ドストエーフスキイ全作品読む会
Medical Dostoevsky & My Dostoevsky




『地下生活者の手記』第二部「べた雪の連想から」の冒頭に、
題銘の形で引用されたネクラーソフの詩
 (米川正夫訳)

『地下生活者の手記』第二部「べた雪の連想から」の冒頭に、題銘の形で引用されたネクラーソフの詩の一部は、深長な意味を有する。わたしは全集の中でドストエーフスキイの引用した部分のみ訳したが、今はその全部をここに訳載する必要を感ずる(米川正夫「ドストエーフスキイ研究」より)



わたしが迷いの闇の中から
火のごとき信念にみちた言葉で
その淪落の魂をひきだしたとき
お前は深い悩みに充ちて
双の手をもみしだきつつ
身を囲んでいる悪趣を呪った

そうして追憶の鞭をふるって
忘れやすき良心を罰しつつ
お前は過ぎこし方の身の上を
残らずわたしに語ってくれた

と、ふいに両手で顔を蔽って
恥と恐れにやるせなく
お前はわっと泣きだした
悩みもだえ身をふるわして

信じておくれ、わたしは多少、同情の念をいだきながら
貧るようにお前の言葉を、一つ残らず捕らえていた・・・・・
すっかりわかった、不幸な女!
わたしはすっかりゆるした、何もかも忘れつくした

どうしてお前は毎時毎分、心の中で
疑いに責められていたのだ
意味もない大衆のいうことなどに
お前はどうして服従したのか?

空虚でしかもうそつきの、大衆などを信じるな
自分の疑いなどは、忘れてしまえ
病的におびえやすい心の中に
身を削るような考えを秘めないがよい!

いたずらに、なんのためにもならぬことで
わが胸に蛇を暖めないがよい
わたしの家にはばかることなく悪びれず入っておいで
お前は立派な女あるじだ!