闘病文学 作品リスト
がんと闘った科学者の記録
戸塚洋二著 立花隆編
文藝春秋 2009
ニュートリノ観測でノーベル賞確実と言われた物理学者・戸塚洋二さん。本書は、がんで余命わずかと宣告されてから死の直前までの一年弱、みずからの病を見詰めた記録である。治療経過を克明に分析し、死と信仰について想い、そして庭の花々を愛でる…、最後まで冷静で暖かい思いに満ちた感動の闘病記。
[戸塚さんが遺されたメッセージから]
引用1(P.130〜131) [整理され検索が体系的にできる「患者さんの体験データベース」を望む]
既にブログの連載で紹介しましたが、私の大腸がんは、2004年には左肺に再発して摘出手術を行いました。2005年には今度は右肺に10個以上の腫瘍が再発し2006年から抗がん剤治療を継続しています。体力は徐々に衰えていますが、抗がん剤の予想平均生存率の19カ月はクリアできそうです。私が大腸がん患者として知りたいことを思いつくままに列挙したいと思います。非常に具体的な事項になりますし、科学的なんてことはいってられない事項です。
●今の抗がん剤は少しは効いているようだが、いつ効かなくなるのだろうか。
●新しい抗がん剤のオプションはあるのだろうか。それは使用可能だろうか。
●がんの進行スピードはどの時点で加速を始めるのだろうか。
●その時点で起きる苦痛はどの程度だろうか。
●あと何カ月歩ける体調を維持できるのだろうか。
●どのような死因で死んでいくのだろうか。
●週2回仕事に行っているが、それによる疲労は抗がん剤の効果とその副作用にどのくらい悪影響があるのだろうか。
●今海外出張に行くことができるのだろうか。外地で副作用がでる確率はどの程度だろうか。
●間質性肺炎などの重篤な副作用に前兆現象がないのだろうか。その前兆現象を感知して重篤な副作用を事前に防げないのだろうか。
●その他グレードの低い副作用をどのように克服したらよいだろうか。
まだいろいろありますが、とにかく苦痛を回避して長く生きる人生計画を立てるのに、この程度の情報が欲しいのです。
インターネットで「大腸がん」を検索してみると膨大なヒット数がありますし、ブログにも(私も含めて)多くの体験談が載っています。しかし、検索に便利なように整理されていないことがネックで、右のような疑問の答えを探そうにも手に負えません。何とかならないでしょうか。思いつくままにちょっと提案してみたいと思います。
まず、がん患者の知りたいことのほとんどは、右にあげた私の例のように、主治医には答えられないか答えたくない事項なのです。われわれにとって本当に必要なのは、しっかり整理され検索が体系的にできる「患者さんの体験」なのです。
当然ですが、これらの整理された体験談は例数が増えるにしたがって学術的にも貴重なデータになることは間違いありません。大学病院の先生方が細々とした科学研究補助金をもらって個人的かつバラバラに調査を行っているようですが、全国的に体系がとれ整理されたデータでないとあまり役に立たないのです。そのように整理された体験談があれば、検索によってその記録をみつけ、私にとって大変参考になる情報なら「自己責任」でもってそれを利用すればよいのです。
検索の方法としては、例えば、大腸がん→初診stage→性別→再発→再々発→抗がん剤治療→5-FU→オキサリプラチン→イリノテカン→アバスチン→経過年数等と、順々に奥に入っていき、自分と似た境遇にある人にたどりつきます。
引用2(P.286):「恐れ」の考えを避けるために
よく人はしたり顔に、「残り少ない人生、日一日を充実して過ごすように」と、すぐできるようなことを言います。私のような平凡な人間にこのアドバイスを実行することは不可能です。「恐れ」の考えを避けるため、できる限りスムーズに時間が過ぎるよう普通の生活を送る努力をするくらいでしょうか。
「努力」とつい書いてしまいました。ここにある私の「努力」は、見る、読む、聞く、書くに今までよりももう少し注意を注ぐ、見るときはちょっと凝視する、読むときは少し遅く読む、聞くときはもう少し注意を向ける、書くときはよい文章になるように、と言う意味です。これで案外時間がつぶれ、「恐れ」を排除することができます。この習慣ができると、時間を過ごすことにかなり充実感を覚えることができます。