ある医学図書館員の軌跡


(2016年1月のHP公開資料による)病院機能評価の図書室に関する項目の変遷
「図書館司書の勉強部屋」のブログ「司書のひとりごと」より転載。

2016年1月8日、medlib-j(医学図書館、医学・医療情報の情報交換ML)で、「近年、公共図書館の注目度は上がってきていますが、病院図書室・患者図書室の評価はどうでしょうか」という問いかけをしました。併せて「病院機能評価の図書室に関する項目の変遷」についてざっとまとめたブログの書き込みを紹介しました。現在、このブログの主は図書館の職場から離れていますが、許可をいただいて転載します。最後に2018年現在の追記を加えました。(2018.8.8 下原康子)

病院機能評価の図書室に関する項目の変遷を調べてみる機会がありました。数年前のV5.0で脚光を浴びた図書室ですが、その後のV6.0ではまた陰に追いやられた印象がありましたが、実際、調べてみると・・・・。(ざっとですので、もし間違っている箇所がありましたら、コメントにてご指摘いただくか、もしくは温かく見守っていただければ幸いです)。

まず、病院機能評価の項目は、日本医療機能評価機構のHPで、1997年のV2.0からダウンロードできます。

図書室の条件は、専任の管理責任者がいること、雑誌を買っていること、図書の一元管理と分類整理、定期的な広報、文献検索と入手、利用の便宜というのが主な項目です。全体的な位置づけとしては、「3 診療の質の確保」の下の「3.3医師の教育・研修」の項目と同列で「3.4 図書室の機能」という項目として独立しています。

2002年のV.4.0になると、項目自体に変化はありませんが、補足的に詳細な記載があります。ここでは担当者に「司書の配置が望ましい」となっています。また、24時間閲覧体制が明記されたのもこの時なのでしょう。図書室という存在が注目され始めている感じがします。

そして迎える2005年、V5.0。ここでは「医療提供の組織と運営」の分野として診療部門や薬剤部門と同列です。内容もかなり詳細です。司書設置の条件こそ明記はないものの、予算確保や文献検索の費用、図書委員会の設置等が要素に挙げられ、図書室の運営について、病院が積極的な姿勢になるよう促すような内容です。この時期は、EBMや診療ガイドラインの存在が大変もてはやされた時期でした。より信頼できるエビデンスをいかに効率的に入手できるかが、診療の質を左右する、というようにも捉えられていたのだと思います。図書室の存在は、一気に格上げとなりました。

ところが急激なEBM熱の冷却と同時に、図書室がつかの間に浴びたスポットライトも急激にワット数を下げています。2009年のV6.0では図書室は3桁の項目列からもはずされ、職員研修の項目の下位に位置づけられています。職員の学会活動や研修計画などと同列です。さらには驚いたことに、24時間体制のみならず、専任担当者の設置についての記述もどこかえ消えてしまいました。

そして2012年の3rdG:Ver.1.0。全盛期V5.0の頃に比べると歴然です。「4.3 教育・研修」の下の「4.3.1 職員への教育・研修を適切に行っている」の中にある5つの要素のうちのひとつに「必要な図書等の整備」とあり、「図書」が登場するのはたったこの一文のみです。「図書室」の記述すらありません。

もっとも、項目からはずされてしまったのには、このVer.から全体的な構成が大幅に変わったことも理由にあります。それまでは各項目は8つの大きな領域に分類されていましたが3rdG:Ver.1.0では領域数が4つに減っていますので、図書室に限らず全体的に項目数を減らしたのかもしれません。それしても「必要な図書等」だけで「図書室」の記載そのものが消えてしまうとは驚きです。

2015年4月の3rdG:Ver1.1になっても、図書室についての記載が増えることはありませんでした。追補版のVer1.1解説集に細かい解説が載っていましたが、「図書室機能は重要であり」「図書室の設置が求められる」と、ここでようやく「図書室」が登場します。ただし担当者の設置に対しては記述なし。また、文献入手については「インターネットを含む情報機器」とだけあり、他の大学や病院との連携、つまりILLについても触れていません。また2015年4月30日版の「よくいただくご質問」のなかで「160床病院の場合、図書室の機能としてはどこまで必要でしょうか」との質問に「どこになにがあるのか、情報がすべての職員に周知されていればよいです」との回答。

V5.0からV6.0への変化は、独立した項目がなくなったというだけではありません。V5.0までは、図書室は診療の質を支える、縁の下の力持ちのような存在として扱われていました。しかし、V6.0ではあくまで「職員教育」の域を出ていません。もちろん遠まわしには診療の質につながるものですが、直接的に診療内容を左右する存在ではなくなったのです。臨床の現場で判断に困った医師が、図書室で文献を調べて治療方針を決める、といようなことはもうなくなったということでしょうか。それとも、オンライン化の進んだ現在では、図書室がなくても情報の入手に支障がないということでしょうか。

とはいえ、機能評価の内容だけで病院図書室の存在価値を決めてしまえるわけでは、もちろんありません。病院図書室が全く必要とされていないわけじゃなく、医師やコメディカルの方たちはやっぱり有難く利用してくださっているようです。需要はゼロではないわけです。

ただ「どのくらいの予算でどのくらい利用されていれば図書室として診療・病院経営に貢献していると言える」といった指標がないのが難しい所。費用対効果が出しずらいので、一般的にどのくらいの予算が妥当なのか、明確な答えが出せる人はいません。看護ではケアの優先順位は、生命の危機により関係するものをより上位にするようですが、そこからすると図書室はどこに位置するのか、判断する人(利用する人しない人)によってかなり順位は変わるでしょうね。

時代の移り変わりかもしれませんが、これからの病院図書室、一層肩身が狭くなるのではと危惧されます。せめて、「図書室に担当者を配置する」くらいは残してくれればよかったのに、と私は思うのですが・・・。

追 記
2018年8月現在、病院機能評価項目の最新は2018年4月の3rdG:Ver2.0です。図書室に関する箇所(4.3教育・研修の[評価の要素])の中で、3rdG:Ver1.1(2015.4)と比べて2つの変更がありました。まず「必要な図書等の整備」が削除されました。次に「教育・研修効果を高める努力や工夫」となっていたのが「教育研修に必要な情報提供の仕組みと活用」に変わっていました。情報提供機能さえあれば、場所・資料・人は必須ではない。つまり図書室はなくてもかまわない、となったようです。しかしながら、これによって現場で働く病院図書室司書たちの意欲がそがれることはありません。日々の仕事を通して「役に立てた」という実感を重ねながら、やりがいを見出しています。病院機能評価受審記録(平成28年度)(2018.8.8 下原康子)