ある医学図書館員の軌跡
いのちジャーナル No.46 1998.4


笑いと治癒力
ノーマン・カズンズ 著 松田 銑 訳
岩波書店 1966 (同時代ライブラリー261)
Anatomy of an illness:as perceived by the patient., by Norman Cousins
W. W.Norton & Co. 1979



とにかく元気が出る本である。入院する時持っていく本の第一候補に上げたいと思う。近藤誠は「闘うな」と言ったが、この本を読むと闘う勇気が湧いてくる。著者のノーマン・カズンズは「サタデーレビュー」の編集長を30年間勤めた著名なジャーナリスト。日本では、1956年「広島の原爆乙女」25人をアメリカにつれていき、形成外科を受けさせたことで知られている。

この本はカズンズの「膠原病回復記」である。専門医から回復の見込みは五百に一つと聞いたカズンズは、その一人になる意を決する。この闘いにおいて彼は自らが司令官になり、関係資料を調べあげ、戦略を練る。彼が選んだ回復計画は奇想天外だった。一つは炎症を止めるためのビタミンC大量投与。そしてもう一つが体内の化学作用増進法としての「笑い」である。彼は治療の最も不適当な場所だった病院を離れ、自由と十分な栄養が確保できるホテルに移り、二つの計画を実行に移す。そしてみごと死の淵からの生還を果たすのである。主治医はカズンズの生への意欲と精神力を信じ、前例のない治療に目を丸くしながらも、よき協力者であり続けることによって、カズンズを励ます。

読者の性急な誤解を恐れたカズンズは12年後の1976年にやっと New England Journal of Medicine という権威ある医学雑誌(この雑誌に医学の専門家以外の論文が載ることはほとんどない)にこの時の体験記を発表した。さらに現代医学への省察と提言を書き加えて1979年に出版したのがこの本である。内容は古いどころではない。笑いによりNK細胞が活性化したという実験結果が日本で発表されたのも、患者が主役の医療が叫ばれ出したのも、最近のことである。