ある医学図書館員の軌跡
医学図書館 52(1) 2005.3



「患者図書サービス」第2章


前号(51巻4号2004)の特集「患者図書サービス」は、関心のある読者やサービス実現を考えている機関にとってこの上なくありがたい企画・構成・内容であったと思います。過去10年間の動き・活動を確かな視点できめ細かに網羅した総説は今後のサービスの展開を考える上で欠かせない礎となるでしょう。続くサービス提供図書館の事例報告および関連団体のサービスの紹介からは、患者と家族を「受け入れる」ことから始まったサービスが「どのような情報を用意するか」から「どのように情報を提供するか」へと進化していく様が伺えました。蓄積されていく貴重な事例の一つ一つがよりよいサービスへの糧となるに違いありません。「患者図書サービス」第2章のページを開いたこのたびの特集を高く評価します。

さて、私の考える第2章のメインテーマは「一人一人の利用者(患者さん)の情報要求にどのように答えるか」です。それにしても、比較的単純で具体的な要求に慣れている図書館員がさまざまな問題と複雑な気持を抱えた患者さんに向かい会い、その要求を理解した上で適切な情報を提供することがはたしてできるでしょうか。研修医が患者さんを診るほどではないにしてもその困難さは想像に難くありません。このたびの特集で患者側から寄せられた3編はその大問題を考える上でたいへん示唆に富むものでした。いただいたヒントのいくつかを述べてみます。

病気の情報はできることなら知らずにすませたい類の情報で多くの人は無縁だと思っています。ところが病気になったとたん、何を差し置いても欲しい情報に一変します。そのような時、選択肢として「図書館」の存在を思い浮かべてもらえるようにすること、それが先決であると思いました。「国内医学論文データベースの無料公開を望む」という主旨の私の投稿が朝日新聞「私の視点」(2004.3.1)に掲載されましたが、いただいた反響で多かったのは「そういうデータベースがあるなんて知らなかった」というものでした。「存在を知らなければ探すこともできない」と平川さんが述べておられる、まさにそのとおりだと思います。医学図書館で入手した一編の医学論文を繰り返し読んで治療に臨んだという浅野さんのエピソードに感銘を受けました。「医師が医師のために書いた医学文献を読むことによって、(参考文献のない)一般向け医学書の不完全さを実感した」という指摘は重要です。論文の評価に参考文献も含まれるのは常識で、図書館員はそのことを日常の経験からも知っています。

とはいえ、栗山さんの「患者が知りたいことと医師が知りたいことは違う」という指摘も図星です。ある疾患について研修医と専門医の知りたいことは重なっています。しかし患者の場合は専門知識の壁を越える人もいれば、避ける人もいます。まだその時期ではないという人もいるでしょう。最短距離で頂上を目指す人もいれば、尾根づたいにマイペースで歩む人もいます。一般書から受けた感動が医学情報以上に闘病を支える力になることもあるでしょう。また、辻本さんが望まれる「医療者も交えたサロンのような患者情報室」における生の情報交換が患者さんにもたらす効果もはかりしれません。物言わぬ利用者(大半がそうかもしれません)を対象にした「患者が自分で求める情報を探せる工夫」の指摘も重要です。『医学図書館』には医療関係者にとっても有益と思われる論文や記事が少なくありません。またこのたびの特集は患者や家族にも読んで欲しい内容でした。読者層が広がればよいと思います。図書館員の専門性とネットワークは社会の中で、患者や家族のためにもっともっと有効活用できるのではないでしょうか。