文学の中の医学 K


小説で読む生老病死
梅谷 薫(柳原病院院長)執筆協力:川上 武(医事評論家)
医学書院 2003.2


病(やまい)は生と死が闘う戦場と言われます。幾多の戦士が集まる病院もまた戦場です。しかしながら、そこは日常ではめったにお目にかかれない素晴らしい出会いを体験できる場所でもあります。石ころが宝石に変わるような新生、復活の奇跡を目撃できる場所でもあります。「医療者のアート」とは、日々の仕事の中から宝石をみつける技術のことではないでしょうか。それらの実例を示してくれる文学作品が数多くあります。この本は近現代の日本文学の中から19の作品を取り上げ「生・老・病・死」の4章に分類し、その作品の成立過程や魅力、医療・看護・福祉の側面から見た問題点などをやさしく解説しています。手に入りやすい文庫になった作品が多く選ばれています。「一冊の本に出会うことはこんなにも楽しく、奥が深いことか。読書は、日々臨床に携わり、さまざまな患者さんと出会うこととどこかで通じている」という著者のことばがしみじみと納得できる1冊です。


「生老病死」を読む19冊



遠藤 周作『海と毒薬』(講談社文庫) 九州大生体解剖事件の意味
結城 昌治『死もまた愉し』(講談社文庫) 結核療養所から生まれた俳句、小説
井伏 鱒二『黒い雨』(新潮文庫) 広島原爆の実状
帚木 蓬生『空夜』(講談社文庫) 安楽死と同級生の恋
川上 弘美『センセイの鞄』(平凡社) 高齢者の恋愛
橋本 治 『ぼくらのSEX』(集英社文庫)なぜ正しい性知識が必要か



深沢 七郎『楢山節考』(新潮文庫) 現代版「姥捨て伝説」
村田喜代子『蕨野行』(文春文庫) 生と死が交錯する極限地帯
有吉佐和子『恍惚の人』(新潮文庫) 高齢化社会を予言した先駆的作品
佐江 衆一『黄落』(新潮文庫) 老々介護と自然死願望



北條 民雄『いのちの初夜』(角川文庫) ハンセン病患者の孤独な生涯
南木 佳士『海へ』(文芸春秋) パニック障害を病む医師の少女との交流
石牟礼道子『苦海浄土−わが水俣病』(講談社文庫) 公害病の原点
江國 滋 『おい癌め酌みかはそうぜ秋の酒−江國滋闘病日記』(新潮文庫) 
      俳句を支えに耐え抜いた日々
山崎 豊子『白い巨塔』(新潮文庫) 暴かれた医療の暗部



山田風太郎『戦中派不戦日記』(講談社文庫) 異色作家フータローの名作
山崎 章郎『病院で死ぬということ』(文春文庫) 延命医療からホスピスへ
森田 功 『やぶ医者のねがい』(文春文庫) 背伸びしない人生の達人
日本戦没学生記念会編『新版きけわだつみのこえ−日本戦没学生の手記』
(岩波文庫)学生兵たちの心の叫び