康子の小窓 ことばの花束


コロナ秀歌 
朝日歌壇」から転載  (2020.4~6)(10~ )

山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」に連載収録中の「黒木登志夫先生の解説(コロナウイルスarXiv)」の最後に掲載されているコロナ秀歌 (「朝日歌壇」より)から、転載させていただいています。



コロナ秀歌(三十二)2021年9月13日

トーチキス走らぬ聖火ランナーの精一杯の笑顔かなしも  (高岡市) 池田典恵

江戸っ子は集団免疫できました緊急事態という言葉には  (三鷹市) 山縣駿介

従わぬ飲食店(みせ)とは取引するなとまで言う政権が作る分断  (京都市) 森谷弘志

ワクワクし穂高に登る夢をみるコロナ禍のなか今日もリハビリ  (ふじみ野市) 高橋正幸

隈(くま)さんの空席目立たぬ椅子の色皮肉にもコロナで役立てり  (船橋市) 佐々木美禰子

オリンピックは一切観ないと前見つめ医師は重たき声で言い切る  (柏市) 浅利早苗

選手らを全力応援するわれは今も開催に反対のわれ  (相模原市) 石井裕乃

二年(ふたとせ)で十四箱と三十枚買って捨てたる不織布マスク (ふじみ野市)片野里名子



コロナ秀歌(三十一)2021年8月26日

二十ものマスクが朝から草を刈る誰が誰だかわからぬままに (名古屋市) 堀江順宏

コロナ後も人と人との距離感はこのままでいい恋しいぐらいが (出雲市) 塩田直也

ガラス戸に「いらしゃいませ」の文字残り閉店ながき村の理髪屋 (広島県府中市) 内海恒子

宇宙服もどき防護者に面会する看護施設はもはや月面 (甲府市) 高瀬孝人



コロナ秀歌(二十九)2021年7月14日


面倒で老いボケの道突き進むワクチン予約パソコンもなし (山梨県) 石原学

世事に長(た)ける高齢者のみ生き残れと仄めかすようなワクチン接種 (横浜市)末光奈緒子

オンラインより自転車で支所へ行き列びし人のワクチン早し (福島市) 青木崇郎

電話でもネットでもとれぬワクチンの予約引き受ける岡田眼科は (横浜市) 松村千津子

入院ができない人をうっすらと見えなくしている「自宅療養」 (市川市) 中沢庄平

無為徒食役に立たない私ですワクチン接種ビリでいいです (沖縄県) 和田静子

触れ合いをしてはいけない祭典のオリンピックは何を目指すか (筑紫野市) 二宮正博

東京へ来ないでよりも東京に来ないでの方が少し険ある (大和郡山市) 四方護

「顔を見せろ」とうるさかった実家にも「帰ってくるな」と言わせるコロナ (東京都) 上田結香

何処にでもリーダーは居て偉そうにしゃべるリーダーの鼻出しマスク (近江八幡市) 寺下吉則

慣れすぎてもう戻れない気がしてるマスクをせずに授業すること (滋賀県) 木村泰崇

病む妻もわれも二度目の接種終え車椅子押し家路を辿る (舞鶴市) 吉富賢治


コロナ秀歌(二十八)2021年6月15日

コロナ下に無人無音の聖火ゆく何を知らしめ何を繋ぐや  (長野県) 千葉俊彦

芸人のノリに合わせるテレビにて器用な学者見るは痛まし  (岐阜市) 木野村暢彦

食べる間なかりきとまた弁当を持ち帰る子に在宅勤務遠し  (町田市) 村田知子

見に行くな見ても喋るな拍手せよ腫物のごと聖火来県  (大洲市) 村上明美

中止には勇気がいるが実施には蛮勇がいる東京五輪  (東京都) 北條忠政

図書館へ美術館への習慣が一年途絶え眼の衰えぬ  (岐阜市) 金子秀重

ワクチンの予約四日目昼ごろつながりて五月六月終了しました  (牧方市) 鍵山奈美江

閉店に勝手ながらと書く店主行間にあるそのやるせなさ  (東京都) 三神玲子


コロナ秀歌(二十七)2021年5月20日

三時からは静かにしててと釘を刺す半身スーツの息子は就活  (八千代市) 木場尚子

遠足もお泊り保育も無き子らが「楽しかった」と卒園したり  (戸田市) 蜂巣厚子

リモートの講義をぼやく十八歳噴火しそうなニキビがふたつ  (堺市) 平井明美

タンポポがこんなに明るく咲いている帰れぬ町も帰らぬ町も  (南相馬市) 佐藤隆貴

脈をとり眠れましたかと聞く人よあなたこそ全く寝てないのに  (出雲市) 塩田直也

聖火リレー「復活五輪」を掲げるも住民ゼロの被災地通らず  (大津市) 隈元直子

春うらら浮かれた色の頬紅をぬってマスクで半分隠す  (三条市) 高橋梨穂子



コロナ秀歌(二十六)2021年4月13日

キャンパスにまだ一回も行けぬまま後輩たちの入試始まる  (静岡県) 小島一惠

混んでたと愚痴る夫よ退屈で出かけたあなたも多数のひとり  (三鷹市) 大谷トミ子

高3をもう一度ちゃんとやりたいと色紙に残し卒業してゆく  (出雲市) 塩田直也

サクラサクも登校許可はまだ下りずこの句を詠んで早や一年  (横浜市) 大野麗

テレワーク不可の仕事が生活を支えると知るゴミ収集日  (千葉県)  田中文雄


コロナ秀歌(二十五)2021年3月12日

飲み食いと旅することが経済だとはじめて知ったこの一年で  (滋賀県) 木村泰崇 

ひとことも喋らず給食たべよるんよ仕方ないねと小2が言った (西宮市) 佐竹由利子

手不足の現場に看護学生を送る学徒動員の如く  (横浜市) 毛涯明子

厄除けの呪文のように唱えてるファイザーモデルナアストラゼネカ  (大阪市) 鹿戸仁美



コロナ秀歌(二十四)2021年2月18日

検温し手を消毒しマスク取りみんな黙してチキンをかじる  (諫早市) 麻生勝行

黒服に着替えて数珠の手を合わすLINEで参列母の葬式  (東広島市) 黒木和子

侮らず恐れず過ごす若き日の微生物学のノートを開き  (長野市) 原田浩生

元日の朝に保健所職員が感染経路追えぬを詫びる  (観音寺市) 篠原俊則

病院で優しさ全てを出し尽くし夫に厳しい美人看護師  (京都府)  片山正寛

「ステイホームはショートステイが長いだけ」特養の老婆のつぶやけり (長野県) 小川吾一 


コロナ秀歌(二十三)2021年1月20日


マスクなど誰もしていないコロナ禍の前の映像どこの惑星  (高岡市) 池田典恵

コロナ禍の視察の知事を玄関に並び待ちいる医師らの心  (観音寺市) 篠原俊則

疲れたる白鳥のごとコロナ禍の看護師たちが仮眠している  (豊岡市) 小松宏

エッセンシャルワーカーというしゃれた名で働くわれは下級国民  (大阪市) 足立和子


コロナ秀歌(二十一)2020年12月18日

鮮やかな花柄、白、黒 参観日マスクで覚える保護者の顔ぶれ  (奈良市) 山添聖子

戻りたいとみんなが願うコロナ前がよかったなんて本当ですか  (東京都) 福島隆史

毎日の消毒液の所為なのか指紋承認せぬスマホ  (吹田市) 小山安松


コロナ秀歌(二十)2020年12月6日

コロナ禍で解雇されればパソコンで職探しつつゲームをもする  (福岡市) 芝崎みちる

栗おこわ炊いたからきてとはまだ言えぬ新たな日常手さぐりの今  (東京都) 鹿野文子

オンライン聴講生となりし吾仲間はイタリア北京スイスから  (朝霞市) 青垣進


コロナ秀歌(十九)2020年11月7日

感染者なきふる里に駐車して視線感じる県外ナンバー  (仙台市) 沼沢修

テレワークできぬ子の職日に夜に病む人の辺に添いて働く  (前橋市) 萩原葉月


コロナ秀歌(十八)2020年10月3日

これもまたリモート会話かもしれぬ本を読むこととりわけ古典  (中津市) 瀬口美子

バスに並びバスを追い抜くウーバイーツコロナの今を生きねばならぬ  (東京都) 大野紀代

子は親を親は子を気遺ひて新幹線はがらがらとなる  (長崎市)下道信雄

胸像のマスクに裸婦の夏帽子どこの町にも世話好きはいる  (相馬市) 根岸浩一



コロナ秀歌(十)2020年6月30日

友達に鉛筆貸すなと指導する若き教師の胸中想う  (中津市) 瀬口美子

すずちゃんはき数で私はぐう数で分さん登校まだ会えません  (奈良市) 山添葵

絶対にマスクはしないトランプさん他のマスクはできない安倍さん  (防府市) 藤田淳子

ゴミ袋でわれの作りし防護服看護師は着て写真送り来  (東京都) 仲あやの


コロナ秀歌(九)2020年6月18日

「いってきます」いつもの通り居間を出し夫は七歩で<職場>に入る (横浜市) 大曾根藤子

コロナ禍を語るのだろう戦争を知らぬ私は戦争のように  (高松市) 一宮佳

口開けて薫風吸い込むこいのぼりわれ口閉じてマスクでおおう (飯田市) 草田礼子

マスクして原発逃げた九年前皐月の空に今またマスク  (いわき市) 馬目弘平

棒グラフ伸びて縮んでまた伸びて給食場に戻る日はいつ  (高松市) 塩田八寿子


コロナ秀歌(八)2020年6月11日

補聴器も眼鏡も怒る新参のマスクが耳に居すわらんむとす  (東京都) 北條忠政

何遍も同じビデオを見せられているかの如き総理の会見  (埼玉県) 島村久夫

ぼくはもう大人になっちゃうよ東京のパパはじしゅくで帰ってこない  (藤枝市) 石塚文人


コロナ秀歌(七)2020年6月2日

予定せしわががん手術延期され妻は無言で車椅子押す  (座間市) 遠藤寛

五時間目家庭科はうちの台所ママと作ったいちご大福  (奈良市) 山添葵

コロナ禍で乗客なくても走り出す新幹線の寂しげな貌  (石川県) 瀧上裕幸


コロナ秀歌(六)2020年5月27日

移るより移すことへの恐れから人は優しく人を遠ざけ  (岐阜県) 箕輪富美子

AIは囲碁も将棋も負かすのに新型コロナに打つ手明かさぬ  (香芝市) 中村敬三

面会は出来ぬコロナ禍病室の夫仰ぎ見る傘横向けて  (大阪市) 玉利淑栄


コロナ秀歌(五)2020年5月20日

新しい友との距離は2メートル入学式の静かに始まる  (奈良市) 山添葵

犬を抱きお茶飲む人のツイッターに35万の「いいね」つく国  (寝屋川市) 今西富幸

新コロナ感染者担当のミッションを「赤紙」と呼ぶ医療従事者  (志賀市) 木村泰崇

価値観を変えるウイルス林業が最も安全な職種となりぬ  (東京都) 豊万里


コロナ秀歌(四)2020年5月6日

ウイルスの形に似たるお日さまが予報にならび春はたけなわ  (越谷市) 畠山水月

外出を自粛せる夜夫は子を十年ぶりの将棋にさそふ  (町田市) 村田知子


コロナ秀歌(三)2020年5月2日

最後までコントか本当か分からない手品のように消えたおじさん  (大阪市) 澤田佳世子

自粛令余命宣告されしごと店主の呻く「もって半年」  (水戸市) 中原千絵子

昼日中一人球蹴る少年の背中に少し怒りがにじむ   (中津市) 瀬田美子


コロナ秀歌(二)2020年4月24日

バス停にコホンと咳の人一人列がわずかに左右にずれる  (春日部市) 九法活恵

なんとなく星の数ふえて見えるなりコロナ休校つづく街の夜  (ふじみ野市) 足立由子


コロナ秀歌(一)2020年4月21日

数年後「コロナ世代」と呼ばれるか休校の子ら元気に過ごせ  (東京都) 伊東澄子

テレワーク出来ない人が支えてる文明社会の根っこの部分  (諫早市) 藤山増昭

大和路の宮殿跡にかがまりて休校の子らたんぽぽを摘む  (奈良市) 宮田晶子