ある医学図書館員の軌跡
佐倉図書室通信 No.73/1998.7


『厚生省がん検診の有効性評価に関する研究班報告書』入手の奇妙ないきさつ



今年(1998)の4月に公表されたこの「報告書」は、かねてより社会的な関心になっていた「がん検診は本当に有効なのか」という近藤誠氏の問題提起に答えるものとしてメディアでさかんに取り上げられていました。ところが、この「報告書」は6月18日までは全国どこの医学図書館にも所蔵がない幻の資料だったのです。厚生省に問い合わせても「関係者には配布済み、在庫はない」という回答。発行所の日本公衆衛生協会に聞くと「在庫はないが、要望いかんでは厚生省と相談して増刷する。とりあえず予約は受け付ける」という返事。

そのようなとき、当図書室では奇妙な経路からこの報告書のコピーを入手していました。関西の医療関係の出版社が主催するメーリングリストでこの報告書のコピーを提供してくれる人がいるのを知り、提供をお願いしたのです。提供者は医療問題をあつかうフリーライターの人で、単身で厚生省に出向き報告書を借り受けコピーしたとのことでした。医学図書館員からのコピー依頼に対して、驚くと同時に不快感をおぼえたそうで、「大学や医療機関の人には提供したくない。こうした機関が情報を手に入れる方法はいろいろと用意されているのだから」とはっきり言われました。また「このコピーが医療関係者だけで利用されるのは本意ではない。今回の資料も含め、一般の関心を持つ人たちにも積極的に提供して欲しい」とも。脳天を一撃されてような衝撃でした。

「報告書」が医学・医療系大学の図書館ですら入手できなかったという事実はとても重大だと思い、6月16日に医学図書館員メーリングリストで、発行所に予約申し込みをして欲しいという呼びかけをしました。それが関係あるかどうかわかりませんが、6月18日に日本医学図書館協会に全加盟館分の「報告書」がどっさり送られてきたとのことです。当図書室では、提供していただいたコピーを仮製本したものがご利用いただけます。