ある医学図書館員の軌跡
全国患者図書サービス連絡会会報 Vol.7 No.4 (2001.4)



『患者さんへの図書サービスハンドブック』刊行に寄せて

(全国患者図書サービス連絡会 編 発行:大活字 発行:2001.4 3500円)

カラダが傷つくとココロも傷つきます。病院に入院すると、カラダの方は、24時間、監視つきでめんどうをみてもらえます。でも、傷ついたココロの方は、たいていの場合ほったらかしです。身ぐるみはがれ、病室に閉じ込められたココロは、なかなか本来の自分を取り戻すことができません。幼いこどもたちならお気に入りのぬいぐるみを抱きしめるでしょう。大人でも「お気に入りの本」がそばにあったら、なぐさめられるのではないでしょうか。

入院生活において本は必需品です。普段から書店や図書館になじんでいる読書好きの人にはなおさらでしょう。私の父は終戦直後、短い期間でしたが、本を売り歩く商売をしていました。国立病院の患者さんたちが一番のお得意様で、文学書や哲学書のようなかたい本がよく売れたと話していたものです。

『患者さんへの図書サービスハンドブック』の序章で、初めて患者さんに本を届けるサービスが行われたのは1962年、名古屋市立大学病院においてだったことを知り、ずいぶん長い歴史があるのに驚きました。このような地味な活動が綿々と続いていることに感動しました。関わってこられた方々に対する感謝と尊敬の気持ちを伝えたいと思います。

私は病院図書室司書なので、「患者さんへの医学情報の提供」にとりわけ関心があります。このサービスを実践している京都南病院をはじめとするいくつかの病院をたいへんうらやましく思っている者です。しかしながら、このサービスが「思い」だけで実現するものではないことを、このハンドブックの事例が教えてくれます。一般書のサービスを長く続ける中から、また地域の医療従事者への情報提供サービスを通して、病院主体の「患者さんへのサービス」に成長していったのです。

」司書、医師、看護婦、医療ソーシャルワーカー、栄養師、薬剤師、病院ボランティア 等、さまざまな人々の参加が、このサービスを成功させる決め手となっていることがわかります。本書の発行も公共図書館員、医学図書館員、病院図書館員、医師、大学教員、病院職員、病院ボランティアなどさまざまな人々の参加を得て実現しています。患者側からの強烈なメッセージも掲載されています。

本書の全体は次の5つの章から成っています。@市民ボランティアによるサービス A病院主導型サービスB公共図書館の外部サービス C小児病棟でのサービス D医学情報サービス。明快なわかりやすい分類で、それぞれによく整理された解説とたいへん参考になる事例がついています。これからはこの5つのサービス同士のつながりが模索されていくのでしょうか。

また、今後の展開にインターネットが大きな役割を担うであろうことがいくつかの文中で示唆されています。本書はこれまでの地道な活動成果の証であると同時に今後のサービスの展望を考える上で欠かせない一冊となるでしょう。このようなテーマで書かれた最初のハンドブックであることの意義は極めて大きいと思います。まさに画期的な本書の出版を心より歓迎します。