ある医学図書館員の軌跡



フルテキストへのアクセスについて
(2006年2月:あるMLでのやりとり)


N医師

私は田舎の総合病院勤務医なのですが、日常診療における論文や雑誌などへのアクセスの悪さに非常に困っております。PubMedやJDream、医学中央雑誌などにより読みたい文献への抄録へはインターネットにより容易にアクセスできるのですが、full textへたどり着くにはきわめて困難なのです。さらに複写料金などがきわめて高額で、病院のなかでは自己負担で数万円以上払っている医師もいます。図書室(コーナー?)の担当者にきいてみると、病院間や大学との図書室どうしで雑誌や書籍の相互貸し借りができるとの情報もあるとのことなのですが、どのように手続きするか詳しいことがわからないとのことで進んでいないとのコメントでした。年に数回しか読まれないジャーナルを数十万かけて定期購読するぐらいなら、病院単位でもう少し安価で全文にアクセスできるシステムを病院に提案したいとおもっています。皆様のアドバイスをいただければ幸いに存じます。



M医師


下原さんがご専門でしょうから詳しいことはお譲りしようと思いますが、私が研修を受けた病院では文献取り寄せを司書さんにお願いすると必ず何らかの形で入手して下さっていました。システムを聞いてみると、医療機関の図書室の団体があって、そこに登録されている図書室は自分のところにどういう雑誌を何年から何年まで所有しているのかを団体に申告し、それを加盟者が閲覧できる状態になっているそうです。そこで、依頼のあった文献が自院にない場合はそのリストを閲覧して、「あ、隣の県の○○病院さんにはあるようだからそこに頼もう」ということで連絡をとり、コピーを郵便で送ってもらう、という仕組みだそうです。

当然、他院図書室から自施設に依頼があった場合は同じように対応する。そういう形態なので入手に数日かかっていました。でも双方の司書さんが熱心になってくれるなら急ぎならFAXで即日送ってもらうことも可能かもしれません。郵便代(とコピー代?)程度の実費のみ---1文献あたり200円〜せいぜい1,000円----でやりとりしていました。ちなみに研修を受けた病院では「医師が診療上必要と認めたものだから」という理由で実費は全て病院で負担してくれていました(つまり医者は一切出費無し)。研修を終えて今のクリニックに勤め始めた後もその司書さんにお願いして文献を送ってもらったこともありました(さすがにその時は実費を個人負担しましたが)。



O医師 

論文の入手について日本医師会の医学図書館をご検討になられたことがございますか。私は時々医学図書館で閲覧していますが、内外の著名雑誌をかなりそろえていて、文献コピーを多数発送しているようです。また、司書の方たちは親切で博識ですので、どんな雑誌があるか気軽に相談もできます。急ぐときはファックスしてくれるようです。



下原司書

お忙しい医療者の皆さまがこのような不自由を感じておられると思うといてもたってもいられない気持ちです。O先生のおしゃるように日本医師会医学図書館という方法もよいと思いますが、病院であれば、図書室担当者を通して、M先生のおしゃるように、図書館間の相互貸借制度をご利用になる方法があります。(各種案内を紹介)



N医師


臨床医、特に開業医の文献入手はなかなか難しいものでした。しかし、最近各種のサービスが出てきています。社団法人 国際医学情報センターのサービスはいかがでしょうか?数日前にPROactive試験のデータを見たいと重い、Lancetの文献を頼みました。会員登録して申し込みましたら2日後にその文献が郵送されてきました。送料込み料金945円の振込み用紙が入っていて、郵便振込みで料金を支払いました。急ぎの場合は、少し高価になりますがファクシミリで取り寄せられるようです。



O医師


この問題は 勤務先の状態によっては非常に深刻です。みすず書房の「磁力と重力の発見」の著者は大学にはいずに膨大な文献を集めて、科学史の著作をしています。どのようにして集めたのか、予備校の教え子が留学したときに依頼した話が有名ですが、たしか公共図書館を通じても入手できるようなことが書かれていたように思います。

大学病院で一番感じたのは、なんて文献が入手しやすいのか、ということです。オンライン雑誌にもアクセスしやすいし、相互貸借も可能ですので。相互貸借の前提には、自施設に司書さんがいて、他からの依頼に文献複写をしてあげることが出来るということが必要条件なので、勤務先がそのような環境になければ、相互貸借は成立しません。大学病院の図書館について公開、文献依頼などに関しての一覧があるとうれしいのですが、ありますでしょうか。勤務先や卒業の有無によらずに、医療従事者には公開している大学図書館もあれば、そうではなく卒業生までの大学もあります。

コピー代も 学外者と学内者で大変な差額がある大学もあれば、セルフコピーで同一の格安な料金の大学もあります。学外からの依頼についても対応が様々なように見えます。近くの公共図書館に行って、医学文献依頼をしてみたのですが、今までそのような依頼を受けていません、と断られたことはあります。Webcatでどこの施設にあることまでは分かるのですが。

東京大学の本郷キャンパスから1980年以前の医学文献が移管された東京大学の柏図書館のサイトには「学外の方は、柏図書館へ直接行っていただくか、ご所属の大学等の図書館や公共図書館を通じて文献複写を柏図書館へお申込み下さい。図書館を介さずに直接申し込むことはできません。」とあります。ただし、いくつかの大学の医学図書館のサイトをみても学外者が 公共図書館を通じて依頼する、という経路を明示している大学はみつかりませんでした。柏図書館は例外的なのでしょうか。



B医師


ここ5年くらいでネット上でアクセスできるジャーナルはかなり増えてきました。大学のサーバーを通すと大抵の主要ジャーナルは最新のものも含めてすぐにアクセスできるので非常に便利な世の中になりました。医師になりたてのころはいちいち図書館にいってIndex Medicusを引いていたのが嘘のようです。



下原司書


患者さんどころか、医療者さえも欲しい情報にアクセスするのが不自由だなんて大問題です。申し込みは司書でなくても行えます。書誌事項を所定の用紙(1件につき1枚)に記入したものをファクシミリで所蔵館に送ります。(所蔵はWebCatで調査)。通常2〜5日くらいで届きます。支払いはたいてい郵便振込みです。

典拠不明の文献の調査には司書が必要になるかもしれませんが、PubMedや医中誌Webなどのデータであれば心配ありません。医療関係者ならたいていは断られないと思います。文献申し込みは学内に限られているところが多いですが、その地域やその大学の卒業生などの場合であれば対応してくれるかもしれません。そのような要望が図書館を変えるきっかけになります。ぜひ、働きかけてくださいませ。

「公共図書館で医学文献依頼」は素晴らしい発想です!患者や家族も利用できたら・・・。私の夢でもあります。医学図書館の連携と公共図書館とのネットワーク作りが必要にになります。