ある医学図書館員の軌跡
医学図書館 45(1) 1998



「医療情報公開」に図書館の出番

1997年は医療情報公開元年とも言える年でした。4月には薬剤師法改正で、薬剤師が患者へ薬の情報を提供することが義務づけられました。6月には厚生省がレセプト開示の方針を決定しました。7月には同じく厚生省に「カルテ等の診療情報の活用に関する検討会」が発足。12月現在カルテ開示の方向で、ガイドライン作成の準備が進められています。厚生省が重い腰を上げたのには、薬害エイズの反省もさることながら、粘り強い市民グループの活動と一部自治体がその活動に賛同し、レセプト開示を始めたことがあったと思います。要求すればカルテやレセプトの開示が受けられるという前提があってこそのインフォームドコンセントです。今まで空念仏に過ぎなかった、このわかりにくい言葉がやっと具体的なイメージを持ちはじめました。

9月1日から医療保険制度が変わり患者の負担が増えましたが、これも開示を推進する要因になっています。懐が余分に痛むようになれば、患者は自らが消費者であることを自覚し、無駄のない納得のいく医療を要求するでしょう。こうした流れに無知または関心を持たない医師は良い医師にも賢い経営者にもなれないと思います。そしてそれは、医学図書館員にも言えることなのではないでしょうか。納得のいく医療のかたちは人により様々だと思いますが、少なからぬ人たちにとって知識を得ることが納得するための方法であることは確かです。加えてそれが一方的に与えられた知識ではなく、自分の自由意志で学んだものであれば、それは柔軟な知恵となって、患者に勇気と自由を与えるに違いない、と私は信じています。医師はインフォームドコンセントを円滑を行うための手段として、図書館の資料や職員を利用しないという手はないし、経営者は病院の評価を上げる材料として利用しない手はないと思います。図書館は出番を待っているのです。

実際に出番を与える病院が少しずつ現れ初めています。私が知るかぎり現在3病院が市民(患者)への医学情報提供サービスを実施しています。京都南病院(山室真知子)新潟県立がんセンター新潟病院(有田由美子)、JMLA70周年記念講演会で柳田邦男氏の紹介があった日鋼記念病院(地原かおり)です。(カッコは図書館担当者:敬称略)3病院の活動は一朝一夕に成ったものではありません。京都南と新潟は一般書の患者図書サービスの地道な活動の中から、日鋼は地域の医療従事者へ医学情報を提供していく中で、現在の活動への道が開かれたのです。これらのサービスを支えているのは、しっかりした方針と医師をはじめとする病院スタッフとのチーム・ワークです。柳田邦男氏の講演の最後は次の3つの提言で締めくくられました。1.市民運動と連携して活動しよう 2.モデル作りをしよう 3.ボランティアの支援を受けよう。3病院の長い努力と試行錯誤の結果がこの提言を裏づけているように思われます。今後の活動に期待し応援すると共に、そのノウハウを学び、後に続くことができるよう努力したいと思います。