患者図書室挑戦の記録
にとな文庫通信 No.7 (2010.3)


のチカラ −にとなメッセージノートより


60代女性・家族,2007

初めてにとな文庫を訪れたのは2006年11月でした。恐る恐るのぞきました。突然に夫が膵臓がんと言われて希望を失っていました。でもにとな文庫でがんについての本をがんがん読んでいると少しだけがんが怖くなくなりました。今はできるだけ客観的にいろんな資料を読もうと思えるようになりました。おかげさまです。2007年8月、夫は一般病棟で亡くなりました。最後は「どこも痛くない、頭がボーッとしているだけだよ」と言って亡くなりました。私は夫にできるだけのことはしたように思えるので(何とも悲しいけれど)お父さん天国で私のこと見守っていてね、と言える心のありさまです。いろいろ本を紹介してくださってありがとうございました。久しぶりに『たそがれ清兵衛』というDVDを見ました。短い生涯だったけれど、充分に幸せだった清兵衛と夫をだぶらせてわんわん泣いてしまいました。


前立腺がん70代男性,2008

ここはどれをとっても大した本が並んでいてひとりひとりの「問いかけ」を待っている。余計なことは何も言わず、しっかり聞いてくれる人もいる。だから、問いかけて、聞いてもらって、私は自分で気づく、そうじゃないかな〜と。にとな文庫に通って私は思った。これが本当の病院だなあ。残念ながら今日私は退院だ。また来たい。



70代男性,2009

退院まじかになって本に関する話ができて幸せだった。もっといたいような気がする。病院にいてもっといたいというのは妙なものだが、癒されるし落ち着く。生命がもっとあれば万巻の書が読みたい。にとな文庫より借りて読んだ上坂冬子の本(『死ぬという大仕事』小学館 2009)。死の直前までがんと対峙し昨年死去。惜しい人を失った。自分の死を悟りもう生命がつきるとわかっていたのだろう、自宅を売り払った。次の日に買い手がついたという。上坂冬子は生涯独り身だったが、自分のことは自分で結末をつけた。死に親しんだ小生、自殺未遂を3回も繰り返したが、後年がんになり生命が惜しくなる。本を読む時間が欲しくなると生きたいとより思う。にとな文庫のご意見ノートでご主人をがんで亡くした奥さんの手記を読みドーっと涙が出てくる。歳をとると涙腺が緩んで悲しいと感じるとすぐに涙が反応する。一刻の時間、コーヒーがおいしかった。まさに読みたい本があり、そこに生きる時間があるのは幸せの極みといえるだろう、− やっぱりパソコンはダメだ −。まだセリーヌも読んでないし、プルーストも全巻読んでいない。日記を書き始めて55年、野上弥生子にはどうしても勝ちたい。日記が途切れた日は手術2回の6日間と自殺未遂後の3日間。至福のときをありがとう。