千葉県がんセンター心と体総合支援センター開設記念シンポジウム
これからのがん在宅医療と地域連携 地域と連携して患者・家族を支え合う 
(2012年1月28日(土)13:00〜17:00 会場:淑徳大学看護学部1階大講堂)

医療・福祉関係者、がん患者・家族、地域住民など約120名の聴衆が在宅医療に関わるリーダー8人の講演に熱心に耳を傾けました。開設した「心と体総合支援センター」に所属する患者図書室「にとな文庫」からは司書2名が参加しました。(傍聴記&感想:下原康子)

心に残った一言 (敬称略)

1.在宅ホスピス医の立場から 川越厚(在宅ケア支援グループ・パリアン代表)
「在宅緩和ケアで大切な要素は統合性、スピード性、効率性。一体型のチームが効果的である」
「現状の問題は病院から在宅への移行に時間がかかり、患者の貴重な最後の時間が失われること」
「在宅医療の側から病院に働きかけ連携を促すことも必要である」「制度はいらない、心ある(特殊な)医療者たちの働きによって在宅ケアは広がっていく」
2.在宅緩和ケアから見えるもの 大岩孝司(さくさべ坂通り診療所院長)
「在宅に移行した患者さんの多くは、それまでの治療の経過の中で大きな衝撃を受けており、その影響で判断力が低下し、病状や予後の認識に乏しく、混乱と不安から痛みの閾値が下がっている」
「<緩和>についての情報不足から在宅においても孤独で戸惑っている」
「ケアの第一歩は患者・家族の求めに応じたコミュニケーションによって不安を解消すること」
「患者と家族の両方を五分五分でケアする必要がある」
3.訪問看護の立場から 山田雅子(聖路加看護大学看護実践開発研究センター)
「ナースにできること:@人を全体としてとらえられる A話が聞ける B時として深い人間関係が結べる C人を観察できる D皮膚に触れることができる E少し先の予測ができる」(@〜Cは私たちにもできる?)
4.情報化システムによる地域連携 高林克日己(千葉大学病院 企画情報部教授)
「地域医療連携には相互の施設やチームと情報の共有ができるインフラの構築が欠かせない。必要最小限の(直接電子カルテ同士からリンクできる)医療情報の交換の仕組みがテスト段階である」
「楽しい目標を持って闘病しよう」(高林先生は毎年、患者さんたちを引率してヨーロッパアルプスに出かけられている)
5.がん患者の食とトータルケアプロジェクトから 鍋谷圭宏(千葉県がんセンター消化器外科主任医長 NSTディレクター)
「千葉県がんセンターでは栄養サポートチーム(Nutrition Support Team: NST)が入院中の個々の患者に適切な栄養プランを提供する活動を行っている」
「がん医療における<術前栄養管理><在宅栄養管理><栄養療法>の重要性」
「総務省委託事業『医療クラウドを利用した在宅患者の食と栄養トータルケア事業』を準備中」
6.歯科医師の立場から 栗原正彦(千葉県歯科医師会理事)
「口腔を守ることは身体を守ること」
「がんの治療前、治療中、治療後、終末期など各ステージで歯科医療と口腔ケアが必要である」「在宅緩和ケアにおける歯科チームが果たす役割を知っていただき連携していきたい」
7.患者会の立場から 天野慎介(悪性リンパ腫患者・家族連絡会「グループ・ネクサス」)
「サバイバーよりもがん体験(経験)者という名称を採用したい」
「普段は患者であることを忘れている。診察や検査の前日になると患者にもどる」
8.ピアサポーターの立場から 齋藤とし子(千葉県がんセンターピアサポーター)
「患者さんと同じくらい家族の方からの相談が多い」「千葉県におけるピアサポーターの養成に力を尽くしていきたい」

感 想「小さな連携から」

気になりつつも敬遠気味だった「在宅緩和ケア」。今回参加してようやく向き合う姿勢になれました。「在宅で死ぬ」から「在宅で死ぬまで暮らす」へのイメージの変化、これが最大の収穫でした。薬で痛みを取り除くことだけが「緩和」ではない、8人のリーダーが語るさまざまなアプローチからそのことを教わりました。「心と体総合支援センター」の一員として興味深かったのが鍋谷先生の「がん患者と食」のお話です。にとな文庫において、がんの本、闘病記と並んで人気があるのが「食」の本なのです。当事者と同じくらいご家族の利用が多いのが目立ちます。入院患者さんのように外来患者さんやご家族もNSTのサポートにつながっていただきたいと思いました。にとな文庫から「小さな連携」の提案です。
消化器外科医が関わる「栄養療法」にも驚きました。「栄養管理」のイメージが一新しました。「千葉がんの食事はおいしいのでレシピが欲しい」という声を耳にします。人気の『タ二タの社員食堂』にあやかって「千葉がんレシピ本」のアイディアを思いついたのですが、このたびのプロジェクトの活動を知ってレシピだけでは物足りなくなり、『患者のためのがんの栄養管理 レシピ付』にレベルアプ。(探すかぎりこのような一般向きの本はありません)とまあ、夢は広がっていくのであります・・・。制度の連携でもシステムの連携でもない「人と人とのつながり」。「小さな連携」に込めた思いです。