ドストエフスキーとてんかん/病い


<抜粋>


加賀乙彦 ドストエフスキー(中央公論社 1973)
参考文献

基本的文献

(1)米川正夫訳『ドストエフスキイ全集』全20巻、河出書房新社、1969〜1971
本書に引用したドストエフスキイの文章はすべてこの全集に拠っている。

(2)アンナ・ドストエフスカヤ、羽生操訳『夫ドストエーフスキイの回想』上・下、興風館、1941
やや古風な訳だが全訳で、ドストエフスキイの家庭生活について詳しく知ることができる。

(3)アンナ・ドストエフスカヤ、松下裕訳「夫ドストエフスキーの回想」筑摩書房刊『ノンフィクション全集18』所収、1973
こなれた新訳だが惜しいことに半分しか訳載されていない。

(4)エーメ・ドストエフスキイ、高見裕之訳『ドストエフスキイ伝』 アカギ書房、1946
娘の立場から父を描いている。家族の言伝えやドストエフスキイの几帳面な日常生活を記録している。

(5)ドリーニン編、水野忠夫訳『ドストエフスキー 同時代人の回想』 河出書房新社、1966
家族、友人の回想録を年代を追って集めてある。

作品論

(6)バフチン、新谷敬三郎訳『ドストエフスキイ論−創作方法の諸問題』冬樹社、1968
作品の構造や作中人物のポリフォニックな関係を理解するために参考になる。

(7)漆原隆子『ドストエフスキー 長篇作家としての方法と様式』 思潮社、1972
日本人の書いた、おそらくは最初の本格的な研究書だと思われる。ロシアにおける研究を総説してくれてあるのはありがたい。長篇の創作ノートの研究も綿密で教えられるところが多い。

(8)ブールソフ、黒田辰男・阿部軍治訳『ドストエーフスキイの個性』上・下、理想社、1971
作品をよく読みこみ、作中人物の解析も愛情にみちており、バフチンの著と並ぶ現代ソ連の研究書として作品の理解上参考になる。

(9)森有正『ドストエーフスキー覚書』 筑摩書房、1967
1949年に発表された文章だがすこしも古びていない。作中人物を中心に論じてあり、とくにラスコーリニコフ、スタヴローギン、コーリャ・クラソートキンの考察が光っている。

(10)ステイナー、中川敏訳『トルストイかドストエフスキーか』白水社、1968
ヨーロッパ文学全体のなかでのトルストイやドストエフスキイを論じた巨視的な研究。トーマス・マン、ヘンリー・ジェイムス、カフカ、リルケなどとの関係を見極めていて面白い。

(11)マリ、山室静訳『ドストエフスキー』 アポロン社、1960
ドストエフスキイの二重性を精神と肉体の相克という図式でとらえている。作中人物の系譜を的確に見透していて示唆に富む。ただしてんかんについて誤解があるのが気になる。

(12)ジイド、寺田透訳『ドストエフスキー』新潮文庫、1955
ドストエフスキイの二重性に注目しているし、てんかんを重視している点で教えられる。ただし、てんかんを肉体からの呼びかけと見ず、精神的に理解しようとしすぎている。以前読んで感銘をうけた本だが今度読みかえしてみて、フランス人らしく妙に単純に割り切ってしまう思考法に物足りなさを感じた。

(13)ツワイク、高橋禎二訳『ドストエーフスキイ』弘文堂、1950
作中人物の特色をバルザックと比較して論じてあり、面白い。

(14)フランソワ・モーリヤック、川口篤訳『小説と作中人物』 ダヴィッド社、1957
バルザック、トルストイ、ドストエフスキイの作中人物と作者の関係を簡潔に、しかし含蓄深く論じてある。

(15)ウォリンスキイ、埴谷雄高訳『偉大なる憤怒の書』興風館、1943
原著は1905年刊だが、いま読んでもいきいきとしている。『悪霊』論。作中人物の外部描写が内部を象徴的に示す点を指摘している。

(16)ウォルインスキー、道本清一郎訳『カラマーゾフの世界』 安芸書房、1946
作中人物を中心とした『カラマーゾフの兄弟』論。示唆に富む。

(17)キルポーチン、黒田辰男訳『ドストエーフスキイのリアリズムの独自性─ラスコーリニコフの思想と挫折』 啓隆閣、1973
ドストエフスキイにおいては作中人物の思想がその肉体や感情と不可分に造型されていることを重視している。

(18)ルカーチ、佐々木基一訳『トルストイとドストイエフスキイ』ダヴィッド社、1954
あまり考察は深くないが、長篇小説論として読める。

(19)『埴谷雄高作品集5』河出書房新社、1972
「不可能性の文学」とか「未出発の弁証法」とか著者独特の用語で、文学の特質を言い当てている。この作品集は埴谷のドストエフスキイ関係の文章が集められていて便利。

(20)秋山駿『内部の人間』小沢書店、1973
イッポリトの手記の分析が光っている。

(21)シュアレス、宮崎嶺雄訳「ドストエフスキー」筑摩書房版『ドストエフスキー全集−研究』所収、1964

(22)シクロフスキー、水野忠夫訳『ドストエフスキー論上月定と否定』勁草書房、1966

(23)ゴーリキー、除村吉太郎他訳『文学論』 雄文書肆、1952
ソ連の公式的見解の元になった、文学として認め政治的に否定する議論がのべられている。

(24)ゼーガース、伊東勉訳『トルストイとドストエフスキー』未来社、1966
ゴーリキー的公式論ではあるが、ローザノフと逆に大審問を正教派とみなしているところが面白い。

(25)エルミーロフ、ソヴェト研究者協会文学部会訳『ドストエフスキー論』 青木書店、1958
ゴーリキー的公式論。

(26)メレジュコーフスキイ、三宅賢訳『トルストイとドストイェーフスキイ─宗教思想篇』 パンセ書院、1953
原著は1912年刊。ドストエフスキイの信仰の特色を正教信仰との対比の上でわかりやすく解説してある。

(27)ベルジャーエフ、斎藤栄治訳『ドストエフスキーの世界観』 白水社、1960

飛躍の多い断定的な文章であるが、ロシア的信仰の特徴はよく描かれている。


(28)ローザノフ 神埼昇訳 『ドストエフスキイ研究─ 大審問官の伝説について』弥生書房、1962
原著は1891年刊、つまり革命前の本である。正教とカトリックとの関係について参考になる。

(29)リュバック 野口啓祐訳『ドストイェフスキー ヒューマニズムの悲劇』 筑摩書房、1952
著者はイエズス会士。カトリックの立場から好意的に論じてある。

(30)吉村善夫『ドストエフスキイ』 新教出版社、1953
プロテスタントの立場から論じてある。 

(31)本間三郎『「カラマーゾフの兄弟」について』審美社、1971
プロテスタントの立場。

(32)荒正人編著『ドストエーフスキイの世界』 河出書房新社、1963
日本におけるいろいろな立場からの発言が集められている。

(33)和辻哲郎・高坂正顕・森有正・西谷啓治・唐木順三共同討議『ドストエフスキーの哲学』国際日本研究所、1967
   
伝 記

(34)グロスマソ、北垣信行訳『ドストエフスキイ』 筑摩書房、1966
綜合的な詳しい伝記として信頼できる。

(35)埴谷雄高『ドストエフスキイ─その生涯と作品』 日本放送出版協会、1965
簡潔な伝記と作品論。著者の視野の広さと深さに支えられて、得がたい入門書となっている。

(36)志水速雄『ペテルブルグの夢想家』 中央公論社、1972
シベリア流刑直前までをドストエフスキイ自身や知友の文章を点綴して構成した風変りな伝記。信頓のおける資料集にもなっていて参考になる。

(37)メレジュコーフスキイ、昇曙夢訳『トルストイとドストエーフスキイ─その生涯と芸術』 東京堂、1935
原著は1909年刊で、完全な書簡集の出た1921年以前の伝記という制約はあるが、トルストイとはまったく異ったドストエフスキイの人格を鮮かに描出していて面白い。

(38)米川正夫『ドストエーフスキイ研究』河出書房、1956
長年の渉猟で珍しい逸話が多く集められている。

(39)カー、中橋一夫・松村達雄訳『ドストエフスキー』 社会思想研究会出版部、1952

(40)小林秀雄「ドストエフスキイの生活」 新潮社版『小林秀雄全集5』1967
日本における先駆的な労作。

(41)カナック、佐々木孝次訳『ネチャーエフ』 現代思潮社、1964
『悪霊』のもとになったネチャーエフ事件の記述。

病跡学および精神病理学

(42)荻野恒一『ドストエフスキー』 金剛出版、1971
精神医学の立場から、癩滴と創造との関係を論じた本格的な病跡学的研究である。

(43)村上仁「癲癇と文学──フローベールとドストエフスキー」 みすず書房刊『芸術と狂気』所収、1950
本論文は絶版となっているが、私の編集した至文堂刊『現代のエスプリ30号−−異常心理』(1968)に再録させていただいた。

(44)フロイト、高橋義孝訳「ドストエフスキーと父親殺し」人文書院刊『フロイト著作集3』所収、1969

(45)加賀乙彦「ドストエフスキイと聖なる狂気」筑摩書房刊『文学と狂気』所収、1971
本書のスケッチのような文章、当時と私の見解は変っていない。

(46)加賀乙彦「文学と病跡学」至文堂刊『現代のエスプリ51号─作家の病跡』所収、1971
病跡学についての総説。 

(47)加賀乙彦「文学的想像力と狂気と夢」至文堂刊『作家と狂気』所収、1973

(48)小木貞孝「拘禁状況の精神病理」 みすず書房刊『異常心理学講座5』1965
死刑囚と無期囚の心理について。

(49)クレッチマー、相場均訳『体格と性格』文光堂、1960
粘着気質について。

(50)クレッチマー、西丸四方・高橋義夫訳『医学的心理学皿』 みすず書房、1955
粘着気質について。

(51)ジルボーグ、神谷美恵子訳『医学的心理学史』みすず書房、1958
癲癇の歴史的考察がある。

(52)後藤彰夫「真性てんかんの性格特徴」医学書院刊『精神医学』1957年2月号。
癲癇性格のなかで几帳面さを重視した実証的研究。

(53)シュナイデル、懸田克躬・鰭崎轍訳『精神病質人格』 みすず書房、1954  
情性欠如の人についての記述。 

(54)鈴木昭男・福島裕・桜田高「酒精てんかん」『精神医学』1961年9月号。

(55)ミンコフスキイ
病跡学。著者はフランスの現象学的精神病理学者。

(56)テレンバッハ                
ムイシュキソ型の昼の癩削者とスメルジャコーフ型の夜の癩廂者をわけて考察している。

(57)ミンコフスカ
粘着気質についてのべた最初の論文。

(58)アンリ・エー
癲癇についての総説。