患者図書室挑戦の記録
にとな文庫通信 No.20 (2012.6)


人生の最後に聴きたい曲は?

長島 律子(音楽療法士)

「人生の時々を彩った音楽は、その人生を鮮やかに蘇えらせる…」私はこの言葉がとても好きです。精神科の音楽療法士だった私が千葉県がんセンターで働き始めて早6年。多くの患者さん・ご家族との出逢いと別れ、たくさんの語りきれない想い出があります。楽曲のリクエストと共に、素晴らしいメッセージを遺された患者さんの想い出のいくつかをご紹介します。

♪君は愛されるため生まれた[イ・ミンソプ/作詞作曲]
韓国籍の40代女性。長い入院生活の中で、たびたびリクエストされていたのがこの曲でした。面会者を交えて母国語で歌われることもありました。最後はベッドを囲んだご家族やご友人たちが歌うこの曲の大合唱を聴きながら旅立たれました。病室に伺った最後の日、抱き合ってお別れしました。そのとき「この歌が私の闘病を支えてくれました。日本でも多くの人々に知って欲しいと思います」と言われました。その言葉が鮮明に心に残り、今でも多くの場で奏で歌っている、私にとって大切な一曲です。

♪おまえに[フランク永井]
「妻に感謝の思いを伝えたいけど気恥ずかしくて…」という70代の男性。“そばにいてくれるだけでいい”という歌詞に乗せて今の気持ちを妻に贈りたい」そう言って奥様の面会時間に合わせたサプライズのリクエストでした。奥様は号泣され、「夫からの最高のプレゼントです。いつまでも大切にします」と言われました。ご主人の粋な演出により、心を揺さぶられる素晴らしいひと時でした。今でもこの歌を聴いたり奏でたりするたびに、ご夫婦とあのひと時を想い出します。

♪糸[中島みゆき]
50代女性。「 “縦の糸はあなた 横の糸は私”という歌詞が好きです。出会いへの感謝を込めて主人にこの曲を贈りたい。息子の結婚式でも流れた思い出深い曲でもあります」そう言って毎回この曲をリクエストされました。ピアノ・フルート・チェロ・コーラス等、演奏協力者の下で毎度違ったスタイルで奏でましたが、何よりも最高の贈り物となったのはご家族とお身内お揃いでの大合唱でした。皆が涙され、「ありがとう」の言葉が部屋中に飛び交いました。この素晴らしい場にご一緒させていただき、音楽療法士として人としてこの上ない幸せを感じました。

♪我が人生に悔いなし[石原裕次郎]
この曲は私の父の最後のリクエスト曲でした。「全編が俺の思いだ!」と感じ、最後のときを迎えてこれまでの人生を振り返りながら聴いていたのでしょう。“長かろうと短かろうと 我が人生に悔いはない”この歌詞を聴くたびに熱い想いがこみ上げてきます。一方で、心が奮い立ち、新たな息吹を感じるのです。父と私を繋ぐ、忘れられない大切な1曲です。

これまで出逢った多くの患者さんとそのご家族の方々に心からの感謝を捧げ、「ありがとう」の言葉を贈ります。