、悪いことの分別くらいつけなくてどうする。
 名前だけをありがたがって。ブランド物ばかり買う人間と同じだ。私から言わせれば、動機は心底、馬鹿馬鹿しい。自分の私欲のためなら、何でもしょうというのか。本当に人間は欲深い生き物だ。むろん、私もその中の一人かもしれない。
 だからこそ、被告の心情を理解できないわけでもない。思ったことが実行できる。素晴らしいことではないか。有言実行ができる人は、いつの時代でも名を残す。歴史は勝者が作るとはよく言うが、勝者こそ、己の道を突き進んだ者のことを言うのだろう。志し半ばで力尽きた者もいる。そういう者の思いを背負い、生きて行くのが。生き残った者のすべきことだ。
 私は、そういう人間になりたい!

☆検察官・被告人・証人……志津木喜一

稚拙と一蹴するより議論を

 偏ってしまった思想の流行により。その思想を持った若者の暴走をとめることができなかった周りが悔いあらためるべきだと思う。もちろん殺人という形でしか思想を体現できなかった被告は、間違っているが、裁判という形で殺人をしたしたという事実だけを挙げ裁いても、同じような思想を持った人間が同じような暴走をするかもしれない。バカで稚拙な思想だと一蹴するのではなく、その思想を受け止めどう付き合っていくかも議論してもらいたい。

☆進行・証人・証人……西村美穂

被告は全て受動的だ

 今回の被告の話から、(凡人)非凡人というのはつまり神の手先で、自分は神に選ばれたのだから責任は神にある。という主張を感じました。今回の事件の動機が分かりづらいのは、そこにあると思います。幾つもの偶然を重ねることによって被告に老婆殺しをさせた神、采配を誤り、妹までをも殺させてしまった神、自身が老婆殺しを成し遂げたことによって非凡人となった被告は、自分の行動を全て受動的に捉えているのではないでしょうか。

第一回「金貸し老婆とその妹強盗殺人事件」裁判の感想
 
登場人物に寄り添い易くなった     吉田飛鳥(裁判長・証人役)

 『罪と罰』を裁判形式にして読むことによって作品の登場人物、それぞれの視点に寄り添い易くなった。
 ラスコーリニコフの考える人類二分法、ナポレオン思想も作品中では、やはり遠大な考えと受けとることができたが、一歩彼から引いてみると、まさに誇大妄想である。
 野球の上手い人は勉強しなくたって、人に優しくなくたって構わない。プロになれば、その素行に釣銭が出るほどだ。
 非凡人は何故殺人を犯さなければならなかったのか。シラミつぶしをして、一体どのような見返りを期待したのだろう。
 思うに、真の非凡人であれば、シラミのことなど目もくれず、ただ自らの発展に注力するはずだ。ラスコーリニコフは、凡人のために凡人を殺し、凡人に裁かれるという、自らが定めた二分法の範疇を超えられなかったのだ。

本音と建前で揺れる      西村美穂(被告人・証人役)

ラスコーリニコフの特徴をよく表していると思うのが、友人ラズミーヒンの「いつも人を食ったような薄笑い。教室ではいつも最前列に席をとり、ノートをとって…講義する教授もなにするものぞ」という紹介です。まさに凡人と非凡人を分ける人類二分法、「友だちができないんじゃあない、僕に釣り合った人間がいないのさ」といったところでしょうか。しかし、みんなの証言を合わせてみると、どこか憎み切れない不器用な性格が伺い知れます。
彼の思想や行動に同意できない一方で、完全に間違っている、と否定できる決定的なカードがない。本音と建前にゆれてしまいます。

行動に移す力を他に…     志津木喜一(検察官・弁護士・証人役)

不幸が重なり精神が追い込まれると、より思考がネガティブになるのだなと思った。そんな思考を受けとめてもらえる相手がいればよいとおもうが、一人で考え込んでしまった為、より深みにはまっていってしまったように思える。殺人を犯してしまうかもしれない思想は、誰にも咎められないが行動に移す力があるのなら環境や心の状態によって違う方向にいけたと思う。
自分は恵まれた環境で余裕のある精神状態なのだなと感じた。感謝感謝。

『罪と罰』について

2019年度下原ゼミⅢ後期出欠記録

()は提出課題レポート
  
・志津木喜一 9/24  ―  10/8   ―   ― 10/29 ―  11/19 11/26 12/3                
  前期4/14                                     (1)  (1)
・神尾 颯  ―   ―  ―  ―    -  -  - - - ― 
  前期8/14
・松野 優作 9/24 ―   ―   ―   10/22  ―   ― -
  前期2/14
・西村 美穂 9/24 10/1 10/8 ―   10/22 10/29 11/12 11/19 11/26 12/3
  前期14/14                                     (1)  (1)
・吉田 飛鳥 9/24 10/1 ―   ―   10/22 10/29 11/12 11/19 11/26 12/3
  前期14/14  (1)                                 (1) (1)
・中谷 璃稀 9/24 10/1 10/8 10/15 10/22 ―  11/12 11/19  - 12/3
  前期13/14  (1)                                     (1)
・佐俣 光彩  ―   ―   ―   ―   ―   ―   ―  -      -
  前期6/14
・東風 杏奈  ―   ―   ―   ―   ―   -   -  -  ―   - 
  前期4/14
・山本 美空 9/24   ―   ―  ―   ―   10/29  ―  - - - 
  前期7/14
        6   3  1  4   4   4   3    4  3
       
NHK文化センター 柏市民講座「ドストエフスキー『罪と罰』を読む」6回

2019年12月19日(木)AM10:30~12:00 最終審理第5回 講師 下原

読書会のお知らせ ドストエーフスキイ全作品を読む会「読書会」

月 日 : 2020年1月11日(土) 開 始  : 午後2時00分 ~ 4時45分
場 所 : 池袋・東京芸術劇場小7会議室(池袋西口徒歩3分)
 作 品  :『カラマーゾフの兄弟』5回目 報告者 : フリートーク

         ドストエーフスキイ全作品を読む会「読書会」

月 日 : 2020年2月29日(土) 開 始  : 午後2時00分 ~ 4時45分
場 所 : 池袋・東京芸術劇場小7会議室(池袋西口徒歩3分)
 作 品  :『カラマーゾフの兄弟』6回目 報告者 : フリートーク

連絡090-2764-6052下原 メール:toshihiko@shimohara.net

「そっちは」
「これになんと書いてあるのか」
「松陰先生の言葉です。意味は知らんけん」
「こちらは」
「これは山田市之充が師である高杉晋作の死を悼んで書いたものだそうです」

白日光り無く陰雲垂(いんうんた)る。
感慨腹に満ちて泣き且つ悲しむ。
墓門の昼暗し松柏の雨。
粛々涙に和して新碑にそそぐ。

「それ十本もらおうか」

若者は不満そうだった。
青年は財布で金を払う。そのとき切符を落とす。が、二人とも気がつかない。しばらくして砂利のなかに切符を見つける。萩から東京都内行きの切符。自転車で萩の駅に届ける。
此木、探している最中。
「ありがとう、助かりました」
「やまだ市之充のは、あまりうれんけん」
「ぼくは、買う必要があるんです」
「必要?」
「なんといっても学祖ですから」
「えっ?!大学の人」
「学祖?!」
「山田顕議は、日本大学の学祖です」
「あ、そうですか、山田市之充は日大の・・・・はじめてしりました」
「きみは、大学生?」
「浪人ですけん。早稲田受けた」
「どうして早稲田に?」
「どうして、っていっても…」
「早稲田は明倫館だよ」
「日大はそうもうだ。日本大学はだめかね」
「日大ですか」
若者は、失笑した。この時代、同じマンモス大学でも、日大と早稲田とは、埋めがたい差がついていた。
「日大は、門戸を最後まであけている」
「それって、ずるくないですか」
扇子の詩の意味をよく考えて、もしその気になったら最後の入試、受けてみてください」

「なんだ、あの人。日大の職員か」
早稲田か慶應だ。日大生いなかった。
「きみも悪戯に時を過ごすより

「やはり明倫館ですか」
「明倫館、早稲田がそうだというんですか」
「そうでしょう、いまではエリート校といわれている。そこへいくとわが日大は、草もう、吉田松陰先生のめざしたのは、ピンからきりまでくる学校です。草もうの若者
「都の西北ですよ。ワシあ、もう決めてるんです」
「そうですか、気がかわったら、最後の入試が

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