患者図書室挑戦の記録
にとな文庫通信 No.14 (2011.1)


千葉県がんセンター「患者サロン」誕生秘話

よっちゃん(患者サロン世話人)

33歳になった年の10月、私は子宮頸がんを告知されました。11月末に千葉県がんセンターに入院し手術をしました。告知から手術までの期間、両親はとても心配していましたが、私自身は読める限りの本を読み、インターネットで病気に関する情報を集め、主治医の先生には笑われそうですが、自分で自分の治療計画まで立てていました。

私は今、千葉県がんセンターで毎月第4週木曜日に開催されている「患者サロン」の世話役をさせていただいています。それはある出会いがきっかけでした。 不安でいっぱいだった入院初日に同じ病室で私の向かいのベッドのHさんとお話することができました。同じ病気でしたが、ステージが上で痛みもあり入院生活は辛そうでした。でも、私には明るく接してくださいました。
そのHさんが「仕事も辞めてしまって、治療中だから再就職も難しい。でも何か活動がしたい。何か自分が患者さんの役に立つような、そういうサロンを作りたい」と言われました。Hさんの希望を私が代行してアンケートに書きました。それを読まれた主治医の先生から声を掛けていただいたことが「患者サロン」に関わったきっかけです。

「患者サロンの世話役はHさんにお願いしよう。元気になられたら活躍してもらおう」と思っていた私でしたが、そのうちに「そういう会があれば、闘病中も少しは楽しく過ごせるのではないか、仲間がいることで元気になるのではないか」と考えるようになりました。なによりもHさんを励ますために患者サロンを作りたい、と思いました。2009年7月「患者サロン第1回」が開催されました。その席に患者サロンを楽しみにしていたHさんの姿はありませんでした。その数ヶ月前に患者サロンの準備中にHさんは亡くなったのです。お昼時にお弁当を買って再入院したHさんを訪ね、病室で一緒にランチを食べたほんの2週間後のことでした。 

経験もない、前例もない、マニュアルもない、そういう状況の中でピアカウンセラーの野田さん、斉藤さん、患者相談支援センターの皆さんたちに相談しながら、何とか形を作りあげました。
現在、毎月1回、順調に開催を続けることができています。5名に増えた世話役のほかにも毎回早く来て案内表示を貼ったり、チラシを配ったりと手伝ってくれるたくさんの仲間がいます。月に一度みんなの顔を見ることで元気になれます。  一方で、患者サロンの活動はセンターの様々な職種の皆さまの支援と協力に支えられています。センター長の中川原先生、前センター長の竜先生、栄養士の上野さん、ステキな音楽を聴かせてくださる音楽療法士の長島さん、臨床検査技師の田口さん、患者図書室「にとな文庫」の下原さん… そのほか、応援してくださるすべてのみなさまにこの場を借りて感謝申し上げます。

患者が病院長や先生方のお話を伺えること自体がとても貴重です。中川原先生や竜先生のお話から、私たち患者に対する真剣な思いが伝わり、その実感が治療への活力に繋がりました。現在、サロンは外部の取材等はなるべくお断りすることで患者さんのプライバシーを考慮した形で運営できています。私の罹った「子宮頸がん」はやや偏見の多いがんです。がんになったことを自己責任だと言われてしまうのは本当につらいことです。本人だけではなく、家族にとってもつらいことです。現在、私は「隠れがん患者」として日常を暮らしています。病院で知り合いに出会ってしまったら、「知人が医師なので診てもらっているの」と嘘をつくと思います。がんについての考え方が人それぞれであるように患者サロンへの期待もいろいろでしょう。私自身は、気持ちよく参加できて、心の拠り所にもなるようなサロンを望んでいます。世話役のバトンが引き継がれながら、これからも細く長く続いていって欲しいと心から願っています。