患者図書室挑戦の記録
にとな文庫通信 No.26 (2013.6)


にとな川柳  Yasuko


死ぬ覚悟 あるけど治療の 覚悟まだ

変化なし 買い物三昧 ダイソーで

まないたの コイには説明 聞こえない

長い眼で 見れば誰もが 死刑囚

親のがん 頼りない子が 変身し

がん細胞 手なづける技 ないものか

ぼうふらに 悩みを語る がん患者

「がんばって」 互いに交わす 初対面

幼い子 だっこどころか 荷物持ち

じっくりと 医者と生きがい 語りたい

効き目あり ウソでもいいから 言われたい

がんばった そう思える日が きっとくる

きょうもまた きばらしみつけて 生きていく

一瞬の 視線でわかる ウェルカム

病室が にわか県人会で 盛り上がり

身も蓋も ない話だからこそ 盛り上がる

権力も カネでも買えない 患者力

キャリーバッグ 海外旅行と ごまかして





追加(2017.5)
典拠:『悪魔のささやき医学事典』稲田英一編 メディカルインターナショナル 1996

はいく[俳句]haiku
5・7・5の計17文字で情緒的表現を行う文学のジャンル。長い文字を書くのが面倒な人が好んで詠む。日本麻酔学会総会で発表された優秀作から。(正岡死期)

動脈の 細きに泣きて カテ入らず

血液を あつめて早し 動脈瘤

ヘボ外科医 メスは東に 血は西に

研修医 そこのけそこのけ 教授が通る

防衛大 負けるな一佐 ここにあり

分け入っても 分け入っても 脂肪層

おもしろうて やがてかなしき 手術かな

出血で ベッドによこたふ 胃潰瘍

ケタミンで 夢は枯野を かけめぐる

めでたさも 中くらいなり おらが定年

点滴を とってくれろと 泣く子かな

いくたびも 傷の 深さを 尋ねけり

出血の 十四五リットルも ありぬべし

ホスピスの 死にどころなく 歩きけり

咳の子の 手術キャンセル きりもなや

指つなぎ 糸をめぐりて 夜もすがら