ある医学図書館員の軌跡
医学図書館 22(3) 1975



「東邦大学医学部付属大橋病院図書室」について


要 約

当大橋病院図書室をモデルに病院図書室の独自性とその問題点について述べる。とくに小規模であるということの長所と短所、運営面での苦労と楽しさ、どのようなサービスおよびレファレンスをすべきか、蔵書構成のあり方、職員の意識向上について述べる。


はじめに

病院図書室とはいっても、当大橋病院図書室は東邦大学医学部図書館の分室なので、多くの病院図書室のなかにあって、もっとも恵まれた図書室のひとつではないかと思う。資料やレファレンスの面では本館の強力なバックアップに頼れるし、図書館の相互協力でも医学部図書館同様の恩恵に浴することができる。医学図書館協会主催の研修会にも参加できるし、注意を払っていさえすれば、役に立つ情報を手に入れることもできる。女性職員二人ののんびりした雰囲気で、ともすれば鈍りがちな頭も月一回本館で行われる勉強会で適度な刺激をうけ、あらたな意欲とあせりをかきたてられもする。

こうした恵まれた環境にあるので、厳しい現実をまのあたりにしておられる多くの病院図書室の方にはまことに申しわけないのだが、病院図書室といえばそのいいところ、楽しいところ、便利なところの方がまず頭に浮かんでくるのである。とはいっても当図書室も病院図書室に共通する悩みを少なからずかかえていることも間違いないところだ。医学部図書館の分室とはいえ、日常の業務内容や職場の雰囲気は多くの病院図書室と似かよっているだろうと推測できるので、私としては医学図書館より病院図書室により親近感をいだかずにはいられない。お互いに話し合うチャンスがもてたら、さぞかし共通の話題、共通の悩みに花が咲くことだろうと思う。


1.最大のそしてどうにもならない欠点、それをいかに補うか。

蔵書が少ないということが病院図書室の最大の欠点である。利用者が必要な文献の何%を図書室で充足できているか、正確な教字はつかめていないがおそらく10%にも充たないのではないかと思う。利用者のもっとも望むこと、つまり必要な文献をすぐその場で見たいという要求に応じることができないのは、たいへん残念ではあるけれど、こればかりはどうにも仕方がない。それならばせめてできるかぎり早くその文献を入手するよう努力したいものだ。

幸い当図書室は医学部図書館の分室という恵まれた立場にあるので、複写申し込みをうけた文献は本館で所蔵しているものなら一両日で手に入る。また文献に関する問い合わせや図書室のレファレンス・ツールでは処理できない質問も、電話一本で片づけることができる。本館の複写能力に頼っているので本来なら小規模な図書室ではとても消化しきれない量の文献複写申し込みにも応じることができる。これは、言葉につくせないほど、ありがたく恵まれたことである。

本館への複写依頼は、図書室を支える一方の大黒柱であるが、もう一方の大黒柱は、相互貸借申し込みである。これは本館申し込みよりやや少なめだが、表2にみられるように共にめざましい伸びを示した。現在も増加の一途をたどっている。この伸びを支え、かつ、うながしているのは、くりかえし言うようだが、本館の後だてと各医学図書館の協力につきるといってよい。病院図書室は何ごとにつけても援助なしではまことに心細くたよりない存在で、医学図書舘のめざましい進歩のシッポについてゆくことさえできないのである。


2.病院図書室は窓口である

手持ちの蔵書ではとうてい利用者の要求を充たすことができないとなれば、病院図書室としてはずうずうしく居直るほか方法はない。つまり徹底して他館のお世話になろうという覚悟を決めることである。そうと決まれば、我が図書室も大医学図書館も、持てる力は同等、(つまり他人のものは自分のものというわけ)になり利用者の申し込みにも、そのほとんどに自信を持って応じることができる。国内にない文献は国外に頼める。したがって申し込まれた文献の99%まで確実に手に入るとみてよい。

小さな図書室はその業務のすべてにおいて窓口となる以外に存在してゆく道はないというのが私の考えであるが、この窓口というやり方に徹底すれば、文献複写以外にもさまざまなサービスが可能になってくる。小図書室の最もいいところは大図書館のようにサービスの範囲を厳しく限定しなくてもよいという点かもしれない。むろんこうしたサービスは、やり方によってはやっかいな問題をひきおこすこともある。しかし反面、実に楽しい心のこもったサービスができるということでもあるのだ。おそらくこのあたりの事情は病院図書室勤務の方ならすぐにわかっていただけることと思う。

ただしこうした情報屋あるいは時には便利屋のような図書室のサービスが、行きすぎず、けじめをもって行われるには、利用者の図書室に対する正しい認識と、相互のコミュニケーションが必須条件である。幸い図書室は利用者が大図書館ほど多くはなく、ある程度固定した利用者を相手にしている。したがって、利用者が何を望んでいるかを判断するのも比較的容易なわけで、その場に応じた臨機応変の処置も可能になってくるのである。


3.病院図書室におけるレファレンス

窓口になれ、としきりに強調はしたものの図書室はなんでもかんでも聞かれてそれに答えていればよいというのではやりきれない。文献複写申し込みに応ずるのは当然としても文献探索の手段は、利用者に心得ておいて欲しいものである。図書室としてはそのあたりのPRはおこたりないようにしたい。それにつけても残念なのはレフアレンス・ツールの不足である。これはスペース、予算ともに乏しい病院図書室の共通の悩みであろう。しかしこればっかりは他館のお世話になるわけにはいかない。諸事情のゆるせる範囲内でがまんするほかはないが、たとえそうした便利なツールを持つことができなくてもその存在は知っていたいものだ。折あらばどこかの図書館で現物を目にし手にとって、くやしい思いをかみしめておくのはいいことであろう。

さて当大橋病院図書室におけるレファレンス・サービスの1例として“特定主題文献サービス”をあげたいのだが、残念ながらまだ正面きって実施していると言えるほど業務として定着はしていない。本格的に行うには職員の能力不足・人員不足といった状況である。片手間に実施しているにすぎないのだが、それでも当図書室のレファレンス・ツールではとうてい間にあわず本館の助けに負うところが多い。医学中央雑誌は昭和41年から所蔵しているので、まあまあとしても、Cumulated Index Medicus(CIMと略す)のないこととExcerpta Medicaの所蔵タイトルの少ないことはなんとしてもくやしい。Index Medicus(IMと略す)は1961年から現在まで継続して所蔵しているが、できることならそっくりCIMととりかえたいものである。

医学図書館でIMとCIMをどのように使い分けておられるのか興味があるのだが、当図書室では圧倒的にCIMの需要度の方が高い。そうはいっても実際手元にないものは仕方がないので、現状では年度と件名標目、またあれば副標目を指定しその部分のCIMの複写を本館に依頻している。これは利用者にはたいへんありがたがられている。しかしこのサービスが増加すると、本館にとってはかなりの負担になるわけで、こうした事情も本格的に実施できない要因になっている。

Excerpta Medicaについて言えば、従来当図書室で購入しているのは5タイトルのみでありそのバック・ナンバーもはなはだ乏しい。したがって現在図書室でこれをつかう利用者はごくまれである。これはCIMのようにコピーでは間にあわず、どうしても現物にあたらなければならないので、必要な場合は本館から借りるという手段をとっているが、一冊ですむというわけのものではないのでやっかいである。手元にあればと思わずにはいられない。

こうした不便をいくらかでも解消しようと当図書室では来年(昭和52年)より思いきってIMをCIMにきりかえることにした。IMの利用者もいないわけではないが、両方を購入するというゼイタクはとても許されず、スペース的にも無理なので、毎月最新の文献に目を通していたIM利用者には、また別の手段を講じてご勘弁願うことにしたい。また新規購読雑誌の数をけずってExcerpta Medicaをさらに8タイトル増やすことにした。加えるタイトルについては利用の多いと思われるものを最優先とした。


4.レファレンス・ツールを作ろう

乏しい予算とスペースしかもたない病院図書室が乏しいレファレンス・ツールしか持てないのは残念ながら仕方がない。それならばせめて手もちの蔵書だけでもフルに活用できるような工夫をしたいものである。当図書室でもその試みはこれからというところだが、実施しているものの中で好評なのが「和雑誌特集記事索引」である。当図書室ではカード式で行っているが、最近、順天堂大学図書館の例にならって過去6年間のものをまとめて冊子にした。これは他の病院へ出張している医師や図書室でカードを見る時間のない利用者の便宜をと考えたものである。ひんばんに使う雑誌の目次をコピーして製本しておくのもいいと思う。レファレンス・ツールとまではいかなくてもちょっとした工夫で文献探索がはるかに便利になるようなこともある。たとえば医学中央雑誌に色分けの区別をするとか索引の科目別早見表を作るとか。配架見出しや案内表示も広い意味のレファレンス・ツールといえる。

ちょっとした工夫やアイディア−こうしたものは、大体において女性の方が得手なものであるが、意外なほどの効果をあらわすのが病院図書室の楽しいとこである。病院図書室に勤務するものとしては、めざましい医学図書館の発展にはぐれずついてゆく努力はもとより、それとはまた別に何か役に立つ情報はないか、役に立つ道具はないか、真似の出来そうなことはないかと注意深くかつ貪欲に目を光らせている必要がある。


5.病院図書室における蔵書構成について

病院図書室においては、蔵書・スペース・予算と三拍子そろって不充分である。そこで収集する書籍・雑誌についてはなおさら細かい配慮が必要となる。収集基準をどこにおくかは難しい問題で図書室それぞれの事情によって異なってくるだろう。当図書室に関していえば、基準というほどの一貫したものではないが、レファレンス・ツールを可能な範囲で収集すること、利用度の高い資料を優先すること、この二つの方針がある。利用度の高い資料を優先していると蔵書構成が片寄ってくるきらいはあるが、それは仕方のないことだし、むしろ当然だとも思う。各病院ではそれぞれ診療科目も違うし医師の研究テーマも違う。図書室でつかわれる資料もおのずと片寄ってくる。その片寄り具合に図書室もある程度まで合わせてよいのではないだろうかと考える。むろん・従来の蔵書との一貫性を考慮に入れなければならないが、そればかりにこだわると、蔵書以上に貴重なスペースがあまり活用されない資料で占められることになる。

レファレンス・ツールはなんとしても欲しい。これは、利用者と図書館員の資質をともに高めてくれるものだから。むろん活用出来そうなものを注意深く選択する必要はある。

予算の少いこと以上に頭の痛いのがスペースの問題だ。蔵書は増やしたいがスペースがないという例も多いだろう。当図書室も目下それで悩んでいる最中である。簡単に片付く問題ではないし図書室独自で解決できることでもないので頭が痛い。

おわりに

病院図書室に勤務していると、ある時には「この程度ならいいだろう」と思い、またある時には「こんな程度じゃだめだ」とも思う。井の中のカワズも時として胸さわぎを感じるのである。しかしこの胸さわぎは静めないでおこう。井の中のカワズで満足しないで、時おり飛び上って外界の広さを目にし意識向上をはかる努力を忘れないようにしたい。

最後に、この誌面をお借りして、日頃ひとかたならぬお世話になりご迷惑をおかけしている各医学図書館相互貸借係の皆様に深く感謝いたします。

表1

図書室職員数 2人
図書室総延面積 97平米
蔵  書  数 4300冊
受入雑誌数 208誌(洋113,和95)
開館時間 平日:午前9時〜午後6時
土曜:午前9時〜午後3時
複写機・スライド作成機 ゼロックス1000型、パナコピー


表2

年度 昭和49年度 昭和50年度
開館日数  287日  296日
入館者 年間総数 7257人 8718人
1日平均   25人   29人
貸 出 利用者数  517人  737人
利用冊数  727冊 1016冊
1日平均冊数  2.5冊  3.4冊
文献複写 学外複写申込件数  687件 1167件
本館複写申込件数  831件 1368件
大橋図書室複写件数 3729件 4673件
大橋図書室複写枚数 63872枚 86271枚