悪魔が耳打ち 図書館用語集


司書の初夢 2題 


       
病院図書室消滅のシナリオ−まじめな司書の悲劇 (1999.1)

一人の病院図書室司書がいました。パソコンが出現する前に司書になり、図書の整理(分類と目録)を専門性の証として、毎日まじめに働いていました。雑誌も欠号がないように気をくばり、書架にきれいに並べた製本雑誌を眺めて、満足感を感じていました。「文献複写申込受付」という業務も彼女の誇りでした。到着文献を申込者に手渡す時、やりがいを感じたものでした。やがて時代が進みパソコンが入ってきました。機械の苦手な司書でしたが、がんばって日常業務で使えるようになりました。パソコンのおかげで司書の仕事は省力化されましたが、今までの専門性は薄れたように感じられました。かわりにコンピュータ検索が幅を効かし始めました。まじめな司書はこれこそ、医学図書館員の新たな役割と考えて、一生懸命検索の練習をしました。

時代はますます進みました。インターネットが普及しはじめました。病院内にLANが敷設され院内のパソコンからインターネットが無料で使えるようになりました。まじめな司書は戸惑いながらも、こんどは、インターネットの紹介こそ司書のアイデンティティーだと考えて、熱心にPRにつとめました。すると、どうでしょう、みるみる図書室の利用者が減少し始めたのです。まずメドラインの利用者が激減しました。そのうち、医学中央雑誌までネットワークで提供されるようになり、なんと、図書室で文献検索をする利用者はいなくなってしまいました。それでも司書は思いました。最後の砦「文献複写申込受付」があると。ところが、各自のパソコンから本館に直接文献申し込みができるようになり、図書室を通す必要が無くなりました。追い打ちをかけたのが「電子ジャーナル」です。これで司書が頭を痛めていた雑誌の値上がりや書架スペース問題がいっきに解決されると喜んでいたのもつかの間、病院執行部の会議で、図書室での図書や雑誌の購入はいっさいやめ、空いたスペースにパソコンとゆったりしたソファを置いて、スタッフの休憩室に改造することが決まりました。まじめな司書は使い道がなくなり、リストラされてしまいました。




この初夢から5年経た2005年、当時の米国国立医学図書館(NLM)の館長ドナルド・リンドバーグ氏が10年後の医学図書館の将来を論評しました。
Lindberg DA, Humphreys BL. 2015--the future of medical libraries.
N Engl J Med 2005;352(11):1067-70.
医学図書館の将来:2015年における役割  ドナルド・リンドバーグ氏の予想
comment by Y.S.(佐倉図書室通信 No.152/2005.6)

10年後の2015年、氏の予測によれば「場所としての図書館」が見直されるようになります。紙媒体で収集していた資料が電子化されることで空いたスペースが心地よい静寂な空間に変わります。窓の外は緑。我が佐倉病院なら実現できそうです。ところで、そこで司書は何をするかって?リンドバーグ氏はコーヒーサービスの他にも「デジタルライブラリ」のナビゲーターとして、ユーザートレーニングのサポーターとしての役割に期待を寄せています。また、図書館から飛び出して医療チームの一員に加わり、折々の臨床で必要になるEBMを提供したり、カンファレンスに必要な資料を集めたり、看護師さんたちに日頃感じている疑問解決のヒント情報を提供したり、災害や事故の時、緊急に必要となる情報をゲットしたり、研究チームに加わって情報提供したり。つまり、「医学図書館員として生き残りたければ、医療の現場に関ったところでその役割を評価されるようになりなさい」というわけです。裏を返せば、そうしなきゃ消滅のシナリオは免れないということなのですね。



         ミレニアムの悪夢 -司書(魔女)狩り (2000.1)

情報汚染で疲弊しきった新世紀の地球。まるで水に飛びつく狂犬のように、情報を求めてやみくもに奔走する人々。やがて、歴史を振り返り人類にとって情報が危険なものであったことを思い起こした為政者は、学者たちを焚きつけ、ヒットラーの行った焚書ならぬコンピュータ混乱作戦を展開します。かってのミレニアムY2K騒動の手法を使って、既成の情報なしでは身動きもできないほど弱体化している人類を大混乱に陥れてしまいます。そして最後には自らが唯一の情報発信者となることに成功します。
もはや、情報提供などという行為はとんでもない大罪です。女性司書は魔女の烙印を押され、100時間連続文献検索の刑の後、うんざりしきったところで、火あぶりの刑に処されてしまうのでした....。


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