ある医学図書館員の軌跡
病院患者図書館 No58  2004



広がる「患者図書館」

1.近年の新聞記事より

健康図書や小説などの一般書を貸し出すシステムをもっている病院は全国で100施設を超えています。そうしたサービスのほかに、近年では、病気の症状や治療法を知りたい学びたいという患者を支援するために医学情報提供サービスを行う「患者図書室」を設ける病院が増えてきています。以下のとおり、大新聞でも大きく取り上げられ話題になりました。

○2002年2月21日(木)朝日新聞
見 出 し:患者の「知りたい」にこたえる・医学情報 病院が提供・院内図書館開放の試み
取材記事:亀田総合病院、京都南病院、健康保険組合連合会大阪中央病院
紹  介:東京大学病院、国立長野病院、聖路加国際病院、新潟県立がんセンター

○2003年10月16日 朝日新聞
見 出 し:医師の説明や検査データ 自分で調べて理解したい・患者向け情報室病院に
取材記事:東京女子医大病院「からだ情報館」国立病院大阪医療センター「患者情報室」
紹 介:日赤医療センター、東京大学病院

○2004年1月5日 日本経済新聞
見 出 し:患者さんに読むクスリ・医学・健康図書室広がる・情報ニーズに対応・職員向けを開放も
取材記事:東京女子医大病院、東京大学病院、聖路加国際病院、国立長野病院、京都南病院、
新潟県立がんセンター、栃木県立がんセンター
紹  介:20施設(一覧表)

<一覧表で紹介された20施設の内訳>
6施設が専任司書を、7施設が兼任司書を置き、11施設でボランティアを導入。3施設が医療者用図書室を共有。12施設で貸出を実施、3施設が医師との連携サービスを行っています。15施設にパソコン、13施設に複写機、12施設にビデオ再生機があります。6施設が全部を備えています。蔵書数は、医学・健康書が150〜2500冊、一般書が0〜2万冊、ビデオは0〜190。利用者数は2〜200名/1日。

20施設の病院名、施設名、サービスの特徴を転記しました。
日鋼記念病院(北海道):健康情報ライブラリー ボランティアが自主運営、医師による「本の処方箋」
竹田綜合病院(福島):患者図書コーナー「ポプラ」 外来フロアの一角のオープンスペース利用
栃木県立がんセンター:こやま文庫 医師による情報サービス、がん関連の専門書
県立がんセンター新潟病院:「からだのとしょかん」 カウンセリング技術のあるボランティアを常駐
NTT東日本関東病院(東京):患者さま図書コーナー 玄関に近く入りやすい、医師や相談室と連携
聖路加国際病院(東京):さわやか学習センター デザイナーによる内装、血圧測定など講座開催
日赤医療センター(東京):やさしい医学書コーナー 医療者向け図書館内に開設、希望に応じて専門書も紹介
東京女子医科大学病院:からだ情報館 玄関ホールに面した立地/情報検索と相談機能を充実
東京大学病院:患者学習センター 新病棟の最上階にあり図書の検索機能も充実
亀田綜合病院(千葉):患者さま情報プラザ「プラタナス」 ベテラン看護師らが常駐、BGM流れ安らぎの場に
国立長野病院:ホっとらいぶらり・長野 オープンスペース利用、ボランティアが自主運営
静岡県立静岡がんセンター:あすなろ図書館 一階ホールに面した立地、がんを中心に図書充実
浜松赤十字病院(静岡):いきいき健康図書館 週一回、多目的室を利用、CD貸出サービスも
聖隷三方原病院(静岡):医学情報プラザ ボランティア16人が活躍、絵画・写真など作品展も
高山赤十字病院(岐阜):「患者図書室 最上階のラウンジと兼用200uの広さ
福井県済生会病院:図書室 医療者向け図書室開放、無料コピーサービスなど
京都南病院:病院図書室 医療者向け図書室開放の草分け、住民にも貸出
国立病院大阪医療センター:患者情報室 オープンスペースを利用、NPOに運営委託
淀川キリスト教病院(大阪):医療情報コーナー 患者の相談にも応じる、地域住民の利用も歓迎
白十字病院(福岡):医療情報プラザ 医学・健康ビデオ充実 月負うにつれ利用拡大

2.見学記

○東京大学病院「患者学習センター」(2002.5.8)
5月のある日、東大病院の 健やかラウンジ(患者学習センター)を見学しました。入院棟A15階、最上階。晴れた日は富士山も望めるという見晴らしと日当たりに恵まれた、教職員の誰もが自分の居住区にしたくなるような一等地。そのような場所が患者の学習のために用意されていることに感心しました。その快適な空間で、私たちが担当の方から説明を受けている傍らに、医学書を開き中の図や文章を書き写している初老の紳士がおられました。パジャマ姿だから患者さんなのでしょう。私たちの声が邪魔になりはしないかと気になりましたが、書き写すことに集中しているその紳士は一度もこちらに目を向けることはありませんでした。これこそ患者図書館の原風景、と感じました。

○静岡県立静岡がんセンター 「あすなろ図書館」(2003.2.17)
「あすなろ図書館」を病院図書室勤務の仲間4名で見学してきました。2002年9月に静岡県立静岡がんセンター開院と同時にセンター内に誕生した日本初の本格的な患者図書館です。最近は「病院機能評価」と「研修医制度改正」のおかげで病院図書室も医療サービスを支えるインフラとしての役割が認識されるようになってきました。しかしながら「患者図書館」ともなると10数館を数えるのみ。しかもそれを医療サービスの目玉にするなどという大胆なアイディアがどこから生まれどのようにして実現できたのか、それが一番の関心事であり疑問でした。まず驚いたのは、北に富士山、南に天城連山、東に箱根、西に駿河湾という抜群の自然環境です。その環境を最大限に利用した明るく広々としたメインホールは避暑地のホテルさながら。「患者(お客様)本位」を前面的にアピールした設計です。

「あすなろ図書館」はメインホールの正面玄関を入ってすぐの一等地にありました。広さは120u。カラーコーディネートされた室内には、書架、雑誌架、閲覧机、肘掛椅子、インターネット用端末、ビデオ用のブースなどが居心地よく配置されています。蔵書は現在約4000冊。医学専門書は所蔵していませんが、一般向けの病気の本や闘病記の類が収集されていました。入館者は一日平均70名前後。貸出冊数は50冊前後。館内での貸出の他に週4回ボランティアによる病室巡回貸出サービスを実施しています。また、図書室の隣には「集団指導室」があり、家族への健康・医学教育のために活用されています。専任司書の菊池佑さんの説明で「なぜ、どうやって実現できたのか」という疑問が解けました。設立準備委員会の委員を委嘱された作家の渡辺淳一氏の提案もあって、患者図書館は静岡がんセンター構想の段階から「患者さんと家族を徹底支援する」というセンターの理念を支える重要なサービスの一つとしてその必要性が認識されていたのです。準備に当たっては看護婦さんの役割が大きかったそうです。専任司書として迎えられた菊池佑さんは、患者図書館の研究・活動におけるパイオニアのお一人です。誕生に至るまでの詳しい経過を下記に書かれています。菊池佑「あすなろ図書館」の誕生とその目指すもの 出版ニュース 2003.2/中 P.6-9 2004年1月現在、入館者は200名を越えているとのことです。

○東京女子医科大学病院「からだ情報館」 (2003.10.30)
2003年10月16日の朝日新聞家庭欄に大きく掲載されて話題になった患者図書館を見学する機会を得ました。今春に完成した総合外来センターに位置する150uの部屋はガラス張りで、抵抗なく入室できます。入ると美しいポスター、観葉植物、書架などでフロアからは適度に隠された居心地のいい空間が広がっています。生き花を絶やさないようにしているとのことで、当日は紫色のバラに心がなごみました。医学部の図書館から派遣された専任司書が常駐し、元看護師長のボランティアの助けを借りながら2名でサービスを行っています。一日平均170名の利用があり、早くも、担当者の人手不足が問題になっているとのことでした。資料はわかりやすい医学書約600冊、医学雑誌10誌、ビデオ185本。その他にパンフレットの収集がユニークです。院内発行のものから患者会の案内、製薬会社発行のものなど、200種が収集され、自由に持ち帰ることができるのがたいへん好評とのことでした。専任司書の桑原文子さんと企画の段階から関られている糖尿病センターの内潟安子先生に時間を割いていただきゆっくりとお話を聞くことができました。「知識の共有が必要」という内潟先生のご意見を心強く感じました。