ドストエフスキー作品メモ

『カラマーゾフの兄弟』における父親殺しまでの三日間 アリョーシャの動きを中心に

編集 下原康子 

参考 江川卓訳『カラマーゾフの兄弟』
 

はじめに

『カラマーゾフの兄弟』を読むたびに気になっていることがあった。ゾシマ長老はアリョーシャに兄たち、とりわけドミートリィのそばにいるようにとくり返し念を押している。そのいいつけを守ってアリョーシャはあちこち奔走しながらドミートリィを探しまわっている。しかし事件はおこった。犯行までの3日間、カラマーゾフの兄弟、とりわけアリョーシャはどのように行動していたのだろうか。犯行までの彼らの行動を時間軸をたどってわかる限りを以下の表にまとめた。

殺人が行われた3日目の夜に限っていえば、ドミートリィが血だらけのままペルホーチンの家に現れたのは午後8時半ごろと書かれている。一方、アリョーシャがグルーシェンカの家から僧院に帰ったのは午後9時ごろとなっている。イワンはといえば、その朝9時ごろに旅立ち、父と約束したチェルマーシニャ行きはとりやめ、午後7時にはモスクワ行きの汽車に乗車していた。イワンが出発してから2時間後にスメルジャコフが穴倉の階段から転落しててんかん発作を起こす。病人は離れの小部屋に寝かされた。後に、スメルジャコフはイワンに、このときの発作は仮病で、フョードルを殺したのは自分であることを告げる。

ドミートリィとイワンほどには強い印象を残さないアリョーシャだが、時間軸で追ってみて、彼が周囲の人々からいかに愛され頼りにされ期待されている人物であるかが実感として伝わった。ドストエフスキーが強調していたように、アリョーシャこそが主人公であると思えた。


注:青ドミートリィ茶イワン紫スメルジャコフ 


 一日目 第2編〜第3編

晴れわたったあたたかな8月末のある日、カラマーゾフ一家がゾシマ長老との会合のため、僧院に集まった。

11:30 フョードル、イワン、ミウーソフ、ガガーノフ到着。

12:30 会合が始まる。アリョーシャ(僧院で修行中)、ラキーチンも同じ部屋にいた。

13:00 
ドミートリィ到着(スメルジャコフから約束の時間は一時だと聞いていた)。
フョードルとドミートリィの間のいさかいをおさめる目的で集まった会合だったが、フョードルの道化芝居のため大失敗に終わる。ゾシマ長老がドミートリィに跪拝。一同衝撃を受ける。

会合の後、アリョーシャはゾシマ長老の寝室へ連れ添う。ゾシマ長老は自分の死後、アリョーシャに俗世で修行するように、そして「兄さんたちのそばにいておあげ。それも一人だけのそばにではなく、どちらのそばにもな」と言う。会合のあとで、アリョーシャ、出世主義者の神学者である友人のラキーチンと会話。

ミウーソフとフョードルの言い争いのため、予定していた僧院長との食事会は取りやめになる。フョードルに自宅に誘われ馬車に飛び乗ろうとしたマクシーモフをイワンが突き飛ばす。フョードルは「この僧院の計画をたてたのはお前じゃないか」とけげんそうに言う。

14:00ごろ 
アリョーシャはゾシマ長老からいいつけられたドミートリィと会う方策を考える。ドミートリィの家は遠かったので、まずは会いたいという手紙をよこしたカテリーナの家に向かう。その途中で、父の家と庭が隣り合っている隣家の庭のあずまやでグルーシェンカが来るのを見張っていたドミートリィに会う。

ドミートリィの熱烈な心の告白。ドミートリィは問題を解決するためにアリョーシャに父とカテリーナの元に使いに行って欲しいと頼む。

昼すぎ 
アリョーシャ、父の家に行く。父は広間で食後のコニャック、イワンはコーヒー。(父にすすめられてコニャックをのんだかも)。神についての議論。スメルジャコフが自論を展開。フョードルはイワンとアリョーシャに神はあるか、と聞く。イワンは否定しアリョーシャは肯定する。アリョーシャが亡き母を侮辱した父のことばを聞いたとたん、母とそっくりの発作を起こしフョードルをびっくりさせる。

ドミートリィがグリゴーリィとスメルジャコフの制止を押し切って飛び込んでくる。グルーシェンカがこの家の方へ曲がったのを見たと言って家の中を探し回る。フョードルは慌ててドミートリィの後を追うが、イワンとアリョーシャに広間に連れ戻される。再び広間に戻ってきたドミートリィにフョードルが飛びかかる。ドミートリィはフョードルの髪をつかんで床に投げ飛ばし、顔を蹴り飛ばす。イワンは嫌悪感をあらわにし、アリョーシャは「出ていってください」と叫ぶ。ドミートリィはアリョーシャにカテリーナにこの騒ぎを話したうえで「兄がよろしくとのことでした」と伝えてくれ、と言い捨てて出ていく。

ベッドに寝かされたフョードルは、明日の朝、話しておきたいことがあるので来てくれとアリョーシャに頼む。家を出るとき、門のわきのベンチに腰をおろして手帳になにか書き込んでいるイワン(頭が痛くなったと言って庭に出ていた)と言葉を交わす。イワンは思いがけない愛想のよさで「アリョーシャ、明日の朝はやくお前に会えると、実に嬉しいんだがね」と言う。

夕方 
アリョーシャはカテリーナを訪ねる。カテリーナはドミートリィを破滅から救うためにアリョーシャに力になってくれるように頼む。その時、カテリーナの家にはグルーシェンカが招かれて来ていた。カテリーナはグルーシェンカの手にキスするが、グルーシェンカはキスしようとして止める。(グルーシェンカはドミートリィからカテリーナとの間にあった<宿命的な日>のことを聞いていた)。この日から二人の女は敵同士になる。

アリョーシャはカテリーナの家の外で女中からリーザの手紙を受け取る。

 
アリョーシャが僧院に帰る途中、アリョーシャを待ち伏せしていたドミートリィに会う。カテリーナのところでのできごとをドミートリィに話すとドミートリィはグルーシェンカを「魔性の女王」と呼び熱狂する。アリョーシャがカテリーナとの<宿命の日>のことをグルーシェンカに話したことを責めると、ドミートリィは「どのみち俺は卑劣漢だ」と暗い声で言う。そして、胸に縫い付けていた<破廉恥>の上を叩く。「お前にはいずれ証人になってもらうよ」という謎めいた言葉を残し、ドミートリィはふいに去っていく。アリョーシャは兄が何を言っているかわからず、明日必ず会って聞き出そうと決心する。

夜おそく 
アリョーシャ僧院に戻る。ゾシマ長老は昏睡状態。アリョーシャは隣の部屋でひざまづき祈る。祈っている間、ふとリーザの手紙を思い出して読む。ラブレターだった。

夜おそく 
アリョーシャと野原で別れたあと、ドミートリィは夜通しまんじりともせずに考えあぐねる。グルーシェンカから「あたしを連れて行って。あたしは永久にあなたのものよ」と言われた時のためにはどうしても金が必要だった。しかしどこかからその金が入ったとしても、使う前にカテリーナからあずかった3000ルーブリを返すことがどうしても必要だった。「新しい生活をコソ泥、卑劣漢としてはじめることはできない」とドミートリィは思いつめていた。

(第11編で明らかになったこと)
アリョーシャと別れたあと、ドミートリィはグルーシェンカのところにとんで行った。会えたかどうかわからないが、夜中近くに飲屋に姿をあらわした。ぐでんぐでんに酔っぱらっていた。彼はペンと紙を求め後に<重大な証拠>とされるカテリーナ宛の手紙を書く。


2日目 第4編〜第5編


夜明け前
 
アリョーシャは夜明け前に起こされる。ゾシマ長老は意識をとりもどし、懺悔と聖餐式を望む。ゾシマ長老の説教。「互いに愛し合うことです」。ゾシマ長老によって実現した奇蹟のうわさが広まる。ゾシマ長老はアリョーシャに、約束した人たちのところに今日は必ず行くようにと命じる。

午前中 
アリョーシャは父のところへ行く。父はこっそり入るように念を押していたが、折よく父は一人でいた。フョードルはドミートリィよりもイワンに対する恐れを打ち明けた。

「イワンはドミートリィのいいなずけを横取りしようとしている。あいつがここにいるのは俺を密かに殺すためではないか」「ドミートリィを今日、牢屋にぶちこもうとしかけたが、イワンにいさめられた」「ドミートリィを訴えたら、グルーシェンカがドミートリィに走るのでやめにした」「昨日まではドミートリィに2000ルーブリをやって追い払おうという考えがあったが、考え直した。踏みつぶしてやる」などと言う。別れ際、アリョーシャは父の肩にキスする。

アリョーシャは父とドミートリィの関係がますます悪化してきたので、どうしても今日中にドミートリィをさがして会わねばと思う。

昼前後 
ホフラコワ夫人の家に行く途中で、少年たちのけんかに出くわす。一人の少年から石を投げられ、指に噛みつかれる。リーザはアリョーシャの指の傷に大騒ぎして、事情を根掘り葉掘り聞く。昨日のラブレターを返してほしいと言うが、アリョーシャは僧院に置いてきたとうそをつく。

そのとき、ホフラコワ夫人の家にはカテリーナとイワンが来ていた。ホフラコワ夫人の端的な断言でアリョーシャの目が開かれ、カテリーナはドミートリィをもう愛してはいない、イワンを愛しているのだ、とさとる。そのことをイワンとカテリーナに告げるが、イワンは否定しカテリーナの病的興奮は解けずイワンは去っていく。カテリーナはヒステリーがおさまったあとで、ドミートリィが侮辱したスネギリョフに200ルーブル届けてほしいと頼む。

昼すぎ 
アリョーシャはスネギリョフの家に行く前にどうしてもドミートリィに会いたくてドミートリィの家によるが彼は不在。

スネギリョフの家を訪ね家族と会う。そこには指を噛んだ少年イリューシャが病気で伏せっていた。スネギリョフは200ルーブリの夢を繰り広げるが、受けとろうとした瞬間に丸めて踏みにじる。

昼すぎ 
アリョーシャはホフラコワ夫人の家に戻る。リーザに200ルーブルの顛末を話し、むしろいい結果だったと言って、その理由を説明する。二人は「これからは一生の間いつでもいっしょにいて人々の面倒をみてあげましょう」という約束を交わす。

アリョーシャは、ゾシマ長老の元にすぐにでも戻りたいのだが、ドミートリィを探すようにというゾシマ長老のいいつけに従う。とはいえドミートリィは自分を避けているので、ふいをつかなければならないと思う。

14:00すぎ 
アリョーシャは昨日と同じあずまやで、ドミートリィがしのんでくるのを待つことにする。隣家の庭からギターと歌声が聞こえてくる。スメルジャコフとマリヤだった。アリョーシャのくしゃみがきっかけで、スメルジャコフと言葉を交わす。スメルジャコフは、今朝早くイワンからドミートリィを訪ねてことづけを伝えるように命じられた、と言う。「一緒に昼食を食べたいから必ず広場の飲屋に来て欲しい」ということづけだった(手紙はなかった)。

スメルジャコフが訪ねたのは8時ごろだったが、家主から「今しがたまでいらしたけど、おでかけになった」と聞く。「まるで双方で、なにか口裏を合わせたような具合でしたっけ」とスメルジャコフはつぶやく。アリョーシャは、好きでもない飲屋にイワンが行ったのはドミートリィと会うために違いないと思い飲屋に向かう。飲屋の窓から、ふいにイワンが顔をのぞかせてアリョーシャを招く。

夕方近く 
イワンとアヨーシャは子どものころ以来、初めてじっくりと語りあう。イワンは、「人生の意味より人生そのものを愛せ」「反逆」「大審問官」を語る。

「ところで今日、ドミートリィを見かけなかったかい?」とイワンは聞く。「いいえ、スメルジャコフには会ったけど」と話すとイワンは眉をひそめ考え込む。「兄さんはスメルジャコフのことで眉をひそめたの?」と聞くと「うん、あの男のことでだ。しかし、あんなやつ、くそくらえだ。ドミートリィには本当に会いたかったんだけど、今となってはその必要もないよ」そして「明日朝はやくモスクワに発つ」と言う。イワンはふりかえりもせず歩み去る。それは昨日ドミートリィが自分のそばから去っていった様子に似ているようにアリョーシャには思われた。


(その後、一生の間に何度かアリョーシャは、この朝つい数時間前に、ぜひともドミートリィを探し出そう、たとえ、その夜は僧院に戻れぬ羽目になっても、見つけぬうちは帰るまいと決心したばかりなのに、どうしてイワンと別れたあと、ふいにドミートリィのことをまったく忘れたりできたのだろうと、実にいぶかしい気持ちで思い起こしたものだった。)

夕刻 
アリョーシャは僧院に戻る。神父と修道僧とアリョーシャに向けてゾシマ長老最後の説教。ゾシマ長老はアリョーシャに「わたしが跪拝した兄に会ったか」と聞き、「急いで見つけるのだ、明日またでかけて、何をおいても急ぐことだ。たぶん、今ならまだ恐ろしいことを未然に防げるだろう。わたしは昨日、あの人の将来の大きな苦悩に対して跪拝したのだよ。」と話す。その夜にゾシマ長老は永眠する。

夕方近く 
イワンはアリョーシャと別れたあと、フョードルの家に戻る。門のそばのベンチでスメルジャコフと話す。スメルジャコフは問題の二人(フョードルとドミートリィ)と自分とのかかわりあいの詳細(合図のノック、3000ルーブリのことなど)をイワンに伝える。そしてチェルマーシニャ行きをすすめ、「明日は長いてんかん発作がおこるにちがいない」と言う。イワンは一瞬スメルジャコフに殴りかかるがおさえる。別れ際に、明日朝早くモスクワに発つと言う。


10:00〜夕刻
 
ドミートリィはサムソーノフを訪ねて、フョードルに対する自分の権利を3000ルーブルで買ってほしいと持ちかける。サムソーノフは断るが、そのかわりに仲介人を紹介する。その男は40キロ離れた村に逗留していると言う。(サムソーノフはドミートリィに憎しみ感じており、彼をだましたのだ)。ドミートリィが貴重な時間をついやして会いにいった男は酔って寝入っていた。彼が目覚めるのを待っているうちに、ドミートリィも寝入り、あやうく一酸化中毒寸前で目覚める。男を介抱し、また自分も寝入ってしまう。
 

3日目 第5編(続)〜第7編


9:00ごろ 
イワン出発。(フョードルは、イワンにチェルマーシニャ行きをくりかえし頼んでいたが、とりわけこの日は、朝早くスメルジャコフから「あの方が必ずいらっしゃるとお約束なさいました」と聞いていたので、出発を喜んだ)。別れ際にイワンはふいにスメルジャコフに「どうだ、チェルマーシニャに行くんだぜ」と言う。「してみると、賢い人とはちょっと話してもおもしろい、と世間でいうのは本当でございますね」とスメルジャコフは応じる。


19:00 イワン、モスクワ行きの汽車に乗車。


11:00ごろ 

イワンが発って2時間後にスメルジャコフは穴倉の階段から転げ落ちてんかん発作を起こす。彼は離れにあるグリゴーリィとマルファの部屋の隣の小部屋に寝かされる。

夕方

夕方になって
フョードルは医者を呼ぶ。医者は病人の発作は重く、極めて厳しい状態にあると言う。

 
(後にスメルジャコフがイワンに告げた事件の夜の真相)
スメルジャコフはわざと低い声で呻きながらドミートリィが来る(彼にはその確信があった)のを耳を澄まして待ち受けていた。フョードルが叫んだような声が聞こえた。その少し前にグリゴーリィが突然起き出して庭に出ていった。ふいにわめき声が聞こえて、あとは静まりかえった。スメルジャコフはがまんしきれず、起き上がってフョードルの部屋に行き窓からのぞく。フョードルは「やつが来て、逃げて行った!グリゴーリィが殺られた」と叫ぶ。

庭のすみの塀のわきにグリゴーリィが意識を失って倒れていた。スメルジャコフはその場で何もかも一挙にけりをつけようと決心する。グルーシェンカが来ている言ってドアを開けさせようとするが、フョードルは警戒して開けない。しかし、合図のノックには反応した。スメルジャコフは部屋に入って、茂みのところにグルーシェンカがいると言ってフョードルを窓の傍に誘う。窓から身を乗り出したところをうしろから脳天めがけて鋳物の文鎮を打ち下ろす。フョードルは悲鳴もあげずに崩れ落ちた。

スメルジャコフは返り血をあびていないか調べたあと、文鎮をぬぐって元のところに置き、聖像絵のうしろから封筒を取り出し、金を抜き取って封筒は床に捨てる。部屋から出て、そのまままっすぐにリンゴの木のところに行き、前から手筈を整えていたとおり木の洞に金を隠す。グリゴーリィが生きていればドミートリィが来たことの証人になるので好都合と考え、一刻も早くマルファに発見させるためベッドにもどって呻きはじめる。


(起き出したマルファは庭からの呻き声を聞きつけ塀のわきに倒れたグリゴーリィを発見。また、主人の窓の灯に気づき、開いた窓からのぞいて血に染まって倒れているフョードルの姿をみつけた。マルファは近所の助けを求める。彼らは部屋の入口が開いているのを認めたが、面倒を恐れて、すぐに警察署へ通報した。)
スメルジャコフは、翌朝、病院に運ばれる前に本当の発作を起こし、その後2日間は意識不明になった。

朝〜夕方 
アリョーシャのいる僧院では早朝から異臭に気づきはじめ、午後3時ごろにはさわぎになっていた。フィラポント神父がやってきて、騒ぎは夕方まで続く。アリョーシャにあいまいな奇妙な一瞬が訪れる。彼は動揺し泣く。アリョーシャが求めていたのは奇蹟ではなかった。世界でいちばん敬愛する<顔>が恥ずかしめられたことで、彼の心は無残に傷つけられていた。

夕方〜20:00ごろ アリョーシャは僧院を抜け出す。木陰の地面に突っ伏しているのをラキーチンにみつかる。ラキーチンに誘われてグルーシェンカの家に行く。グルーシェンカから一本のねぎの話を聞き、心が生き返る。そのときグルーシェンカは5年前に棄てられたポーランド将校の迎えを待っていた。やがて迎えが来て二人は追い出される。(だまされたと知ったドミートリィが駆けこんできたのはその15分後だった)。

20:00前後 ラキーチンと別れたアリョーシャは、町を出て、野原をぬけて僧院にむかう。

21:00〜夜半すぎ アリョーシャは午後9時ごろ僧院に戻る。祈り。ガリラヤのカナの夢。夢の中にゾシマ長老が現れてアリョーシャを祝宴に招く。そして「自分の仕事をはじめるのだ」と言う。目覚めたアリョーシャは、星空の円天井の下、大地を抱きしめ接吻する。この3日後にアリョーシャは僧院を出る。 

9:00ごろ 
ドミートリィ、9時ごろ目覚める。仲介人の男はすでに目覚めてはいたが、またしても酔っぱらっていた。ドミートリィはサムソーノフに騙されたことを知る。気落ちするあまり怒りもわかない。通りかかった辻馬車に乗せてもらって町に帰るとその足でグルーシェンカのところへいく。

午前中 
グルーシェンカは昔の恋人のポーランド将校からの使いを待っているところだった。彼女はドミートリィを厄介ばらいするため「今からお金の計算をするのでサムソーノフの家まで送ってちょうだい、夜までずっといるつもりだから、今夜12時に迎えにきて」と言ってドミートリィをだます。

午後 人を信じやすい「オセロ」のドミートリィは、グルーシェンカを送り届けたあと、下宿にもどり、一時の間合わせのための金の工面に頭をめぐらす。官吏ペルホーチンを訪ね決闘用ピストルを担保に10ルーブリ借りる。それから、ゆうべ変わったことがなかったかを聞くために隣家のマリヤを訪ね、スメルジャコフがてんかん発作で寝込んでいること、イワンが旅立ったことを聞き込む。この時点でのドミートリィの計画は、ホフラコワ夫人から借金をしてから、あずまやでの見張りに戻り、夜11時半になったらサムソーノフの家にグルーシェンカを迎えに行く、というものだった。

19:30〜 ホフラコワ夫人を訪ねる。彼女はドミートリィを嫌っており、彼の願いにまったく耳をかさず逆に金鉱堀りをすすめる。失望のあまりドミートリィは通りに出て、胸の<あの場所>を叩きながら泣き出す。そこにサムソーノフのところの女中が通りかかる。彼女からグルーシェンカは今朝早く来たけれどすぐに帰ったことを聞いたドミートリィは逆上してグルーシェンカの住まいに押し入る(グルーシェンカがモークロエに向かった15分後のことだった)。女中のフェーニャはグルーシェンカの行方を明かさない。ドミートリィはテーブルのうえにあった銅の杵をひっつかみ走り去る。

20:00ごろ ドミートリィはフョードルの屋敷の裏手にはりめぐらされた石塀をのりこえて庭に入る。窓からフョードルを盗み見する。グルーシェンカの姿は見えなかったが、疑念に耐えられず窓から合図のノックをする。フョードルが窓を開け首を突き出してグルーシェンカの名前を呼ぶ。ドミートリィはフョードルへの嫌悪がつのり銅の杵をつかみだす・・・・・・

(後日、法廷で、ドミートリィは「親父は僕の顔を見分けて悲鳴をあげ窓の傍からとびすさりました。そのとき、だれかの涙のおかげか、母が神に祈ってくれたのかわかりませんが、僕は窓のそばからとびのいて塀の方に逃げ出しました」と語った。)

ちょうどその時、腰が立たなくなり、薬用酒をいっきに飲んで寝入っていたグリゴーリイが起き出してくる。庭へ出る木戸の錠をかけていなかったことを思い出し、庭に足を踏み入れた時、主人の寝室の窓が開いているのに気づく。(後に法廷で大きな争点になった部屋のドアについては、この時点では開いていなかったのだが、グリゴーリイは「開いていた」と証言し、決してゆずらなかった。)その瞬間、走り去る何者かの影を見て追いかける。そして、壁を乗り越えようとする男の足にしがみつく。その男は案の定、ならず者の親殺しだった。「親殺し」と叫んだとたん、老人は雷に打たれたように倒れる。

20:20 ドミートリィは血だらけのまま、グルーシェンカの住まいに押し入り、フェーニャからグルーシェンカが<最初の男>との再会のためモークロエ(村)に行ったことを聞き出す。

20:30〜21:00ごろ ペルホーチンの家に行き、ピストルをとりもどす(自殺を決意していた)。ペルホーチンはドミートリィの血まみれの手に虹色の百ルーリの札束がにぎられているのに気づく。ドミートリィは、 アンドレイが御するトロイカにシャンパンや前菜を積み20キロ離れたモークロエに向かう。

「大気はさわやかで、澄みきった空には大きな星が輝いていた。それはアリョーシャが大地に倒れ伏して、永久にこの大地を愛すると狂ったように誓いつづけた、あの同じ夜であり、ことによると同じ時刻かもしれなかった。」
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23:30ごろ 飛ぶように疾走するトロイカがモークロエに到着。