文学の中の医学 N


言いたくても言えなかったひとこと 医療編
発行者:中村 民世(ライフ企画)
発行所:ライフ企画 1997 


医療を受ける人、付き添う人、お見舞いの人、そして医療現場の人など、立場は様々ですが、それぞれに医療とのかかわりにおいて感じたさまざまな「思い」を胸に秘めています。そんな「思い」を短文として募集したところ、最年少は小学校3年生から、最年長は95歳の男性まで、全国から7481通もの応募がありました。その中から選んだ344点を編んで作られたのが本書です。

治療の不安を医師に訴えた時
「素人のくせに、医者の言うことに逆らうな!」と言われました。
私は素人ではなくて、当事者なのです。(主婦 35歳)

肺癌末期のMさんの最後のトイレは散乱した何足かのスリッパをきちんとそろえる事で終了した。それが人生の素敵な最後でもあった。(看護師 33歳)

病院に勤めて患者さんのために働くのだと思っていた。
でも、今、私は病院のために働いている気がする。(病院勤務 21歳)

死化粧をする手が止まる。モニター、点滴、何本のライン類、血圧、検査データ。
かって私は彼女の顔を人間として見つめたことがあっただろうか。(看護婦 23歳)

滅私...早朝。院内の半開きの室内に白衣の医師が器具と棚の隙間に倒れるように眠りこんでおられた。その奥は救急室に通じていた。 (主婦 65歳)

「今までつらかったね」。ありがとう、先生。その一言がずっと聞きたかったの。
(アルバイト 23歳)

医者は患者の病を診て患者は医者の人柄を観る  (寮監 49歳)

死にたいのに死ねないことと、死にたくないのに死なねばならぬことは、
いったいどっちがつらいのだろうか。 (大学生22歳)

患者殺すに刃物はいらぬ カルテめくって首ひねり
「うーん」とうなったその後に5秒の沈黙あればいい (歌舞伎役者付人 31歳)